IN PRODUCTION · ISSUE 335
● 12 SECあとから安くするのではなく、いくらで作るかを設計の段階で先に決めてしまう。原価企画(target costing)は、そう説きます。図面が固まる前に、コストのほうから設計へ注文を出す——理屈は通っています。
この号が見るのは、その手順ではありません。目標に届かなかったぶんが、そのあとどこへ向かうのかのほうです。この号は、設計の段階で原価を決めるという考え方そのものを否定しません。
原価企画とは、製品を企画し設計する段階で、いくらで作るか(目標原価)を先に決め、その枠に収まるように設計そのものを作り込むやり方です。多くの費用は設計が決まった時点でおおよそ決まり、作り始めてからでは動かせる余地が小さい——だから上流で決める、という理屈です。
由緒はあります。日本の自動車企業の原価管理を描いた1991年の論文、"lessons from leading Japanese companies"(先進的な日本企業からの教訓)と題した1993年の論文、そして実務者と研究者の非営利の国際団体が1997年に一冊にまとめた本。名前も手順も帳票もあります。それは、狙った原価に収まることの証明とは別の話です。

では、効果はどう確かめられているのか。ここから見るのは三つ——量産に入ったあとも続く圧を描いた1991年の研究、買い手と下請のあいだで原価が管理される様子を追った現地調査、そして手法として厳密かを問うた作業論文です。この号が当たったのは6点。全文まで読めたのは2点、要旨まで1点、書誌まで3点です。読めていないものについては書きません。
01量産に入っても、圧は毎期くり返される。1991年に管理会計の専門誌へ出た論文は、日本の自動車企業の原価管理を二本柱——設計段階の目標原価と、量産後も続ける改善原価——として描きました。全頁を読むと、直近の期の一台あたり実際原価が "must be reduced in each successive period"(次の期ごとに下げられなければならない)予算になる、とあります。新製品の目標原価は量産開始から三か月での達成が見込まれ、その後も同じやり方で下げ続ける、と続きます。
02原価の管理は、会社の境目を越えていた。2001年の作業論文版(2004年に会計の専門誌へ刊行)は、日本の製造業7社・3つの供給網での現地調査です。買い手が決めた仕様が "cannot be met by the supplier if the latter is to make an acceptable profit"(供給側が納得できる利益を取るなら満たせない)ときに、会社をまたぐ原価管理が始まる、と書きます。観察されたやり方は三つで、いずれも両社の設計者が加わります。
03採り入れていたのは、2割に届かなかった。2011年の査読前の作業論文は、豪州・ニュージーランド・英国で調べた組織のうち原価企画を採り入れていたのは 17.9%・18.3%・16.6% だったと報告します。回答した組織のうちの割合で、その組織数は読めた要旨に書かれていません。しかも、他の原価計算のしくみを使わず単独で使っている組織は一つも見つからなかった、と続きます。

同じ材料から、つい出てしまう言い方が三つあります。どれも、ここまでの三つが書いていないことを、書いてあるかのように受け取る形です。
01「先進企業がやっているのだから、効く」よく引かれる1993年の論文の題名は「先進的な日本企業からの教訓」です。ただし、この号が読めたのは題名と書誌までで、中身は読めていません。公開されている書誌の基盤を四つ当たった範囲では、抄録の欄そのものがありませんでした。由緒は、効果の証明ではありません。
02「事例が、示している」7社の現地調査で、買い手の3社が選ばれた理由は原価管理の評判でした。供給側の4社も、買い手が「特にうまい」「特に成功している」と名指しした会社です。著者自身が、標本の少なさと多様さの限られ方は探索的な研究の性格を映すとして、"a larger and more diverse sample that includes non-Japanese firms"(日本以外の企業を含む、より大きく多様な標本)で確かめる必要があると書いています。
03「作り込みは、社内で完結する」読めた範囲では、圧は会社の境目を越えていました。買い手側の語りとして、供給側の利益が高いと分かると社内で目標原価を下げる圧が高まる、という一節があります。利益の分け方を決めたのは、関係のなかで最も力のある会社でした。この手法は、下請を締めるための道具ではありません。

まず到達の話です。1993年の論文も、2004年に会計の専門誌へ刊行された論文も有料で、抄録すら公開されていません。7社・3つの供給網という数字は2001年の作業論文版で読んだもので、刊行版に同じ数字が載っているかは確かめていません。1997年に実務者の団体がまとめた本も、書誌までで中身は読めていません。
設計の層も断っておきます。全文まで読めた2点は、どちらも比べる相手を置いた研究ではありません。1991年の論文を正規化して走査した範囲に、対照群・無作為割り付け・標本の記述はありません。2001年の研究は、著者自身が探索的と呼ぶ現地調査です。この手法を入れれば原価が下がることを確かめた研究は、読めた範囲にはありません。
直近の期の一台あたりの実際原価が、
次の期に下げるべき予算になる。
だから、最初にできるのは原価を下げることではありません。自分が最近出した見積りで、目標に収めるために削ったものが、どこへ行ったかを一つずつ書き出すことです。金額の正確さはいりません。行き先を並べるだけで、作り込みが自分の手元で完結しているかどうかは見えます。
TRY IT TODAY
- 01PICK
最近出した見積りや、コストを詰めた仕事を一つ選び、日付とあわせて書く。
- 02MARK
目標に収めるために削ったもの・動かしたものを書き出し、行き先——設計の工夫・材料・自分の時間・外注先・不明——に印を付ける。
- 03COUNT
自分の時間と外注先に向かったものが、合わせていくつあったかを数える。
設計の会議室で目標の数字が決まると、決めた側には作り込めた手ごたえが残ります。ですが、その数字に届かなかったぶんは消えません。読めた範囲で確かめられたのは、その圧が量産に入っても毎期くり返されること、そして会社の境目を越えて動いていたことです。一人で全部を回している現場なら、行き先は外ではなく自分の工数のほうかもしれません——これは研究が測った結果ではなく、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「原価を作り込むには?」を、もっと深く学ぶ。→