IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 319

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「契約書を詰めれば、発注は確実に回る。」仕入れと発注の話には、この一言がよく付いてきます。条項を一つ足すたび、確実になった気がします。この号が見るのは条項の書き方ではなく、詰めた契約が実際に使われたかどうかのほうです。

1963年、事業者と弁護士68名への聞き取りをもとにした研究が出ました。内訳は43社と6つの法律事務所、製造業が中心の予備調査です。報告されたのは、事業者は交換関係を完全には計画しないことが多く、関係の調整や紛争の解決に法的な制裁をめったに使わない、ということでした。

割合の数字はこの号に出てきません。原典には注文の一部を数えた比率も出てきますが、この号が運ぶ「多い」「めったに」「しばしば」は、原典でも頻度の言葉で書かれた所見だからです。この号は、契約を軽んじてよいとは言いません。

完備契約(あらゆる将来の事態を書き切った契約)とは、起こりうることを全部書き出し、それぞれどうするかを決めておいた契約のことです。1988年に Econometrica 56巻4号へ出た論文は、その反対——不完備契約——を扱いました。契約を結ぶとき関連する事態をすべて特定するのはしばしば実行できず、だから契約はふつう不完備である、という前提から出発します。

ただしこれは理論の論文であって、会社を数えた実証ではありません。起点になった1986年の Journal of Political Economy 94巻4号の論文も同じく理論で、書き切れない部分が残るからこそ誰が決める権利を持つか——所有——が意味を持つと述べています。どちらも、契約の書き方を変えて結果を比べた研究ではありません。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
詰めた条項の数は、書けたものの量。書けなかったものの量ではない。 Visual: ALIFE

では、実際の取引では何が起きていたのか。ここから並べるのは、性格の違う二本がそれぞれ何を報告したかです。半世紀以上前の聞き取りが一つと、繰り返しの関係を扱った理論が一つ。足し合わせずに、並べます。

01聞き取ったのは、68名・43社でした。1963年に American Sociological Review 28巻1号へ出た研究は、68名の事業者と弁護士に聞き取りました。43社と6つの法律事務所、製造業が中心の予備調査です。要旨の逐語は——「事業者は交換関係を完全には計画しないことが多く、関係を調整したり紛争を解決したりするのに法的な制裁をめったに使わない」。この所見に、何割という数字は付いていません。

02もめごとは、契約を持ち出さずに片づいていました。同じ研究は、紛争の処理についてこう書いています——「紛争はしばしば、契約や、ありうる・現にある法的制裁を持ち出すことなく解決される。法的な権利を口にしたり、訴えると脅したりすることには、ためらいがある」。細かく計画した合意があっても、しばしば一度もその合意を参照せず、問題が起きたときに交渉で解決する、とも書かれています。

03書かれない約束のほうが、広く見られました。2002年に The Quarterly Journal of Economics 117巻1号へ出た論文は、それを関係的契約と呼びます——「将来の関係の価値によって支えられる非公式の合意は、企業の内でも企業の間でも広く見られる」。ただしこれも繰り返しゲームの理論で、会社を数えた実証ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
68名・43社・6つの法律事務所。一つの聞き取りと、一つの理論。 Visual: ALIFE

ここで「契約は当てにならない」まで進むと、今度は逆へ外れます。取り違えやすいところが三つあります。

01代わりではなく、補い合っていました。2002年に Strategic Management Journal 23巻8号へ出た研究は、形式的な契約と関係的な統治が、代わり(二者択一)なのか補い合うものなのかを正面から調べました。要旨の逐語は——「形式的な契約と関係的な統治は、補完物として働く」。契約を厚くする組織ほど関係的な統治も厚い、という向きです。標本は情報サービスの外注の取引で、その本数は要旨に書かれておらず、この号は本文に届いていないので書きません。

02理論の論文は、効果の測定ではありません。「書き切れない部分が残る」の根拠になっている1988年と1986年の二本は、どちらも理論の論文です。会社を追った記録でも、契約の書き方を変えて結果を比べた実験でもありません。「だから契約は効かない」も「だから関係が効く」も、この二本からは出てきません。

03法が定めているのは、最低限の枠です。国内では下請代金支払遅延等防止法(下請法・1956年制定)が下請取引の公正化の規定を置いています。2024年11月1日にはフリーランス保護法が施行され、業務を委託したら直ちに業務の内容・報酬の額・支払期日などの取引条件を明示することが定められました。この号は施行日と義務の存在という事実の確認までで、法の解釈も、個別の取引の適否も判断しません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
代わりではなく補完・理論と実証の別・法が定める最低限。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは、七点のうち二点です。三点は公式の抄録までで、残る二点は法令と制度の公式の頁です。読めていないものについては書きません。

測られたものの限定も置きます。ここまでの証拠は、主にアメリカの事業者への調査と、契約の理論から採られています。1963年の調査は半世紀以上前で、製造業が中心、業種も地域も限られます。契約や取引を語れる立場の事業者に寄っており、書面を交わせない取引は標本に入りにくい。だから「関係で回る」を、書面を軽んじてよい理由にはしません。書面という最低限の枠を誰が要るとみるかは、この七点が測ったことではありません。

詰めたのは、書けたものでした。
残ったのは、書けなかったもののほうでした。

ここから先は、研究が命じた順番ではありません。七点が示したのは、半世紀以上前の聞き取りと、理論と、契約データの向きだけです。ここからはALIFEが提案する実践の入口で、研究結果そのものではありません。契約は変えません。相手の評価もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    自分が結んだ契約書か発注書を一通取り出す。過去のものでかまいません。無ければ、取引の条件を書いたメールや注文書でかまいません。会社の名前も、人の名前も書きません。

  2. 02COUNT

    そこにある「もしこうなったら」という条項——納期が遅れたら、数量が違ったら、支払が遅れたら——を書き出して、件数を数える。

  3. 03SPLIT

    その取引で実際に起きた変更やトラブルを、手元の記録の範囲で「条項を根拠に処理した」「話し合いで処理した」に分け、それぞれの件数を書く。

10分。採点はありません。**相手に問い合わせたり、出方を試したりはしません。仕入先や同僚を評価・格付けする課題ではありません。**契約の見直しにも、発注の判断にも使えません。法の解釈や、自分の取引が法に当てはまるかどうかの判断にも使えません。組織に属していなくても、最近の注文や約束を一つ思い出せば成立します。しんどくなったら中止を。仕事のことで眠れない、気持ちの沈みが続くというときは、この課題より先に、信頼できる相談先や医療・支援の専門家へ。

七点の著者を突き合わせると、1988年の論文と1986年の論文は、著者を一人ぶん共有しています。独立した二つの点検ではありません。それでも、並べて確からしくなったのは「固めれば回る」という結果のほうではなく、書き切れなかった部分が必ず残るという手前の事実でした。増えたのは条項の数で、今日残るのは判定ではありません。一通の書面と、二つの数だけです。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。