IN BRAND · ISSUE 340
● 12 SECロゴと色と書体を揃える。並べたときに同じ顔に見えるようにする。そうすれば、ちゃんとして見えて、信頼が育つ——見た目の相談には、たいていこの筋書きが付いてきます。
この号が見るのは、揃え方ではありません。その筋書きの出どころのほうです。デザインの良し悪しを裁く号ではありません。
ビジュアル・アイデンティティとは、ロゴ・色・書体・配置といった見た目の要素を、どこでどう使うかの取り決めのことです。揃えるかどうかの話は、いつもここから始まります。
2010年に商品・ブランド管理の専門誌へ出た研究は、運動靴の2ブランドを題材に、角ばっていたロゴを丸くする度合いを変えて反応を調べました。要旨はこう書きます——“Strongly committed consumers view these changes negatively; weakly committed consumers view them positively.”(強く愛着している客はこれらの変更を否定的に見る。弱くしか愛着していない客は好意的に見る)。

ここで測られたのはブランド態度——そのブランドをどう思うかという評価——であって、信頼ではありません。公開されている要旨の全文を走査しても、「信頼(trust)」の語は出てきません。
この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは2点で、4点は公開されている要旨までです。読めていないものについては書きません。
01632名の現場実験——反応の向きが、愛着の強さで割れた。2010年の研究は、運動靴の2ブランドについて632名のフィールド実験を行いました。以前は角ばっていたロゴを丸くする度合いが大きいほど、強く愛着している客は変更後のロゴをブランド態度の面で否定的に評価しやすく、弱くしか愛着していない客は逆に好意的に反応しました。測られたのは態度であって、売上でも信頼でもありません。
02195のロゴを13の特性で採点——望ましい見た目は、目的ごとに違った。1998年にマーケティングの専門誌へ出た研究は、195のロゴを13の設計特性で採点し、目的別の指針を出しました。正確に見分けてもらうことを重んじるロゴは“very natural, very harmonious, and moderately elaborate”(とても自然で、とても調和がとれ、中くらいに凝っている)、投資を抑えたいロゴは自然さを控えめに、良い印象を重んじるロゴは中くらいに凝って自然に、と分かれます。目的が違えば、望ましい見た目も違うという整理です。
035つの実験——形は属性の判断と結びついたが、第1実験では全体の態度は動かなかった。2015年に消費者研究の専門誌へ出た5つの実験。学部生109名に靴の広告を見せた第1実験では、丸いロゴのとき履き心地の評価が、角ばったロゴのとき丈夫さの評価が高くなりました。一方、靴そのものへの全体の態度では、形による明確な差とは言えない結果でした(著者らは有意ではないと報告しています)。米国の306名の実験では、視覚的な負荷をかけると形の効きが消えています。

読めた三本は、どれも「揃えれば信頼される」を測っていません。それでも、見た目の相談では次の三つの言い方が、当たり前のように出てきます。
01「揃えれば、信頼される」読めた範囲に、見た目を揃えることが信頼を育てると測った研究はありません。2010年の実験が測ったのはブランド態度でした。「信頼」が出てくるのは別の研究で、2011年のロゴ研究は“an unfavorable influence on perceived firm trustworthiness … a favorable influence on perceived firm innovativeness”(企業の信頼感の知覚には不利に、革新性の知覚には有利に働く)と要旨に書きます。向きは、揃っていません。要旨にあるのは「三つの研究」までで、人数は書かれていません。
02「思い切って変えれば、新鮮に見える」2010年の実験では、弱くしか愛着していない客は変更を好意的に受け取りました。同じ変更を、強く愛着している客は否定的に評価しています。分かれ目は見た目の中ではなく、相手が既にどれだけ愛着しているかの側にありました。要旨は、ロゴへの評価がその変化を“partially mediates”(部分的に媒介する)と書き、態度の変化をそれだけで説明しきるものではないとも断っています。
03「一貫していれば、覚えてもらえる」覚えてもらう側には、実証の足場があります。2016年に広告の専門誌へ出た68名と164名の実験は、“increases in exposure led to an increase in brand recognition and to more positive attitudes in particular for complex brand logos”(露出が増えると見分けと態度が良くなり、それはとくに複雑なロゴで起きた)と報告しました。ここで測られているのは見分けてもらいやすさと態度で、信頼ではありません。

まず、どこまで読めたかです。全文まで読めたのは2点——2015年の5つの実験と、2016年の2つの実験だけです。632名の実験、195のロゴの整理、不完全な書体の研究、静止したロゴが動きの印象を運ぶという研究の4点は、公開されている要旨までしか読めていません。標本の人数が要旨に書かれていないものについては、人数を書いていません。
そして、標本の狭さです。632名の実験が扱ったのは運動靴という一つの分野で、対象はそのブランドを既に知っている人たちでした。2016年の実験は、ある慈善の集まりで集まった68名と、別の164名。2015年の実験の多くは学部生です。別の分野・別の相手で同じ向きが出るかは、読めた範囲では確かめられていません。この号は、どんなロゴが良いかを書きません。
強く愛着している客は、変更を否定的に見る。
弱くしか愛着していない客は、好意的に見る。
だから、最初にできるのは、揃えにいくことではありません。揃える前に、いま何がどれだけ揃っていないかを、自分の目で数えてみることです。数えないまま揃えると、何を動かしたのかも分からなくなります。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分の発信物を三つ選び、今日の日付と一緒に書く。名刺、プロフィール画像、看板など。
- 02LIST
三つそれぞれの、ロゴの有無・主に使う色・書体の系統を書き出す。
- 03MARK
横に並べて、揃っている所とばらけている所に印を付け、ばらけた数を書き添える。
この号は、見た目を揃える方法を、ひとつも書きませんでした。書けたのは、揃えることに何が期待され、何が実際に測られてきたかまでです。632名の実験が測ったのはブランド態度で、195のロゴの整理が測ったのは見分けやすさと印象、2016年の実験が測ったのは見分けの良さと態度でした。
信頼という大きな言葉の代わりに、これは前に見たあれだ、と気づいてもらえるかどうか——そこまでなら確かめられます。ただしこれは、研究が出した結論ではなく、この号の読み筋です。揃うのは記号のほうで、それを見る人との関係ではありません。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「見た目に一貫性を持たせるには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
