IN BRAND · ISSUE 337

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

空欄を埋めていけば、ブランドの核が定まる。屋号を決めた人にも、教室や店の「らしさ」を守っている人にも、その手の一枚はいつか回ってきます。

この号が見るのは、埋め方ではありません。その枠がどこから来て、どこまで確かめられているのかのほうです。特定の枠をすすめる号でも、けなす号でもありません。

ブランド・アイデンティティとは、自分のブランドがどうありたいかを、項目に分けて書き出した枠のことです。核・約束・人柄・関係——呼び名は枠ごとに違いますが、空欄を埋めていく形はだいたい共通しています。

一方、1993年にマーケティングの専門誌へ出た論文は、価値の在りかを客の側に置きました。顧客ベースのブランド・エクイティを “the differential effect of brand knowledge on consumer response to the marketing of the brand”(ブランド知識が、そのブランドのマーケティングに対する消費者の反応に及ぼす差の効果)と定義し、ブランド知識を記憶の連想ネットワークとして概念化しています。実証データではなく、概念モデルの提案です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
空欄はこちら側にあり、価値が生じる場所は別だと、そのモデルは置きました。 Visual: ALIFE

では、枠そのものはどこまで確かめられているのか。ここから見るのは、人柄の言葉で測る尺度を作った1997年の論文、それを調べ直した2003年の再検証、そして記憶の側から定義した1993年の概念モデルの三つです。この号が当たったのは6点。本文まで読めたものは一つもなく、3点は公開されている抄録まで、3点は書名と刊行の記録までです。読めていないものについては書きません。

01五つの次元は、こう作られたと書かれている。1997年にマーケティング調査の専門誌へ出た論文は、ブランド・パーソナリティという構成概念の理論的な枠組みを作り、その次元の数と性質を定めたと述べます——Sincerity、Excitement、Competence、Sophistication、Ruggedness の五つ。著者は “a reliable, valid, and generalizable measurement scale is created”(信頼でき、妥当で、一般化可能な測定尺度が作られた)と書きました。尺度を作った研究であって、枠を埋めたブランドがその後どうなったかを追った研究ではありません。

02再検証は、使いどころを二つに分けた。2003年に戦略マーケティングの専門誌へ出た再検証は、この枠の適用に重要な境界条件があるとして、使いどころをこう分けます——“Researchers are encouraged to utilize the framework in situations in which they are likely to have success (aggregating data across diverse product categories) and to proceed with extreme caution when using it in contexts in which they are likely to encounter difficulties (measuring the personality of individual brands or when aggregating data within a specific product category).”(多様な製品カテゴリを横断して集計する場面では枠を使うよう勧め、個別ブランドのパーソナリティを測る場面や特定カテゴリ内で集計する場面では極めて慎重に進めるよう勧める)極めて慎重に、であって、使うなとは書かれていません。

03価値の在りかは、記憶の側に置かれた。1993年の概念モデルは、顧客ベースのブランド・エクイティが生じるのは、消費者がそのブランドをよく知っていて、記憶の中に “favorable, strong, and unique brand associations”(好ましく、強く、独自のブランド連想)を持っているときだ、と述べます。置かれた場所は、作り手の宣言ではなく客の記憶の側でした。ただしこれは概念の提案で、実証データを伴う検証ではありません。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートと白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真
三本とも、枠を埋めた前と後を比べた検証ではありません。 Visual: ALIFE

ここまでの三本は、どれも枠を埋めた結果を測っていません。それでも、核の話になると、次の三つの言い方が当たり前のように出てきます。

01「枠が埋まったから、核は定まった」埋まったことを確かめられるのは、こちら側の紙の上です。1993年のモデルに従うなら、価値が生じるのは客の記憶の側になります。記入欄に、客の記憶を確かめる欄は用意されていません——これは研究が測った結果ではなく、この号の読み方です。

02「有名なところと同じ枠を使えば、同じようになれる」枠は強くなったところを後から整理した記述だ、という見方は、この号が読めた抄録にも書名の記録にも書かれていません。この号の読み方です。 読めた範囲で確かなのは、2003年の再検証が使いどころを二つに分けたところまでです。

03「五つの言葉で、うちの『らしさ』は測れる」再検証が極めて慎重にと書いたのは、まさに個別ブランドのパーソナリティを測る場面でした。多様なカテゴリを横断して集計する場面とは、同じ枠でも扱いが分かれています。測れないとは書かれていません。場面によって扱いが違う、と書かれています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
三つとも、枠の中身ではなく、枠の使いどころの話です。 Visual: ALIFE

まず、読めた深さのことです。この号が当たった6点のうち、本文まで読めたものは一つもありません。三つは公開されている抄録まで、残る三つは書名と刊行の記録までです。三冊の中身の言い回しは、この号では一つも引いていません。うち一冊は、同じ副題を持つ一つ前の版の記録までしか確かめられていません。

もう一つは、この号が書かないことです。枠を埋めると何がどれだけ良くなるかを、この号は書きません。読めた範囲にあったのは、尺度を作ったという申告、その使いどころを二つに分けた再検証、記憶の側から定義した概念モデルの三つで、埋めた前と後を比べた検証ではないからです。資料の偏りも断っておきます。ここまでの資料は学術の場で枠と尺度を論じる研究から採られていて、屋号ひとつで商う人の手元の記録は、そもそも残りません。

横断して集計する場面では、使ってよい。
一つのブランドの人柄を測るなら、極めて慎重に。

だから、核の段でまずできるのは、空欄を埋めることではありません。自分が決めている核の言葉と、いま外に出ている自分の言葉を、並べて見比べることです。ずれているかどうかは、客に聞かなくても、手元の紙の上で見えます。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分の屋号かサービス名を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。

  2. 02WRITE

    左に「こうありたい」と決めている核を3語まで、右に名刺やプロフィールに実際に出ている言葉を書き写す。

  3. 03MARK

    ずれている箇所にだけ印を付け、最後にその数を一つの数字で書き添える。

10分。自分の宣言と自分の発信物だけで完結します。客に聞いたり、よその店やブランドを格付けしたりする課題ではありません。これは研究結果そのものではなく、宣言と外に出ている言葉のずれを自分で見るためにALIFEが提案する実践入口です。表記や名称の扱いに勤め先や取引先の決まりがある場合は、そちらが優先されます。つらさが続く・強まる場合は、課題より先に医療・支援の専門家へ相談してください。

この号は、ブランドの核の定め方を書きませんでした。書けたのは、その枠がどこから来て、どこまで確かめられたかまでです。1997年の論文は五つの次元の尺度を作ったと述べ、2003年の再検証はそれを、横断して集計する場面と、個別ブランドのパーソナリティを測る場面とに分けました。1993年の概念モデルが価値の在りかに置いたのは、客の記憶の側でした。埋まった枠が教えてくれるのは、こちら側の宣言が整ったことまでです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「ブランドの核を定めるには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。