IN PRODUCTION · ISSUE 332
● 12 SECいちばん詰まっている工程を見つけて叩けば、あとは全部スラスラ流れる。工程の話をするとき、この言い方はほとんど疑われずに流れていきます。
この号が見るのは、叩き方ではありません。その処方が広まった出どころと、効果を誰がどう確かめたのかのほうです。この号は、詰まりを見る考え方そのものを否定しません。
ボトルネック(制約)とは、全体が出せる量を、そこ一か所で決めてしまっている工程のことです。この一点に注目する考え方はTOC(制約理論)と呼ばれ、制約を見つけて活かす5つの集中ステップや、ドラム・バッファ・ロープという進め方を持ちます。
これらが広まった出どころとして挙げられるのが、1984年に初版が出た『ザ・ゴール』——教育用のビジネス小説です。査読された研究でも、実データの報告でもありません。工場長を主人公に、工場が立ち直っていく筋書きは、考え方を教えるための創作です。

では、小説の外の研究は何と書いているのか。ここから見るのは、TOCを正式な理論として確立しようと試みた論文、良い理論の条件に照らした論文、経営哲学への進化を点検した論文の三つです。いずれも、TOCを入れた現場の前と後を比べた報告ではなく、理論としての位置づけを論じたものです。この号が当たったのは6点。本文まで読めたものはありません。読めたのは4本の要旨と、2点の書誌までです。読めていないものについては書きません。
012013年の論文は、「確立しよう」と書いた。2013年に生産研究の専門誌へ出た論文は、要旨に “we attempted to advance the academic dialogue towards establishing TOC as a formal operations management theory”(TOCを正式な生産管理の理論として確立する方向へ、学術的な議論を進めようと試みた)と書きます。確立したという報告ではなく、確立を試みる側の宣言です。
022008年の論文は、「大部分は実証されていない」と書いた。2008年に生産管理の専門誌へ出た論文の要旨は、TOCは良い理論の条件を満たすように見えるとしたうえで、“it has not been empirically tested for the most part”(大部分については、実証的な検証がなされていない)と続けます。条件を満たすことと、確かめられたことは別だと、原典の側が書いています。
032007年の論文は、「残る欠陥を点検すべきだ」と書いた。2007年に経営の専門誌へ出た論文は、スケジューリングのソフトとして始まったものが経営哲学へ進化したと整理したうえで、“it is important to review what has been accomplished and what deficiencies remain”(何が達成され、どんな欠陥が残っているかを点検することが重要だ)と述べました。万能の解答として確立した、とは書いていません。

同じ材料から、つい出てしまう言い方が三つあります。どれも、ここまでの三本が書いていないことを、書いてあるかのように受け取る形です。
01「本に書いてあるとおりにやれば」物語のなかで工場が立ち直るのは、作者がそう書いたからです。物語の説得力は、実証の強さではありません。よくできた筋書きほど頭に残り、それが小説だったという一行のほうが先に抜け落ちます。
02「成功した話が、山ほどある」うまくいった現場は語り、うまくいかなかった現場はたいてい何も公表しません。分子だけが集まって、分母は誰も数えていない。件数の多さは、効いた割合にはなりません。この号は、成功した話を数えて効果を語る道は採りません。
03「一番遅い工程を叩けば、あとは流れる」詰まっていない工程をいくら速くしても全体が出せる量は増えない——ここはTOCの鋭いところです。ただし詰まりが解ければ、次にいちばん遅い工程が新しい制約になります。これは研究が測った結果ではなく、この号の読み筋です。

まず版のことです。『ザ・ゴール』の初版は1984年・本文262頁。公開されている電子版として当たれたのは1986年の改訂版(274頁)のほうでした。5つの集中ステップやドラム・バッファ・ロープが1984年の初版から載っていたのかは、確かめられていません。確かめたのは書誌までで、小説の中身は読めていません。
研究の側も、要旨までです。1998年に同じ生産管理の専門誌へ出た総説は、TOCについて出た文献を集めて主題別に分類したもので、読めた要旨の範囲に「確立途上」と評価する言葉はありません。確立を試みる段階だという読み方は、2013年と2008年の要旨から来ています。TOCを入れた前と後で流れを比べた研究は、読めた範囲には1本もありません。
良い理論の条件は満たすように見える——
だが大部分は、実証されていない。
だから、最初にできるのは、詰まりを叩くことではありません。自分が回している工程で、いちばん待ちが生まれる場所を一つ選び、それを人以外の言葉で言い直してみることです。いちばん詰まる場所は、たいてい特定の誰かではなく、段取り・順番・道具の側にあります。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
自分がふだん回している作業の流れを、順番に紙へ書き出す。
- 02CIRCLE
いちばん「待ち」が生まれる場所を、一つだけ丸で囲む。
- 03REWRITE
その詰まりを段取り・順番・道具で言い直し、いくつ書けたかを数える。
いちばん多くの工場を立て直した名手は、実在しません。物語の工場長です。その工場が見違えるように流れだすのは、作者がそう書いたからで、それ以上の理由は要りません。物語はいちばん覚えやすい形で教えるので、よく広まります。そして広まるほど、それが小説だったという一行が抜け落ちていきます。要旨まで読めた三本が書いていたのは、劇的な処方ではなく、「大部分はまだ実証されていない」「残る欠陥を点検すべきだ」のほうでした。
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