IN BRAND · ISSUE 343
● 12 SEC「まず名前を思い出してもらうこと。挙げてもらえる人が増えれば、選ばれる回数も増える」——想起の話は、たいていこの順番で語られます。
この号が見るのは、想起の上げ方ではありません。その順番のほうです。想起率の上げ方を書く号ではありません。
想起には二つあります。手がかりなしに名前が出てくるのが純粋想起、名前や品を見せられて「知っている」と分かるのが助成想起です。最初に挙がることを第一想起と呼びます。
1990年にマーケティングの専門誌へ出た論文は、広く観測される一つのパターンを整理しました。その要旨はこう書きます——“In any given time period, a small brand typically has far fewer buyers than a larger brand. In addition, its buyers tend to buy it less often.”(ある期間をとると、小さいブランドは大きいブランドより買い手がずっと少ないのが普通で、そのうえ、その買い手は買う回数も少ない傾向がある)。

大きいブランドは買い手も多く、買う回数も多い。ここから「想起や好意も、ブランドの大きさと一緒に動いているのでは」という読みが出てきます。ただし、読めた要旨が数えているのは、買い手の数と買う回数の二つまでです。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは0点で、4点は公開されている要旨まで、2点は題名と書誌までです。読めていないものについては書きません。
011990年の要旨——数えられているのは、買い手と回数。ある期間をとると、小さいブランドは大きいブランドより買い手がずっと少なく、その買い手の買う回数も少ない。要旨が並べているのはこの二つで、標本の国・分野・期間・ブランド数も、効果の大きさも書かれていません。想起や好意まで同じように動くという記述は、読めた要旨の範囲には見当たりません。
022004年の論文——目立ちやすさを、定義し直した。目立ちやすさ(salience)を最初に挙がることと同じ意味に置くのは狭すぎるとして、“the brand’s propensity to be noticed or come to mind in buying situations”(買う場面で気づかれる、あるいは思い浮かぶ傾向)と置き直しました。それは買い手が持つ記憶のつながりの量と質を映す、とも書きます。これは概念の提案で、効果を測った研究ではありません。
031993年の論文——記憶の側から、価値を定義した。顧客ベースのブランド・エクイティを“the differential effect of brand knowledge on consumer response to the marketing of the brand”(ブランドの知識が、そのブランドの売り方への客の反応に生む差)と定義し、ブランドの知識を、気づきとイメージという二つの部品から成る記憶の連想ネットワークとして組み立てました。こちらも概念モデルの論文で、実証の検証ではありません。

1993年の論文は、顧客ベースのブランド・エクイティが立つ場面を“the consumer is familiar with the brand and holds some favorable, strong, and unique brand associations in memory”(客がそのブランドをよく知っていて、好ましく・強く・独自のブランド連想を記憶の中に持っているとき)と書きます。独自性が、記憶の側の条件に入っています。
一方、2007年にオーストラレーシアのマーケティングの専門誌へ出た論文は“Our research challenges the central importance of differentiation to brand strategy.”(私たちの研究は、ブランド戦略における差別化の中心的な重要性に疑問を投げかける)と書き出します。どちらが正しいかを、この号は決めません。
01「想起率を上げれば、選ばれる」読めた範囲に、想起率だけを上げたら選ばれる回数が増えた、と測った研究はありません。1990年の要旨が整理したのは、小さいブランドほど買い手が少なく、その買い手の買う回数も少ないというパターンで、上げたら何が起きるかを測ったものではありません。
02「第一想起が取れていれば大丈夫」2004年の論文は、目立ちやすさを最初に挙がることと同じ意味に置く従来のとらえ方を狭すぎるとして、買う場面で思い浮かぶ傾向へ定義を広げ直しました。ただし、広げた定義のほうが選択をよく説明する、と測った結果は、読めた要旨の範囲にはありません。
03「差別化こそが要だ」2007年の論文は、競合するブランドの間で知覚された差別化の水準は低く、それでも客は買っていると報告し、代わりに“place distinctiveness at the centre of brand strategy - where a brand builds unique associations that simply make it more easily identifiable”(見分けやすさをブランド戦略の中心に置く——ブランドが、ただ見分けやすくするだけの独自の連想を築く場所に)と書きます。この論文自身が、正統な文献への異議として書かれています。

到達の層を先に書きます。全文まで読めたものは、ありません。4点は公開されている要旨まで、2点は題名と書誌までです。2004年に経営研究の専門誌へ出たディリクレ・ベンチマークの論文は、出版社が要旨を登録しておらず、確認できたのは題名・著者・巻号・頁まででした。2010年の一般書も、書誌までで章の中身は読めていません。
要旨の範囲そのものも狭いものです。1990年の要旨には、標本の国・分野・期間・ブランド数のいずれも書かれていません。2004年と1993年の論文は、どちらも概念の提案で、想起を動かしたら選択がどう動くかを測った設計ではありません。この号は、想起率の上げ方を書きません。
買い手がずっと少ないうえに、
その買い手の買う回数も少ない。
だから、最初にできるのは、想起率を測りにいくことではありません。どんな場面で思い出されたいのかを、自分の手で一つ書いてみることです。場面が決まらないうちは、上がった数字が何を指すのかも決まりません。
TRY IT TODAY
- 01DATE
今日の日付と、自分の商い(店・商品・サービス・自分の見せ方)を一行で書く。
- 02SCENE
思い出されたい場面を一つだけ、時と状況つきで書く。「急に贈り物が要るとき」など。
- 03CUE
その場面で自分を思い出す手がかりを一つ、脇に書き添える。置き場所・言葉・見た目など。
この号は、想起率の上げ方をひとつも書きませんでした。書けたのは、1990年の要旨が数えたのは買い手の数と買う回数の二つだったこと、2004年と1993年の論文が出したのは定義であって効果ではなかったこと、2007年の論文が差別化の中心的な重要性に疑問を投げたことまでです。
数字が上がったとき、上げたから高いのか、もともと高いから上がって見えるのか。読めた範囲は、その問いを閉じてくれません。閉じないまま、思い出されたい場面のほうを一つ決めておく。ここまでが、この号です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「想起される存在になるには?」を、もっと深く学ぶ。→