IN PRODUCTION · ISSUE 330

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「ヒヤリハットを300件つぶせば、重大事故は1件減る。」この号が見るのは集め方ではなく、その比率が原典でどう書かれていたかのほうです。

重いけが1件の裏に、軽いけが29件、けがに至らなかった出来事300件——1対29対300。安全の教育でくり返し出てくる比率です。報告の書式も、集める箱の作り方も書きません。

扱うのは8点。うち2点は同じ本の別の版、別の2点は同じ著者の別の版の章です。独立した8つの検証ではありません。そして事故を、働く人の不注意として描きません。

出発点は、比率が印刷されている本そのものです。1931年に出た初版は、当たった範囲では実体が見つからず、全文で読めたのは1941年の第2版でした。逐語はすべてその版のものです。核心の一行——"it is estimated that in a unit group of 330 accidents of the same kind, 300 result in no injuries, 29 in minor injuries, and 1 in a major or lost-time injury."(同じ種類の事故330件を一つのまとまりとすると、300件はけがに至らず、29件が軽いけが、1件が重いけがか休業に至ると推定される)。

推定される、と原典自身が書いています。法則として断定されてはいません。もう一つ、330は「同じ種類の」事故を一まとまりとして数えた数で、ばらばらの出来事300件ではありません。同じ本の年表は、この数字の出どころを1929年に出たある保険会社の報告に置いています。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートと白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真
法則として置かれていたのではなく、推定として置かれていました。 Visual: ALIFE

同じ本には、もう一つ有名な比率があります。事故の88%は人の不安全な行動から——88対10対2。こちらは分母と算術が第2版に残っています。保険の記録12,000件と事業主の記録63,000件、あわせて75,000件。人の失敗が明らかな73%に15%を足して88%、という導出です。二つの比率は、同じようには確かめられません。

ただしどちらも、もとになったデータの原簿に、後の研究者が届いてはいません。2020年に出た査読誌の論文はこう書きます——"no access to his original database and it is unclear if the database was of a single establishment/operation or for an entire industry"(彼の原データベースにアクセスできず、その原簿が一つの事業所のものか産業全体のものかも判然としない)。現存しない、とは書かれていません。

01原典は、比率を推定として書いていた。1941年の第2版の本文。効き目を対照つきで測った実験ではなく、事故記録の分析と著者自身の整理です。この号が全文で読めたのはこの版で、比率が最初に載ったとされる1931年の初版には到達していません。逐語を初版のものとして引くことはできません。

02原簿には、後の研究者も届いていない。2020年に Mining, Metallurgy & Exploration へ出た査読誌の論文の一節。この論文が扱ったのは、2018年の論文と同じ13年分・27,000を超える鉱山の記録で、比率のもとになった原簿そのものではありません。同じデータの再検討であって、原簿の検証ではありません。

032013年の書籍の章は、二つの神話を名指しした。出版社が公開している第10章の要旨——"Heinrich emphasized improving the performance of the individual worker, rather than improving the work system established by management."(個々の作業者の成績の改善を強調し、管理側が作った作業の仕組みの改善のほうは重く見なかった)。到達したのはこの要旨までで、章の本文は読めていません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
三つとも、集めれば減ると測った研究ではありません。 Visual: ALIFE

手引きでよく見る言い方を、原典の側から見直します。どれも「間違い」ではなく、限定が落ちると意味が変わる、という話です。

01「300件つぶせば1件減る」——その因果が、第2の神話です。2013年の章の要旨が外すべきものとして挙げた二つ目——"Reducing accident frequency will achieve an equivalent reduction in injury severity."(事故の件数を減らせば、けがの重さも同じだけ減る)。これは名指しであって、集めた現場と集めなかった現場を比べて重大事故の数を測った実験ではありません。

02「事故の主因は人の不注意」——一つ目の神話が、この見方です。同じ要旨の一つ目——"Unsafe acts of workers are the principle causes of occupational accidents."(作業者の不安全な行動が労働災害の主因である)。外すべき前提として挙げられているのは、この言い方のほうです。直せる手がかりは、工程・治具・手順・時間の側に残ります。

03「三角形はどの現場にもある」——形は、線の引き方で動きます。2018年に Risk Analysis 38巻4号839-852頁へ出た論文。25,000を超える事業所の13年分の安全データ。抄録の逐語——"The answer to all three questions was yes with the triangle form being dependent upon how severity was delineated."(三つの問いすべての答えは「はい」で、三角形の形は重大度をどう区切ったかに依存していた)。三角形が出ないという話ではありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
同じ出来事でも、区切る線を動かすと形が変わりました。 Visual: ALIFE

標本と場面を断っておきます。2018年の論文が見たのは事業所という単位で、ひとりで作ってひとりで検品する手元の作業ではありません。2020年の論文は、2018年の論文が解析した13年分・27,000を超える鉱山の記録を、同じデータで再検討したものです。二つは別の論文ですが、標本は共通です。ヒヤリハットを集めた現場と集めなかった現場を比べて、重大事故の数を測った研究は、この8点の中にありません。

到達もそろっていません。全文まで読めたのは8点のうち2点——1941年の第2版と、2020年の査読誌の論文です。2013年の章は出版社が公開している要旨まで、2018年の論文は公式の抄録まで、2003年の章と二つの書評は書誌までで、1931年の初版は当たった範囲では実体が見つかりませんでした。読めていないものについては書きません。

動いたのは、区切る線のほう。
出来事の並びでは、ありません。

ここから先は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。将来の事故を予測しません。同僚の作業も観察しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモに今日の日付を書く。最近、自分が危なかった・ヒヤッとした場面を一つだけ書く。仕事でも、家事でも、道具を使ったときでもかまいません。

  2. 02SPLIT

    紙を上下に分け、上に「自分の注意で説明すると」、下に「工程・治具・手順・時間で説明すると」と書く。上の欄を空にしろ、という話ではありません。

  3. 03COUNT

    両方に思いつくだけ書き出し、最後に**下の欄に並んだ項目の数**を一つの数字で書き添える。五つ書けたら終わりです。

10分。採点はありません。**同僚や部下の行動を観察したり、評価したりする課題ではありません。**件数を人やシフトの評価や懲戒に結びつける形にもしません。将来の事故を予測する課題でもありません。ひとりで作業している場合も、そのまま自分の一場面で書けます。しんどくなったら中止を。仕事のことで眠れない、気持ちの沈みが続くというときは、この課題より先に、信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

8点の書き手を突き合わせると、二つの版は同じ一人の本、二つの章は同じ一人の章、2018年と2020年の論文は著者が重なっています。独立した8つの点検が並んでいるのではありません。それでも残ったのは「集めれば減る」ではなく、この比率がどこから来て、どう数えると形が変わるかのほうでした。原典に印刷されていたのは推定という語で、後の論文が届かなかったのは、その原簿のほうです。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。