IN PRODUCTION · ISSUE 325

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「全員で点検すれば、設備は止まらなくなる。」この号が見るのは止め方ではなく、その言葉が原典でどう書かれていたかのほうです。

TPM〔全員参加の生産保全。設備の点検と手入れを、保全の担当だけでなく使う人も含めて担う活動〕の話です。どの設備を入れるべきかも、保全を任せる先も書きません。

扱うのは6点。うち2点は、著者三人がそのまま同じです。独立した検証ではありません。全文まで読めたのは6点のうち2点で、うち1点は刊行版と組版の違う著者稿です。

出発点は2001年、Journal of Operations Management 19巻1号39-58頁の査読論文です。抄録の一文目——"we investigate the relationship between Total Productive Maintenance (TPM) and manufacturing performance (MP) through Structural Equation Modeling (SEM)."(TPMと製造の業績の関係を、構造方程式モデルという解析で調べる)。調べたのは、関係です。

結果はこう書かれます——TPMは、低い費用・高い品質・確かな納期と正で有意な関係を持つ。業績として挙がるのは四つで、費用は在庫の回転の速さ、品質は規格への適合の度合い、納期は納期どおりに届いた割合と届くまでの速さです。設備が止まった回数は、そこに入っていません。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
測られたのは、止まった回数ではなく、業績との関係でした。 Visual: ALIFE

同じ抄録に、もう一行あります——"there is a significant and positive indirect relationship between TPM and MP through Just-In-Time (JIT) practices."(TPMと業績のあいだには、JIT〔必要なものを必要なだけ作る仕組み〕を通した、有意で正の間接の関係がある)。点検の活動と、在庫を絞る仕組みは、現場では同時に進みます。

どの国の何工場を調べたのかは、その抄録には書かれていません。この号が到達したのも、そこまでです。

01正で有意な関係が報告された。ただし、止まった回数は業績の側に無い。Journal of Operations Management 19巻1号。複数の関係をまとめて推定する解析で調べた査読論文です。挙げられた業績は、在庫の回転・規格への適合・納期どおりの割合・届くまでの速さの四つ。止まらなくなった、という報告ではありません。関係の向きも、その数字には書かれていません。

02関係の一部は、別の仕組みを通った間接の道だった。同じ抄録が、JITを通した正の間接の関係も報告しています。数字が動いたとき、点検の活動だけの分を、この報告から取り出すことはできません。業績の良い工場だから点検に手が回るのか、その逆なのかも、決められないままです。

03大規模な実証研究は無い、と2023年のレビューが自ら書いた。Journal of Quality in Maintenance Engineering 29巻1号114-135頁。逐語は——"there is no systematically conducted large-scale empirical research which deals with TPM implementation."(TPMの実施を扱った、体系的な大規模の実証研究は無い)。この総覧はインドの製造業に限る、と同じ抄録が断っています。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆の3本の脚が支えているコンソールテーブル
三つとも、TPMを入れれば止まらなくなると示した研究ではありません。 Visual: ALIFE

手引きでよく見る言い方を、原典の側から見直します。どれも間違いではなく、限定が落ちると意味が変わる、という話です。

01「本家があるなら確か」——本が定めたのは、言葉と目標のほうです。1988年に英訳が出た書籍〔査読誌の論文ではありません〕は、TPMの定義を五つの要素で置きます。設備の効率を最大にすること、設備の一生にわたる保全の体系、複数の部門での実施、経営から現場までの全員の参加、小集団活動。そのうえでこう書きます——"The dual goal of TPM is zero breakdowns and zero defects."(TPMの二つの目標は、故障ゼロと不良ゼロである)。ゼロは、目標の側に置かれた言葉でした。

02「数字が出ているなら効く」——並ぶのは、賞に届いた側の実績です。同じ本は、設備の稼働率が17〜26%上がった会社、工程の不良が90%減った会社があり、労働生産性はおおむね40〜50%上がった、と並べます。何社のうちの何社かは、書かれていません。賞に届く成果が出るまで平均で三年かかり、その間は設備を直し人を教える費用が要る、とも同じ本にあります。

03「どこでも同じに効く」——進み方は、置かれた場所で違いました。1999年、同じ三人の著者が同じ誌の17巻2号へ出した論文は、3か国97工場のデータで、TPMがどこまで進んでいるかを説明する要因を調べました。国という文脈も違いを説明しますが、より効いていたのは工場の経営側が動かせる要因のほうだったと報告します。この97工場・3か国は、1999年の論文の標本です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具、中央は窓の外を見る女性、右は玄関の床のコートと鍵
本が定めたのは言葉と目標で、効果の証明ではありません。 Visual: ALIFE

見方を一つ足します。2004年の Manufacturing & Service Operations Management 6巻2号の論文はこう書きます——"Regardless of its source, all variability in a production system will be buffered."(出どころが何であれ、生産の仕組みのばらつきは必ずどこかで緩衝される)。受け皿は在庫・設備の余力・時間の三つ。設備が止まることも、そのばらつきの一つです。この論文が挙げる例では、1日3交代が普通だった時期に2交代10時間とし、あいだの2時間を予防保全にあてた工場が、その時間を余力の受け皿として使っていました。

標本の偏りも断っておきます。ここまでの数字は、TPMを入れた工場と、本に載った実績から出ています。ひとりで製造も検品も回す工房や小さな厨房では、点検は「自分の時間」として出ていて、記録に残りません。全文まで読めたのは6点のうち2点。読めていないものについては書きません。止まったことを、その場にいた誰かの注意不足に置き換えないでください。

ゼロは、掲げられた目標でした。
達成の報告では、ありません。

ここから先は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。同僚の点検も、あなたの手入れの丁寧さも採点しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付を書き、自分がいつも使う機械や道具を一つ選んで名前を書く。人の名前も、会社の名前も書きません。

  2. 02LIST

    直近で止まった・詰まった・調子が落ちた出来事を、思い出せるだけ書き出す。日付・どんな様子だったか・その場でどうしたかを、一行ずつ添える。

  3. 03COUNT

    書き出した出来事の件数を、最後に一つの数字で書く。**原因は突きとめなくて構いません。**ゼロなら、ゼロと書いて終わりです。

10分。採点はありません。**同僚や部下の点検を評価・格付けする課題ではありません。**新しく点検を始めたり、誰かに聞いて回ったりはしません。書くのは自分の記憶と手元の記録だけです。設備の購入や改善の提案を求める課題でもありません。厨房でも、荷さばきでも、事務の機器でも、ひとりで全部回している場合でも、同じ形で書けます。しんどくなったら中止を。仕事のことで眠れない、気持ちの沈みが続くというときは、この課題より先に、信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

6点の著者を突き合わせると、2001年と1999年の論文は、三人の著者がそのまま同じです。独立した点検が六つ並んでいるのではありません。それでも残ったのは「こうすれば止まらなくなる」ではなく、業績と結びついていた、という関係のほうでした。2001年の論文が業績として数えたのは在庫の回転と納期で、数えていなかったのは、設備が止まった回数のほうです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「設備を止めないためには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

Next in production

VIEW ALL
ISSUE 32410分未満は、目標だと書いてある。ISSUE 3263は、経験から選ばれた数だった。
ALIFE · ISSUE 325

本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。