IN BRAND · ISSUE 338

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートと白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

ブランドの約束を、短い一句にして掲げる。スローガンやタグラインと呼ばれる、あの一行です。言葉にすれば伝わる、と教わります。けれどこの通念は、二段構えでできています。掲げれば覚えられる。覚えられれば、自分のところに結びつく。この二段目を実際に測った調査があります。

2006年にマーケティング・コミュニケーションの専門誌へ出たその調査が見たのは、消費者がしばしば、一句を実際に出稿したのとは別のブランドに結びつけるという場面でした。この号は、言葉が正しい宛先に届くかだけを扱います。どんな一句なら選ばれるかは書きません。

ブランドプロミス(brand promise)は、客に対して繰り返し果たすと決めた中核の便益を、言葉にしたものです。それを短い一行に落とすとスローガンになります。2006年の調査は質問紙調査で、統制された実験室ではありません。著者たちは、それまでのスローガン研究がブランドを与えた状態での効果に偏ってきたとして統制実験をその例に挙げ、実在の一句と実在の名前を使う自分たちの設計を、それと対比させています。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と向き合っている写真
実在のスローガンと実在のブランドを使った質問紙調査。競合が同時に並ぶ場面で、一句はよその名前と結ばれた。 Visual: ALIFE

取り違えの説明として、この調査は二つの記憶の働きを挙げます。手がかりから引き出す働きは、たいてい正しいブランドを当てる。いっぽう断片から組み立て直す働きは、記憶の歪みに弱い。ではその手前で、覚えられることや好かれることは何を保証するのか。別々の研究が、別々のものを測っています。

01散らかった場面では、宛先が入れ替わった。2006年の調査が扱ったのは、複数のスローガンとブランドが同時に並ぶ場面です。公開されている要旨にはこうあります——"In today's cluttered environment, however, consumers often match slogans with brands other than the actual sponsoring brand."(散らかった今日の環境では、しかし、消費者はしばしば、実際に出稿したブランドとは別のブランドにスローガンを結びつける)。しばしばであって、常に、ではありません。

02想起と結びついたのは、長く置くこと・大きな予算・短さ。2013年に広告研究の専門誌へ出た研究は、220名に、絞り込んだ150のスローガンの想起を尋ねました。想起と結びついていたのは、長く使い続けること、大きな販促予算、そして短さ。いっぽう——"none of the other design elements—complexity of slogans, use of jingles, and use of rhymes—had an impact on slogan recall."(他の設計要素、すなわち複雑さ、ジングルの使用、韻の使用は、どれもスローガンの想起に影響しなかった)。

03好感と結びついたのは、明快さ・便益・韻・創造性。2014年にビジネス研究の専門誌へ出た研究は、大規模な現場調査のデータで好感の先行要因を調べました。結びついていたのは、伝え方の明快さ、便益の提示、韻、創造性。媒体費との関連は見られず、業界の通念とは対照的に、ジングルや短さには系統的な効果が無かったと報告しています。想起と結びついた短さは好感では結びつかず、好感と結びついた韻は想起では結びつかない。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
220名・150の一句で測った想起と、大規模な現場調査で測った好感。結びついていた要素は、同じではなかった。 Visual: ALIFE

自分の言葉がどこまで行っているのか。手元の材料だけで気づける場面が、三つあります。

01一句が決まった日を、伝わった日として数えている。言葉にすることと、正しい宛先に届くことは、別の段です。2006年の調査が測ったのは二段目——その一句が、出稿したブランドに結びつくかどうかでした。決まった瞬間は、まだ一段目にいます。

02覚えてもらえたことを、届いた証拠にしている。想起を調べた2013年の研究も、好感を調べた2014年の研究も、その一句が正しいブランドに帰属されたかを測ったという記述は、読めた要旨にはありません。覚えられた、好かれた、正しく届いた——読めた範囲では、この三つは別の出来事として扱われています。

03みんながやっているから効くはず、と考えている。スローガンの作り方の手引きは、2007年に実務の専門誌へ出ています。査読誌ではなく、実務で重視されていることを示す資料です。しかも出版社が要旨を公開しておらず、この号は中身を読めていません。重視は、効くことの証明にはなりません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
決めた日・覚えられた日・届いた日は、同じ日ではない。 Visual: ALIFE

この号が当たったのは6点で、全文まで読めたものはありません。5点は出版社が公開している要旨まで、1点は書誌までです。読めていないものについては書きません。2006年の調査についても、標本の人数・実施した地域・取り違えの多さを表す数値は要旨に無く、この号には書いていません。

向きも限定しておきます。2005年に別の専門誌へ出た研究の要旨は、強いブランドの一句のほうが概して好かれる、しかし競合からの干渉によって、その力が競合ブランドに誤って帰属されうる、と書いています。1993年に心理とマーケティングの専門誌へ出た研究は架空のブランドを使い、三つの処置群に別々の一句を見せて六つの拡張候補を評価させたものです。実在の店や商品でそのまま起きるとは、どちらの要旨にも書かれていません。

覚えられた、も、好かれた、も、
正しく届いた、ではない。

言葉にした約束が、何もしないわけではありません。ただ、読めた範囲で確からしいのは、言葉にすれば伝わるという因果ではなく、散らかった場面では宛先が取り違えられ、覚えられることや好かれることはそれとは別の出来事だ、という向きのほうです。宛先を確かめる工程が、まだ残っている——というのが、この号の読み筋です。

TRY IT TODAY

  1. 01WRITE

    繰り返し果たすと決めた約束を、今日の日付と一緒に素の一文で書く。

  2. 02COPY

    自分のプロフィール・商品説明・投稿から、その約束が出ている言葉を書き写す。

  3. 03MARK

    一文とずれている箇所にだけ印を付け、印の数を一つの数字で書き添える。

10分。自分の約束と自分の発信物だけで完結します。客に聞いたり、よその言い回しを格付けしたりする課題ではありません。これは研究結果そのものではなく、自分の言葉を記録して分類してみるためにALIFEが提案する実践入口です。つらさが続く・強まる場合は、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

一句は、決まった瞬間に仕事を終えた顔をします。けれど2006年の調査が見たのは、競合が同時に並ぶ場面で、その一句がしばしばよその名前と結ばれるという光景でした。伝わったように見えるとき、たいていそれは、宛先をまだ誰も確かめていないだけかもしれません。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「ブランドの約束を言葉にするには?」を、もっと深く学ぶ。→

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ISSUE 337ブランドの物差しは、まとめる用だった。ISSUE 339その名前が良いかは、中身しだいで裏返る。
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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。