IN BRAND · ISSUE 342
● 12 SEC色を決める。言葉づかいをそろえる。写真の空気を作り込む。そうやって独自の世界観ができあがれば、他と違って見えて選ばれる——見せ方の相談には、たいていこの筋書きが付いてきます。
この号が見るのは、作り込み方ではありません。その筋書きに畳み込まれた二段——世界観が違いを生み、その違いが購買を生む——の、確かめられ方のほうです。世界観の作り方は書きません。
ブランド体験とは、デザインやしるし、包装、伝え方、店やページの佇まいに含まれる刺激が呼び起こす、感覚・感情・認知・行動の反応のことです。世界観という言い方は、おおむねこれを指しています。
2007年に市場研究の専門誌へ出た研究は、多くの商品分野と二つの国にまたがる実データを示しました——“there is a low level of perceived differentiation across competing brands. However, despite this lack of perceived differentiation, customers are still buying these brands.”(競い合うブランドの間で、知覚される差別化の水準は低い。しかしこの差別化の欠如にもかかわらず、客はこれらのブランドを買い続けている)。分野名も国名も、要旨には印字されていません。

同じ研究は、自分の立場もはっきり書きます——“Our research challenges the central importance of differentiation to brand strategy.”(私たちの研究は、ブランド戦略における差別化の中心的な重要性に異議を唱える)。差別化を戦略の中心に置く整理も同じ分野に並んで存在していて、これはその一方の側からの主張です。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたものはなく、4点は公開されている要旨まで、1点は書誌の記載まで、1点は要旨にも届いていません。読めていないものについては書きません。
01四つの次元で測れた——ただし、物差しを作った研究です。2009年にマーケティングの専門誌へ出た研究は、ブランド体験を測る尺度を作り、その構成を“four dimensions: sensory, affective, intellectual, and behavioral”(四つの次元——感覚、情動、知性、行動)と記しました。六つの研究で、信頼性と妥当性、そして他のブランド指標から区別できることを示しています。由緒は物差しの開発であって、作り込めば売れることの証明ではありません。参加人数は要旨に書かれていません。
02多くの分野と二つの国——感じられている違いは、低かった。同じ2007年の研究は、競い合うブランドの間で知覚される差別化の水準が低く、それでも客が買っていることを実データで示しました。著者らは、差別化はこの分野が前提してきたより限られた役割しか果たしていないと論じます。ここで測られたのは低い差別化と購買の併存であって、買われた理由が特定されたわけではありません。
03実際の消費者への現地調査——結びつきの強さは、型で変わった。2010年にブランド管理の専門誌へ出た現地調査は、この体験の尺度で消費者を五つの型(快楽志向・行動志向・全体志向・内面志向・実利志向)に分けました。そのうえで、態度と購買意図の結びつきが全体志向の型でもっとも強く、実利志向の型でもっとも弱いと報告しています。同じ作り込みが、どの相手にも同じだけ届くという形ではありません。参加人数は要旨にありません。

言い方は似ていても、支えている証拠はそれぞれ違います。三つ並べます。
01「世界観を作り込めば、売れる」2009年の研究が報告したのは“brand experience affects consumer satisfaction and loyalty directly and indirectly through brand personality associations”(ブランド体験は、消費者の満足とロイヤルティに、直接にも、またブランド・パーソナリティの連想を介して間接にも影響する)という経路です。ただしこれは尺度を作る過程で示された関係で、売上が測られたわけではありません。満足と、また選ぶことまでです。
02「他と違えば、見分けてもらえる」2007年の研究が戦略の中心に置き直そうと提案したのは、違いではなく見分けやすさ(distinctiveness)のほうでした——“place distinctiveness at the centre of brand strategy - where a brand builds unique associations that simply make it more easily identifiable.”(見分けやすさをブランド戦略の中心に置く——ブランドが、それと分かりやすくするだけの独自の連想を築く場所に)。これは著者らの提案であって、置き換えた結果が測られた報告ではありません。
03「独自の連想を増やせば、成果につながる」ここは向きが逆に出ています。2007年に別の専門誌へ出た研究は、八つの市場の94ブランドを分析し、“the presence of unique associations was not positively related to past usage or a stronger brand preference”(独自の連想の存在は、過去の使用やより強いブランド選好と正の関係になかった)と報告しました。シェアとの相関も弱かったとあります。内容としての独自性と、知覚としての見分けやすさは別の概念で、前者はここで支えを得ていません。

まず、どこまで読めたかです。全文まで読めたものはありません。四本は公開されている要旨まで、体験経済という言い方の出どころにあたる1998年の実務誌の記事は、発行元の頁にある題名と号の記載までです。サービスの場を扱った2013年の研究は、公開されている経路を当たっても要旨に届いておらず、中身は書きません。
そして、標本です。違いの水準を示した研究は多くの分野と二つの国と記すだけで、分野名も国名も印字がありません。独自の連想の研究は八つの市場の94ブランド。型分けの調査は実際の消費者が対象ですが、人数は要旨にありません。読めた範囲に、世界観の作り込み方そのものを変えて売上を測った研究はありません。
競い合うブランドの間で、感じられている違いは低い。
それでも、客は買っている——多くの分野と、二つの国のデータで。
だから最初にできるのは、他と違う何かをひねり出すことではありません。自分の場にいまある手がかりが、毎回そろっているかどうかを、自分の手で数えてみることです。数える前に足すと、何が変わったのかも分からなくなります。
TRY IT TODAY
- 01LIST
今日の日付を書き、自分の場で相手が最初に触れる要素を思いつくだけ書き出す。色、しるし、言い回し、写真の撮り方、あいさつ、包み方など。
- 02MARK
そのうち「毎回そろっていて、これがあれば自分だと分かる」ものに丸を付ける。
- 03COUNT
書き出した数と丸の数を書き添える。他とどれだけ違うかは採点しない。
この号は、世界観の作り方をひとつも書きませんでした。書けたのは、作り込みに何が期待され、何が実際に測られてきたかまでです。測られたのは物差しの性能と、感じられている違いの水準と、型ごとの結びつきの強さで、売上ではありません。
他とどれだけ違うかは、相手しだいで動き、際限がありません。毎回そろっているかなら、自分の手元で数えられます。ただしこれは研究が出した結論ではなく、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「世界観で魅せるには?」を、もっと深く学ぶ。→
