IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 320
● 12 SEC「BCPを作り、在庫を積み、仕入先を複線化すれば、止まらない網になる。」この号が見るのは止め方ではなく、その「効いた」を、誰がどう確かめたのかのほうです。
BCP〔事業継続計画。途絶が起きても事業を続ける手順を書いた文書〕をはじめ、強靭化と呼ばれる備えが相手にするのは、めったに起きないが起きると大きい途絶です。どの災害が来るかは読みません。特定の手引きも会社も、勧めも批判もしません。
扱うのは6点。うち2点は著者を二人ぶん、別の2点は一人ぶん共有します。独立した6つの検証ではありません。全文まで読めたのは1点で、それも出版社が組む前の著者最終稿です。
出発点は2015年。Interfaces 45巻5号に出た、自動車の供給網を題材にした研究です。査読誌の論文ですが、3年間の産学共同——著者9名のうち5名は、題材になった自動車メーカーの社員です。切り抜けた側の記述に、利害のある側が加わっています。
そこにこう書かれています——"Firms are exposed to a variety of low-probability, high-impact risks … These risks are difficult to predict and quantify; therefore, they are difficult to manage."(企業は、低い確率で高い影響をもたらす多様なリスクにさらされている。こうしたリスクは予測も定量化も難しく、したがって管理も難しい)。
この論文が作ったのは、途絶がどこで起きても操業への影響を測れる数理モデルです。指標も、ある想定の影響を、考えたすべての想定の最大値で割って並べ直すリスク暴露指数〔risk-exposure index〕。備えが効いたかを測る道具ではありません。

だからこの論文は、確率を測る順番を後ろへ動かしました——"Our approach defers the need for a company to estimate the probability associated with any specific disruption risk until after it has learned the effect such a disruption will have on its operations."(この取り組みは、特定の途絶リスクの確率を見積もる必要を、その途絶が操業に与える影響を知ったあとまで先送りする)。
確率が測れないことを前提に組まれた手法、ということです。原典が踏み込んでいるのは「管理が難しい」まで。その先——積んだから安全になった、の「どれだけ」も測れない——は、原典の所見ではなく、この号の読み方です。
01どれで備えるかは、仕入先の稼働率と、途絶が「稀で長い」か「頻繁で短い」かで変わる。Management Science 52巻5号。会社を追った記録ではなく、数理モデルの解析です。逐語で——"For a given percentage uptime, sourcing mitigation is increasingly favored over inventory mitigation as disruptions become less frequent but longer."(同じ稼働率のもとでは、途絶が頻度を下げて長くなるほど、在庫による緩和より調達による緩和が有利になっていく)。到達したのは公式の抄録までです。
022012年の研究者調査は、この領域を萌芽的と呼び、三つの隔たりを挙げた。Production and Operations Management 21巻1号。文献の見直しと、二つの集団への自由記述の聞き取りと、2009年の学会での研究者への調査から。隔たりは定義・対応・そして"a methodology gap in terms of inadequate use of empirical methods"(実証的な方法が十分に使われていないという方法の隔たり)。測ったのは研究者の見え方で、備えの効き目ではありません。
032015年の文献の地図が示したのは研究の分布で、効果を測る尺度の成熟度ではない。European Journal of Operational Research 247巻1号。計量書誌とネットワーク分析で文献を地図にし、形式的なモデルの流れを八つ挙げました。所見は、供給網リスクの定量分析が急速に拡大していること、持続可能性のリスクが新興のテーマであること。「効果を測る尺度が薄い」はこの論文の言葉ではありません——それは02の側の言葉です。

手引きでよく見る言い方を、原典の側から見直します。どれも「間違い」ではなく、限定が落ちると意味が変わる、という話です。
01「在庫を積めば止まらない」——最適の選択肢には、受け身で受け入れるも入る。同じ2006年の抄録から——"We prove that in the special case in which the reliable supplier has no flexibility and the unreliable supplier has infinite capacity, a risk-neutral firm will pursue a single disruption-management strategy: mitigation by carrying inventory, mitigation by single-sourcing from the reliable supplier, or passive acceptance."(信頼できる仕入先に融通がなく、信頼できない仕入先の能力が無限という特別な場合には、リスクに中立な会社は在庫・単独調達・受け身の受け入れのうち一つをとる)。「一つに絞られる」はこの特別な場合の定理で、能力が有限なら、あるいは会社がリスクを避ける側なら、混ぜた戦略が最適になりうる、とも同じ抄録にあります。
02「認証があれば強い」——規格が定めているのは、要求事項のほうです。事業継続の規格 ISO 22301:2019(第2版・2019年10月・21頁)。公開されている頁にあるのは"This document specifies requirements to implement, maintain and improve a management system to protect against, reduce the likelihood of the occurrence of, prepare for, respond to and recover from disruptions when they arise."(この文書は、途絶に対して守り、発生の可能性を下げ、備え、対応し、回復するための管理の仕組みを、実施し、維持し、改善するための要求事項を定める)。確かめられるのは仕組みが要求事項を満たしているかで、途絶に強かったかではありません。条文は有償で、この号は読んでいません。
03「在庫か、複線化か」——2018年は、工程の柔軟性と在庫を一緒に解いている。Production and Operations Management 27巻8号。二段階のロバスト最適化〔最悪の場合でも成り立つ解を探す組み方〕で、途絶の前に在庫を置き、途絶の後に各工場の生産量を決めます。柔軟性が低いうちは変動の大きい品目へ在庫を厚く、柔軟性が上がると配分が入れ替わる、と。自動車の供給網を模した数値例までで、実際の会社で効き目を測った研究ではありません。到達は抄録まで。

標本の偏りを断っておきます。強靭化の手引きは、途絶を切り抜けた側の記録から書かれます。記録に残るのは、報道された途絶と、開示された途絶が中心です。静かに一つ消えた小さな仕入先は、たいてい数えられません。生き延びた側の打ち手が効いたのか、たまたま共通していただけなのかは、分けられない。これは特定の研究の主張ではなく、この号の見方です。
到達もそろっていません。全文まで読めたのは6点のうち1点で、それも査読後・組版前の著者最終稿なので、頁では引けません。4点は公式の抄録まで、1点は規格の公開頁までです。読めていないものについては書きません。よく流れる「BCPを持つ企業の◯%」型の数字も、一次の出どころに辿り着けなかったので引きません。
備えたことは、数えられます。
効いたことは、まだ数えられていません。
ここから先は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。仕入先も同僚も評価しません。備えを増やせとも、減らせとも言いません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
手元にある強靭化やBCPの文書を一つ選ぶ。社内の方針でも、記事でも、手引きでもかまいません。会社の名前も、人の名前も書きません。
- 02MARK
挙がっている施策を一つずつ書き出し、効いたことの証拠つきか、切り抜けた事例の紹介だけか、どちらとも言えないかを、書かれている範囲で印す。
- 03COUNT
「事例紹介だけ」がいくつあったかを数える。多い少ないの判定はしません。数えた紙は、そのまま置いておきます。
6点の著者を突き合わせると、2015年と2018年は著者を二人ぶん共有し、2012年と2015年の地図はもう一人を共有します。独立した6つの点検ではありません。それでも並べて残ったのは「こうすれば止まらない」ではなく、効いたかを測る物差しが、まだ揃っていないという手前の事実でした。数えているのは、積んだ在庫と、書いた文書の厚み。数えていないのは、起きなかった途絶の損失——この備えが、いちばん備えたかったもの、そのものです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「止まらない供給網を作るには?」を、もっと深く学ぶ。→
