IN PRODUCTION · ISSUE 329
● 12 SEC「みんなで集まって話し合えば、現場の知恵が引き出される。」この号が見るのは集まり方ではなく、その言い方が原典でどう書かれていたかのほうです。
小集団の改善活動〔QCサークル。現場の少人数が自分たちでテーマを選んで改善していく活動〕の話です。サークルを作れとも、やめろとも書きません。開き方も、進め方の帳票も書きません。
扱うのは7点。うち3点は同じ一人の書き手が連なる1980年代の英国の調査で、独立した7つの検証ではありません。
出発点は1987年、Personnel Psychology 40巻3号579-592頁へ出た査読誌の総説です。効果を扱った研究を集めて見渡し、平均では介入の有効性が示されたと結論しました。だからこの号は「効かない」とは書きません。単純な否定は、この総説に照らして誤りです。
ただし同じ要旨は、こう続きます——"the potential for a positive-findings bias was investigated, with no significant positive-findings bias found. It is suggested that this bias may be an artifact resulting from the inclusion of ‘popular-press’ articles with research-oriented studies."(成功ばかりが出てくる偏りの可能性を調べたが、有意な偏りは見つからなかった。この偏りは、大衆誌の記事が研究志向の研究に混じることから生じる見かけのものかもしれない、と示唆される)。偏りが確かめられたとは書いていません。見つからなかったと述べたうえで、もしあるとすればその正体だろう、と控えめに示唆する構文です。何本の研究をまとめたのかも、要旨には書かれていません。

道具の側には、確かな由緒があります。運営の様式が整えられ、帳票も進め方も文書として残っている。ただし、様式が実在することと、その活動が成果を出すと証明されていることは、別物です。由緒が立派なほど、証明がすでに済んでいるような気がしてきます。
では、よく記録されているのは何か。この7点のなかでは、成功の再現よりも、続かなくなる過程のほうです。1991年の査読誌の論文は13社を、1980年代の英国の3本の調査は製造業の現場を、それぞれ「どう崩れたか」の側から調べています。
01崩れた原因は、組織の設計の側にあると報告された。British Journal of Industrial Relations 29巻4号541-568頁の論文。13社が証拠を提供したとしたうえで、逐語はこうです——"circles collapsed as the result of inadequate organizational design which encouraged managerial recalcitrance."(サークルが崩壊したのは、管理側の抵抗を招くような組織設計の不備の結果である)。作業者の知恵や意欲の不足だとは書かれていません。この号が到達したのは公式の要旨までです。
02失敗率2割という数字は、高い満足と同じ一文に入っていた。1984年の Omega 12巻5号475-484頁。英国の製造業への質問紙調査で、逐語は——"despite an average circle failure rate of 20%, there is a high level of satisfaction with quality circles amongst the respondents."(サークルの平均失敗率が20%であるにもかかわらず、回答者のあいだでの満足は高い)。この2割が「何のうちの2割」なのか、分母は要旨に書かれていません。同じ要旨は、実施した企業の大半が何らかの失敗に出会うと見込むべきだ、とも書いています。
03衰えていく段取りは、査読誌ではない実務誌の側でも描かれた。1985年の Harvard Business Review 63巻1号65-71頁。査読誌ではなく実務誌です。多くの組織のサークルを見たとしたうえで、逐語はこうです——"they have inherent in their design numbers of factors that often lead them to self-destruct."(サークルには、しばしば自壊へ導く多くの要因が、その設計の中に埋め込まれている)。査読を経た研究ではないので、衰えが繰り返し観察されたという傍証にとどめます。

手引きでよく見る言い方を、原典の側から見直します。どれも「間違い」ではなく、限定が落ちると意味が変わる、という話です。
01「失敗続きだった」——同じ研究が、全体としての成功も書いています。1984年の Omega 12巻6号557-568頁は、前編の続きとして5つの事例を解剖したうえで、こう書きます——"quality circle programmes are able to withstand a high failure rate of individual circles yet still be very successful."(サークルの取り組みは、個々のサークルの高い失敗率に耐えながら、なお非常にうまくいきうる)。崩れ方だけを取り出すと、この片側が落ちます。
02「やる気が尽きたから消えた」——主因に挙がったのは、別のものでした。1986年の Omega 14巻1号23-33頁は、郵送の質問紙に答えた127の製造組織の回答をまとめ、うち4社では面接も行っています。主な原因として繰り返し挙げられるのは、人員削減と会社の再編のほうでした。127は回答の総数で、英国の製造業の全体ではありません。やる気が尽きた、という説明は主因として置かれていません。
03「日本の工場で効いたから、どこでも効く」——別の分野では、そう出ていません。2018年に PLOS ONE へ出た医療分野の俯瞰的レビュー。欧州の外来診療で働く専門職6〜12人の集まりを対象に、24本の量的研究などを見渡し、指針の遵守を測った無作為化試験4本では効果が見られなかったと書きます。報告された効果は研究の内でも間でも大きくばらつく、とも。これは医療機関の運営の話で、読者の健康の話ではありません。

標本と場面を断っておきます。崩れ方を実地に調べた3本は、いずれも1980年代の英国の製造業で、13社の論文もその時代の企業の調査です。2018年の1本は欧州の外来診療という別の分野で、医療機関の運営の話です。厨房でも工房でも同じ結果が出る、という証拠は、この7点の中にありません。
到達もそろっていません。全文まで読めたのは7点のうち1点で、残る6点は公式の要旨までです。「箱を置けば成果が出る」を対照を置いて否定した研究は、その全文1点と要旨6点の読めた範囲にはありません。同じく、成功偏りが確かめられたと述べた一文も、読めた範囲にはありません。読めていないものについては書きません。
崩れたのは、知恵ではなく、
知恵を置く仕組みのほうでした。
ここから先は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。会議は開きません。同僚や部下の作業も観察しません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
自分がこれまでに出した改善の提案や工夫を、思い出せるだけ3つ書き出す。今日の日付もいっしょに。仕事でも、家事でも、道具の使い方でもかまいません。
- 02TRACE
それぞれの横に、その後どうなったかを一言だけ添える。「採られた」「消えた」「今も宙に浮いている」のどれかで足ります。案の良し悪しは裁きません。
- 03COUNT
行き先(決めた人・試した場・打ち切りの記録)が残っていた案がいくつかを、ひとつの数字で書く。四つ書けたら終わりです。
7点の書き手を突き合わせると、1980年代の英国の3本には同じ一人が連なっています。1984年の2本は同じ調査の前編と後編、1986年の1本はその数年後の追跡です。独立した7つの点検が並んでいるのではありません。それでも残ったのは「集まれば知恵が活きる」でも「サークルは効かない」でもなく、崩れた原因として挙げられたのが、経営層と組合による考え方の拒否、会社の再編と人員削減、世話役が会合を組む時間の不足、中間・第一線管理職の非協力——いずれも設計と運営の側だったという一点でした。数えられていたのは、崩れた活動の割合。要旨の範囲では、崩れなかった活動が何を持っていたかまでは読めませんでした。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「現場の知恵を活かすには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 無作為化比較試験
- くじ引きの要領で「介入を受ける群」と「受けない群」に分けて比べる実験。「効いたかどうか」を言うための標準的な設計です。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
