IN PRODUCTION · ISSUE 322
● 12 SEC「なぜを5回繰り返せば、不良の真因に届く。」この号が見るのは掘り方ではなく、その5回と、真因は1つという前提を、誰がどう確かめたのかのほうです。
真因〔root cause。そこを直せば再発しないとされる大元の原因〕を探す手順は、工場でも厨房でも事務でも教えられます。この号は、なぜなぜ分析をやめろとも、続けろとも言いません。
扱うのは6点。うち5点は、医療機関の安全管理を論じたものです。患者の健康の話ではありません。全文まで読めたのは6点のうち5点で、1点は公式の抄録までです。
なぜなぜ分析は、起きた不良に「なぜ」を重ねて原因の候補を掘る手順です。5回という回数の出どころは、1988年に英訳された生産方式の本の第2章、「なぜを5回繰り返す」という節にあります。
機械が止まった例が5段たどられます。ヒューズが飛んだ、軸受けの潤滑が足りない、ポンプが十分に汲めていない、軸が摩耗している、ストレーナーが付いておらず金属くずが入った。"By asking why five times and answering it each time, we can get to the real cause of the problem, which is often hidden behind more obvious symptoms."(なぜを5回たずね、そのつど答えることで、より目につく症状の裏にしばしば隠れている、問題の本当の原因に行き着ける)。
巻末の用語集は、5回のなぜは1つのハウに等しい、と要約します。この本が書いているのは作法と、その作法が生まれた現場の話です。5回で真因に届くかを測った検証ではありません。

由緒があることと、効果が測られたことは別です。2017年に医療の質と安全の専門誌へ出た論文は、5 whys が医療の根本原因分析〔root cause analysis。RCAと略されます〕でもっとも広く教えられている手法の一つで、世界保健機関をはじめ各国の医療の質と安全の組織がその使用をすすめている、と挙げます。そのうえで——
"Like most such tools, though, its popularity is not the result of any evidence that it is effective."(ほかの多くの道具と同じく、この普及は、それが効くという証拠の結果ではない)。代わりに置かれているのは、由緒と、単純さと、教えやすさの三つです。医療での普及についての記述で、工場や厨房での普及を数えた調査ではありません。
01効果を測った11本は、すべて改善を報告し、対照試験は1本もない。2008年に医療安全の専門誌へ出たレビュー。集めたのは、RCAの過程を述べた23本・事例研究38本・枠組みの弱点を分析した12本。効果を測ったのは事例研究のうち11本(臨床のアウトカム3本・プロセス指標8本)で、"All 11 articles report improvement of safety following RCA."(11本すべてが、RCAのあとの安全の改善を報告している)。枠組みを検証した対照試験は1本も無い、とも同じ抄録にあります。到達したのは公式の抄録までです。
02丁寧にたどった5回でも、拾えたのは経路30本のうち2本だった。同じ2017年の論文の全文から。一つの出来事を樹形図にすると因果の経路は30本あり、医療で教えられている型より丁寧にたどった5 whys でも、そのうち2本しか拾えない、と書きます。この道具は"insists on a single root cause as the target for solutions"(対策の的として単一の真因を要求する)——事故がただ1つの真因から起きることはめったにない、と別の文献を引いて添えています。一つの実例の樹形図での数で、集計ではありません。
03「真因」という名前そのものが、原因は1つだと思わせる。2004年に同じ誌(当時の誌名は Quality & Safety in Health Care)へ出た編集記事。査読論文ではありません。"The term ‘root cause analysis’, while widespread, is misleading in a number of respects. To begin with, it implies that there is a single root cause, or at least a small number."(「根本原因分析」という語は、広まってはいるが多くの点で誤解を招く。まず、単一の真因、少なくとも少数の原因があると思わせる)。医療機関の出来事の分析についての議論です。

現場でよく聞く言い方を、原典の側から見直します。どれも「間違い」ではなく、限定が落ちると意味が変わる、という話です。
01「5回たどれていないから届かない」——回数は、道具の名前の中の数です。5 whys を論じた2017年の論文は、名前にある回数に使う側が縛られる必要はない、五つより多くても少なくてもよい、という別の著者の整理を引いています。この論文自身の主張としてではありません。5回で真実が待っていると確かめた検証があるわけでもありません。回数を増やす提案でも、減らす提案でもありません。
02「だからRCAはやめたほうがいい」——同じ年の論文は、そうは書いていない。2017年に同じ誌へ出た、根本原因分析の枠組みそのものを論じた論文。"we propose that RCA does have potential value in healthcare, but it has been widely applied without sufficient attention paid to what makes it work in its contexts of origin"(RCAは医療で役立つ可能性を確かに持つが、それが生まれた場で何が効かせているのかに十分な注意を払わないまま広く使われてきた、と私たちは論じる)。この論文が並べるのは、やめる理由ではなく八つの課題です。
03「原因が分かれば対策は決まる」——出てくるのは、仮説のほうです。同じ2017年に同じ誌へ出たもう一つの編集記事は、RCAを仮説を生む手順だと位置づけます。その編集記事が同じ号の研究として紹介するのは、米国の大学病院1施設で8年間に行われた302件のRCAの見直しで、もっとも多かった対策の型は訓練・手順の変更・方針の徹底だった、というもの。この記事はその研究そのものには到達しておらず、編集記事の紹介の範囲です。

射程を断っておきます。6点のうち5点は、医療機関の安全管理と出来事の調査についての議論です。患者安全の数値や手順を、ご自身の健康の話に移し替えて読まないでください。工場・厨房・物流・事務の不良について、この5点が何かを測ったわけでもありません。
到達もそろっていません。全文まで読めたのは6点のうち5点で、効果のレビューだけは公式の抄録までです。そのレビューの抄録自身が、限られた文献が示すのは逸話的な証拠だと書いています。うまくいった回は語られやすく、効かなかった回は記録に残りにくい——これは特定の研究の主張ではなく、この号の見方です。
掘った深さは、
答えの正しさとは、関係がありません。
ここから先は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。同僚も部下も評価しません。不良を誰かの注意不足として書く課題でもありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリに今日の日付を書く。自分の作業で最近起きた不良を1件思い出し、いちばん上に短く書きます。
- 02BRANCH
そこから「なぜ」を3〜4回たどって下へ書く。各段の横に、他にも考えられる原因を1つずつ書き足します。
- 03COUNT
全体が1本の線ではなく枝分かれの図になっているかを確かめ、真因を1つ選ばずに、残った候補の数だけを書き添える。
6点の著者を突き合わせると、重なる名前はありません。ただし4点は同じ専門誌に載り、うち2点は2017年の同じ号です。独立した6つの点検ではありません。それでも並べて残ったのは「5回たどれば減る」ではなく、5回という回数も、真因が1つだという前提も、まだ確かめられていないという手前の事実でした。数えられているのは、たどった回数と、書かれた報告の枚数。数えられていないのは、次に出なかった不良のほうです。
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