IN PRODUCTION · ISSUE 336
● 12 SECセンサーを付けて、データをつなげば、工場はひとりでに賢くなっていく。設備を新しくする話には、たいていこの筋書きが付いてきます。
この号が見るのは、つなぎ方ではありません。その言葉が何を指しているのか、そして景気のいい数字がどこから来ているのかのほうです。特定の機器やソフトをすすめる号でも、けなす号でもありません。
スマート工場とは、設備や工程にセンサーを付けてつなぎ、集まったデータで自動的に整えていこうとする工場のことです。ドイツで始まった構想の名をとって Industry 4.0 とも呼ばれます。
2020年に生産経済の専門誌へ出た総説は、要旨の冒頭でこう書きます——いまこの分野に取り組む多くの研究者は、“the lack of an agreed-upon definition”(合意された定義の不在)に向き合わねばならず、それが理論の構築と研究の比較可能性に深刻な限界をもたらしている、と。似た言葉——スマート・マニュファクチャリング、デジタル変革、第四次産業革命——が同義語のように使われ、範囲と特徴をめぐる混乱を強めているとも述べます。

では、入れた結果はどう確かめられているのか。ここから見るのは、定義を集めて分解した総説、成熟度モデルを点検した批判的な総説、そして企業が何を期待しているかを調べた大規模調査の三つです。この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは報告書1点で、4点は公開されている要旨まで、1点は当時のページそのものに到達していません。読めていないものについては書きません。
01総説が集めたのは、100件近い「定義」だった。2020年に生産経済の専門誌へ出た総説は、この構想と関連する概念について100件近い定義を集め、技術的な要素と非技術的な要素に分解したと要旨に書いています。そのうえで、学術文献のレビューを最も影響力のある非学術の情報源——“including governmental bodies and consulting companies”(行政やコンサル企業を含む)——で補ったとも明記します。定義を数えて分類した研究であって、導入の効果を測った研究ではありません。
02開始レベルは、多くの中小の実態から切れていた。2018年に製造システムの専門誌へ出た批判的な総説は、多くの成熟度モデル——いまどの段階にいるかをレベルで示す物差し——の標準的な開始レベル「level 1」が、“appears to be disconnected from the real digitization and smart manufacturing maturity level of many SMEs”(多くの中小企業の実際の水準から切り離されているように見える)と書きました。手前に「level 0」を置くことを提案し、そこから一段上がるだけでも考え方の転換を含む相当な労力が要るとも述べます。既存のモデルを読み直した総説で、移行を試した実験ではありません。
03ブラジルの2,225社が答えたのは、期待のほうだった。2018年に生産経済の専門誌へ出た研究は、ブラジル製造業の27業種・2,225社を対象にした大規模調査の二次データを使い、各技術の採用が製品・オペレーション・副作用の面での“expected benefits”(期待される便益)とどう結びつくかを回帰分析で調べました。有望と見られる技術がある一方、そう見られない新興技術もあり通念に反する、と著者らは書きます。測ったのは実際に出た成果ではなく、企業が期待している便益です。

ここまでの三本は、どれも導入の効果を測っていません。それでも、この話題では次の三つの言い方が、当たり前のように出てきます。
01「ROIが何%改善する、と出ている」その数字がどこから来たのかを、この号は辿れていません。2020年の総説自身は、集めた定義のレビューを行政やコンサル企業の資料で補ったと明記しています。この号は、流通しているROIの数値をここに書きません。一次の裏づけを確かめられていないからです。
02「まずレベル1から始めればいい」2018年の総説が指したのは、そのレベル1の位置そのものでした。多くの小さな作り手は手前におり、一段上がるだけでも考え方の転換が要る、と書きます。段を描いた図が見せないのは、上がるための元手と人手のほうです——というのが、この号の読み筋です。
03「機械が出した数字だから、正しい」センサーが肩代わりするのは、数える手間です。何を一件と数え、どこからどこまでを数えるかの決めは、人の側に残ります。決めが機械に埋め込まれるほど、それが誰かの決めだったことは見えにくくなる——これは研究が測った結果ではなく、この号の読み筋です。

まず、年のことです。この構想がドイツの国家的な取り組みとして始まった年を、この号は2011年と書きました。裏づけは当時の行政のページではなく、2013年の報告書本文の“launched in 2011”(2011年に始まった)という一節と、2020年の総説が2011年のドイツにおける最初の概念化と述べる一文の二つです。当時の行政のページには、公開されている経路を当たっても到達していません。一方、2018年の別の総説の要旨は、起点をドイツ政府の行動計画が挙げた2013年と書きます。年の置き方は、資料によって違います。
もう一つは、この号が書かないことです。導入すると何がどれだけ良くなるかを、この号は書きません。読めた要旨が扱っていたのは、定義の分析・モデルの点検・期待の測定で、入れた前と後を比べた対照的な検証ではないからです。標本の偏りも断っておきます。ここまでの資料は、この構想を語れる規模の組織と、それを論じる研究から採られていて、体力の無い小さな現場の記録は、そもそも残りません。
合意された定義が無いことに、
いまの研究者は向き合わねばならない。
だから、最初にできるのは、設備をつなぐことではありません。自分がふだん見ている数字を一つ選び、その数え方の決めを、自分の言葉で書き出してみることです。何を一件と数えているかは、たいてい書かれていないまま、毎日使われています。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分がふだん見ている数字を一つ選び、今日の日付と一緒に書く。
- 02DEFINE
何を一件と数え、どこからどこまでを数えていないかを書き出す。
- 03TRACE
その数え方を誰がいつ決めたか、分かる範囲で辿って書き添える。
この号は、工場を進化させ続ける方法を、ひとつも書きませんでした。書けたのは、その進化を語る言葉と数字が、どこから来ているかまでです。合意された定義が無いと総説が書き、開始レベルが多くの中小の実態から切れていると別の総説が書き、2,225社の調査が測ったのは期待される便益でした。センサーが速く正確に出してくれるのは、数えた結果のほうです。何を、どこからどこまで数えるかを決めたのは、いまも人の側です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「工場を進化させ続けるには?」を、もっと深く学ぶ。→