IN BRAND · ISSUE 345
● 12 SEC看板、包み、返信の文面、人づての評判。客が触れるところを一つずつ良くしていけば、体験は一貫して揃う——見せ方の相談には、たいていこの順番が付いてきます。
この号が見るのは、磨き方ではありません。その順番が、どこまで確かめられているかのほうです。どの接点をどう磨けばよいかは、書きません。
接点(タッチポイント)とは、客がブランドと出会う一つひとつの場——看板・店頭・電話・包み・ページ・第三者の評——のことです。それを時間の順に並べた道筋がカスタマージャーニー、通り抜けたあとに客の側へ残る全体の受け取りが顧客体験(CX)です。
2016年にマーケティングの専門誌へ出た枠組みは、接点を持ち主で四つに分けました——“We identify four categories of customer experience touch points: brand-owned, partner-owned, customer-owned, and social/external/independent.”(私たちは顧客体験の接点を四つの範疇として見いだす。ブランドが持つもの、取引先が持つもの、客が持つもの、そして社会・外部・独立のものである)。

この四つのうち、ブランドが設計して管理し、自社の統制下にあると書かれているのは、一つ目だけです。二つ目は取引先との共同で、三つ目と四つ目には、別の書かれ方がしてあります。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは3点で、2点は公開されている要旨まで、1点は本文にも要旨にも届いていません。読めていないものについては書きません。
01客が持つ接点——影響も統制もしない、と定義されている。同じ枠組みは、三つ目をこう定義します——“These touch points are customer actions that are part of the overall customer experience but that the firm, its partners, or others do not influence or control.”(これらの接点は、全体の顧客体験の一部でありながら、企業も、その取引先も、他の誰も、影響を与えも統制もしない客の行為である)。挙がる例は、購入前に自分の要りようを考えること。
02社会や外部の接点——他の客、周りの影響、独立した情報源。四つ目は、体験における他者の役割を数え入れる範疇です。原典が例に挙げるのは、他の客、周囲からの影響、独立した情報源、そして環境。同じ論文は四類型を説明したあと、自分が持つか影響できる接点と、まったく、あるいはほとんど影響を及ぼせない接点とを分け、後者として三つ目と四つ目を並べて名指しています。
03取引先が持つ接点——共同で設計し、管理する。二つ目は、企業と一つ以上の取引先が共同で設計・管理・統制する接点です。頼めはしても、丸ごと握ってはいません。四つのうち、統制下にあると書かれているのは一つ目だけで、残りの三つは、共同か、その外側に置かれています。

ここまでの枠組みは、「一つずつ磨けば揃う」を測ってはいません。それでも、見せ方の相談では次の三つの言い方が、当たり前のように出てきます。
01「全部を洗い出せば、あとは磨くだけ」2009年に小売の専門誌へ出た論文——既存の文献を概観して概念モデルを立てたもので、効果を測った実験ではありません——は、こう書きます。“…but also by elements that are outside of the retailer’s control (e.g., influence of others, purpose of shopping).”(小売業者が統制できる要素だけでなく、その統制の外にある要素——他者の影響、買い物の目的など——によっても作られる)。
02「一つずつ良くすれば、合計で体験が良くなる」2024年に出た概念論文——実証のデータは持ちません——は、区切り方そのものを問い直しました。“The customer experience literature divides customer journeys into stages, but these divisions disregard the customer’s perspective.”(顧客体験の文献は道筋を段階に分けるが、こうした区分は客の視点を顧みない)。売り手が引いた線と、客が覚えている区切りは、同じ場所にあるとはかぎりません。
03「体験の管理は、接点を整える作業だ」2017年にマーケティング学会の専門誌へ出た研究は、顧客体験の管理に取り組む52名のマネジャーへの質的な現地調査と文献を統合し、それを一枚の作業表ではなく、体験を作り直し続ける組織の側の能力として位置づけました。標本は52名の語りで、効果量は報告されていません。

いちばん手前の一本に、届いていません。2024年に観光の専門誌へ出た研究は、題名のとおり接点の概念化と指標の開発・検証を行ったものですが、この号が読めたのは、同じ著者の学位論文の公式要旨までです。そこには、接点を定義し概念化する研究が宿泊と観光の分野では限られている、と著者自身が書いています。この研究が接点を何側面に切ったかは、読めた範囲では確認できていません。
場面も置いておきます。学位論文の要旨が印字するのは“hotels and restaurants were selected as the study context”(調査の場面としてホテルとレストランが選ばれた)まで。接点一般の話として確かめられたものではありません。
分野の側も、用語をなお作っている途中です。2020年の提案は“drawing from an inductive analysis of 143 CX(M) papers, the authors identify twelve basic CX components which aggregate into three overarching building blocks”(143本の論文の帰納的分析から、12の基本的な構成要素を見いだし、それらは3つの大きなまとまりに集約される)と書きます。この号は、どの接点をどう磨けばよいかを書きません。
四つに分けた枠組みのうち、
まるごと握れるのは、一つ目だけ。
だから、最初にできるのは、一覧を作って端から磨きにいくことではありません。いま自分が触れられる接点と、触れられない接点の境目を、手元で一度だけ引いてみることです。境目が見えないままだと、届かない側を握ろうとして疲れます。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日の日付を書き、自分の商いで客が触れる接点を思いつくまま書き出す。看板、名刺、ページ、包み、返信の文面、人づての評判など。
- 02MARK
一つずつに、自分で直せる接点には〇、客や外の側にあって自分では直せない接点には△を付ける。良し悪しは判定しない。
- 03COUNT
△がいくつ付いたかを数えて書き添える。それが「全部」の中の、手の届かない数です。
この号は、接点の磨き方を、ひとつも書きませんでした。書けたのは、四つに分けた枠組みのうち統制下にあると書かれたのは一つ目だけで、三つ目と四つ目は、企業がまったく、あるいはほとんど影響を及ぼせない側に並べて置かれている、というところまでです。
一覧が長くなるほど、握っている手ごたえは強くなります。けれど読めた範囲で確かめられているのは、その一覧に、はじめから手の届かない行が混じっている側のほうでした。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「触れる接点を磨くには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
