IN PRODUCTION · ISSUE 321
● 12 SEC手順を決めて、全員が同じやり方をすれば、誰がやっても品質は同じになる。研修でも、文書をそろえる建て付けでも、この言い方はほとんど疑われずに流れていきます。
この号が見るのは、守り方ではありません。標準作業という道具の由緒と、その効果を誰がどう確かめたのかのほうです。この号は、標準を守れとも、崩せとも言いません。
標準作業(standard work)は、三つを決める取り決めです。この体系を柱に据えた原典——1988年に英訳が出た書籍で、査読誌ではありません——は、標準作業票の三要素を、1個を作る時間・流れの中の作業の順番・工程を回すのに要る最小の手持ち、と本文に挙げています。
同じ本の著者は、その手順書の書き方についてこう書きました。“It must be tried and revised many times in the production plant.”(生産現場で何度も試し、直さなければならない)。その直前の一文は、適切な作業手順は机の上では書けない、です。

では、「決めれば安定する」のほうは、どこまで確かめられているのか。ここから先は、本家の型を観察した論文、化学企業の現場を面接で調べた論文、別の分野で同じ道具の効果報告を数えたレビューの三つを順に見ます。この号が当たったのは6点で、全文まで読めたのは3点です。読めていないものについては書きません。
01現場観察は、標準を「仮説」と書いた。1999年に Harvard Business Review 誌へ出た論文は——査読誌ではなく実務誌です——4年をかけ、米国・欧州・日本の40を超える工場の内側を調べたと書いています。整理された四つのルールは、一つ一つの作業、受け渡しのつながり、ものが通る道筋、そして改善の進め方についてのものです。その一つめについて、著者らは “rule 1 forces them to test hypotheses through action”(ルール1は、行動によって仮説を検証させる)と記しました。測ったのは効果ではなく、現場の型の記述です。
02手順どおりかの見積もりは、立つ位置で違った。2024年に International Journal of Industrial Ergonomics 誌へ出た面接調査は、ある国際的な化学企業で、手順を使う側26人(米国南部の単一拠点)と、手順を管理する側13人(複数の拠点)に聞きました。使う側が見積もった自分の外れ方は平均30.8%、管理する側が見積もった使う側の外れ方は平均19.8%。外れの頻度と理由の質的な分析であり、外れても作業が成功したかは測っていません。
03そのレビューでは、33本すべてが肯定的だった。2010年に Quality & Safety in Health Care 誌へ出たレビューは、医療機関の運営に同じ改善の道具を当てた文献33本を精査し、“All articles report positive results.”(すべての論文が肯定的な結果を報告している)と書きました。うまくいかなかった現場は論文になりにくいので、報告の数は効果の大きさになりません。これは読者の健康の話ではありません。

同じ材料から、つい出てしまう言い方が三つあります。
01「うちは標準どおりにやっている」化学企業の面接で分かれたのは、まさにこの見立てでした。使う側と管理する側で、手順から外れる割合の見積もりが違う。どちらが正しいかを、その研究も決めてはいません。言えるのは、数えないと割合は分からない、までです。
02「良くなった報告が、山ほどある」33本すべてが肯定的、という形と同じです。分母は「論文になった現場」で、入れてやめた現場は数のうちに入っていません。同じレビューは、多くが技術的な適用にとどまり、組織への広がりは限られていた、とも書いています。
03「標準を決めれば、働きやすくなる」2006年に Journal of Operations Management 誌へ出たのは、職務設計の既存モデルを標準化された生産の文脈へ広げた理論の論文です。標準化された仕事が働き手にとって良いものになるかは、個々のやり方より組み合わせのほうで決まり、行きすぎた削り方は動機づけを制限しうる、と論じました。効果を測った実験ではありません。

標本の偏りを先に置きます。手順から外れる割合の数字は、化学工場のひとつの拠点で働く26人の見積もりです。33本のレビューが見たのは医療機関の運営で、患者の健康の話でも、あなたの現場の話でもありません。2006年の論文は理論、1999年の論文は実務誌の現場観察です。医療機関の運営を測った数字を、自分の体調や健康の判断に持ち込むこともできません。標準を入れた前と後で不良率を比べた研究は、この号には1本もありません。
来歴も断ります。原典の逐語は1988年の英訳版から採っていて、1978年の邦書は書誌だけを確かめました。管理する側の思い描き(work-as-imagined)と現場の実際(work-as-done)のズレという見方は2015年の書籍の章として整理されていますが、その章の本文は読めていません。全文まで読めたのは6点のうち3点です。
手順どおりにやっている——
その割合は、立つ位置で変わった。
だから、最初にできるのは、守り方を変えることではありません。自分の手元で、決めた手順と実際の手順を、別々に書き出してみることです。ずれている場所は、標準が現場に追いついていない場所かもしれません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分がふだんやっている作業を、一つだけ選ぶ。
- 02WRITE
左に「決めたとおりの順番」、右に「今日やった順番」を並べる。
- 03MARK
どちらが正しいかは書かず、ずれた箇所に印を付け、その数を書く。
原典が書いたのは、手順は机では書けず、現場で何度も試して直すものだ、ということでした。品質を固定する装置だ、とは書かれていません。「安定している」と言えるのは、何を不良と数え、どれくらいのばらつきを許すと決めたあとです。その決め方を目に見える形にするのが、いちばん下の土台のほうの仕事です。手順書が役に立つのは、守れたことを確かめるときだけではありません。守れなかった場所がどこかを、教えてくれるときにもです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「品質を安定させるには?」を、もっと深く学ぶ。→
