IN PRODUCTION · ISSUE 323
● 12 SEC7つのムダ——作りすぎ、手待ち、運搬、加工そのもの、在庫、動作、不良。この7つを消せば現場は強くなる、と教わります。分類の出どころは確かです。7項目がそのまま並んでいるのは、1988年の英訳版です(原著は1978年の邦書で、この号は書誌を確かめたところまで)。
ただし、分類に由緒があることと、消せば強くなる効果が条件を問わず成り立つことは別です。この号は、ムダの消し方を教えません。何が測られ、どちら向きの結果が出たかだけを書きます。
英訳版の第2章には、7項目がこう並びます。"Waste of overproduction / Waste of time on hand (waiting) / Waste in transportation / Waste of processing itself / Waste of stock on hand (inventory) / Waste of movement / Waste of making defective products"。続く一文は「これらのムダを完全になくせば、稼働効率を大きく改善できる」。置かれているのは見るための分類であって、効果を対照つきで測った記録ではありません。

では、消せば強くなるのか。この問いをまとめて測った報告は、医療機関の運営という別の分野に集まっています。工場ではなく病院の話ですが、同じ道具を同じ名前で入れ、結果を数えた点では手がかりになります。ここで出てくる数字は、読者の健康の話ではありません。組織にこの道具を入れたとき、何がどちらへ動いたか、です。
0122本を精査すると、向きは3つに分かれた。2016年に International Journal for Quality in Health Care 誌へ出た系統的レビューは、方法の質の審査を通った22本を精査しました。結果は "(i) no statistically significant association with patient satisfaction and health outcomes; (ii) a negative association with financial costs and worker satisfaction and (iii) potential, yet inconsistent, benefits on process outcomes like patient flow and safety." ——患者満足と健康の成果には統計的に有意な関連なし、費用と働き手の満足には負の関連、患者の流れや安全といった工程の成果には可能性はあるが一貫しない便益。ただし22本に無作為割り付けの試験は一つもなく、対照群があったのは1本だけでした。
0233本すべてが、肯定的な結果だった。2010年に Quality & Safety in Health Care 誌へ出たレビューは33本を精査し、"All articles report positive results." と書きました。全部が肯定的な結果を報告していた、という意味です。同じレビューは、多くが技術的な適用にとどまり組織への広がりは限られるとも書き、効いたかどうかは道具そのものではなく、文脈・仕組み・結果の組み合わせで決まると整理しています。
03英国の4件では、効果は小規模で局所的だった。2012年に Social Science & Medicine 誌へ出た論文は、題名に「果たされていない約束か?」と疑問符を付け、英国NHSの4件の多階層ケーススタディを報告しました。使われたのは個別の道具で、それらは "tend to produce small-scale and localised productivity gains" ——小規模で局所的な生産性の向上を生みがちだ、と。2015年に Health Policy 誌へ出た網羅的レビューは243本を整理し、良い影響についても課題についても最終的な結論を出せる段階ではないとしています。

手元で同じことが起きていないか。手がかりは、3つあります。
01消したあとの費用を、数えていない。2016年のレビューは、精査した22本のうち実際の財務コストを調べたものは一つも無いと書いています。費用の記録が取れたのは、カナダの一つの州が公表した数字だけでした。外部への助言料は3,500万ドル、内部の推進部署が3年で5,100万ドル。いっぽう同じ州の医療圏が公表した節約見込みの合計は56,934.26ドル。著者は「報告された数字が正確で真実なら」と断ったうえで、1ドルの節約に1,511ドルを使った計算になる、と書きました。一つの州の公表値で、この道具の費用対効果の一般値ではありません。
02効いた話ばかりが、手元に集まる。2010年のレビューが精査した33本は、すべてが肯定的な結果を報告していました。導入の事例を何件集めても、集まるのは効いた側です。件数の多さは、効いたことの証拠になりません。うまくいかなかった導入も同じように書かれているか——手元の報告についてそう確かめるのは、レビューの結果そのものではなく、この号の読み筋です。
03ムダではない余裕まで、一緒に数えている。2004年に Manufacturing & Service Operations Management 誌へ出た整理は、実務の文献がこの考え方を「ムダを減らすこと」だけで説明するのは職業への不利益だとし、"there are many causes of variablity that result in a buffer that are not \"waste.\"" と書きました。ばらつきの原因には、余裕を生むけれどもムダではないものが多くある、という意味です。挙げられている例は、客の求めに応じて品ぞろえを増やすこと。効率は落ち、余裕は増えますが、ムダとは呼びにくい。

数えた対象をそろえます。22本・33本・4件・243本。いずれも病院や医療機関に、この考え方を入れたときの記録です。工場や厨房、物流の現場で同じ向きの結果が出るとは書かれていません。この号は、患者安全の数字を読者の健康行動へ読み替えません。費用も満足も、組織の運営の指標です。
到達できた範囲も書きます。名前を挙げた6点のうち、全文まで読めたのは3点。残る3点は公式の抄録までで、読めていない中身については書きません。2016年のレビューの著者自身、22本の設計はどれも質が高くないと断ったうえで、"the evidence to date simply does not support this claim." ——現時点の証拠はこの主張を単純には支えない、と結論に書いています。支えないことと、効かないことは別です。
効いた話が33本そろっても、
効いたことの証拠にはならない。
ムダという言葉には、反対しにくい性質があります。誰もムダを擁護したくない。だから何かを一度「ムダ」と名づけてしまえば、消すかどうかの議論は半分終わっています。平常時の余分が、揺れた日の備えでもあること——これは研究が測った結果ではなく、ばらつきと余裕という言い方に置き換えた2004年の整理から、この号が引いた読み筋です。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
今日の日付と、最近「ムダだ」と感じて減らした(減らそうとした)ものを1つ書く。
- 02RECALL
それが何かの狂った日に役に立っていた場面があったか、1〜2行で書く。
- 03LABEL
「消してよいムダ」か「手放した余裕」か、自分の見立てを一語で添える。
分類が世に出たのは1978年、英訳で読めるようになったのが1988年、2010年に肯定的な報告ばかりが並び、2012年から2015年に効果の混在が整理され、2016年に費用と働き手の満足で負の関連が出る。38年で確からしくなったのは、消せば強くなるという因果ではなく、効くかどうかが文脈と入れ方に依存するという条件のほうでした。だから、何をムダと数えるかを決める作業のほうが、先に来ます。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSムダを削ぎ落とすには?を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 系統的レビュー
- あらかじめ決めた基準で研究をもれなく集めて整理する方法。数値の統合(メタ分析)まで行わないこともあります。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

