IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 313
● 12 SEC「サプライチェーンは可視化できる。」そう言われます。実際に見えているのは、たいてい一次の相手まで。その相手がどこから仕入れているかになると、とたんに霞みます。
この号が見るのは、道具の性能ではありません。網を描くという仕事が、実際にどれだけの労力だったかのほうです。2002年の研究は、たった一つの部品の網を描くのに、集中的な多事例研究になりました。
そして2020年の実務誌の記事には、こうあります——ある半導体の作り手が深い層まで描くのに、100人のチームで1年以上。この号は、可視化の道具を勧めも止めもしません。
供給網の可視性とは、手元から上流へ何段さかのぼって見えるか、ということです。2002年に Journal of Operations Management 20巻5号へ出た研究は、中央コンソールという一つの部品の完全な供給網を、二つの自動車メーカーの三つの製品ラインについて描き出しました。事例研究であって、実験ではありません。
構造は形式化・集中・複雑さの三つの次元でとらえられ、抄録の結びはこうです——「費用への配慮が、供給網の構造を形づくる包括的な力であるように見える」。網の形は自然にそうなったのではなく、何を費用と数えるかの積み重ねだった、と読めます。

2011年に同じ誌の29巻3号へ出た研究は、その同じ三つの網を社会ネットワーク分析〔つながり方を数で測る手法〕で測り直しています。描いたものを測ることが、また一本の研究になりました。新しい網を描いたのではありません。
012002年。一つの部品の完全な網を、二社三ラインで描いた。事例ごとに分析し、事例間の比較へ広げた多事例研究。形式化・集中・複雑さの三次元は互いに段階的に効き、費用への配慮が最も大きな力と報告されました。一つの企業の網全体ではなく、一部品の網です。読めたのは公式の抄録まで。
022015年。要の相手は、網での位置から重要になる。結節点の仕入れ先という類型。抄録の逐語は——「網の位置と、そこから生まれる組織間のつながりの束ゆえに重要である」。そして多層の網のどこからでも現れうる。従来の戦略的仕入れ先は上位の層を一社ずつ見る見方でした。ただしこれは類型の提示で、効果の測定ではありません。
032014年。構造はリスクの広がりと関連し、可視性は重要だとされた。計算機の上でモデルを回した研究。網の構造がリスクの広がりと網の健全さの両方に有意に関連し、抄録は「供給網の可視性の重要性を示す」と書いています。主な結果は、スモールワールド型がスケールフリー型を一貫して上回ること。実在の会社を追った記録ではありません。

2020年の実務誌の記事(査読誌ではありません)は、深い層まで描くのを見送る理由として、労力と時間の見積もりを挙げています。ある半導体の作り手は、2011年の地震のあとに深い層まで描くのに100人のチームで1年以上かかった、と。そして多くの会社は、一次とごく一部の下位の相手からの人づての情報に頼っている——「逸話的で、しばしば単なる推測にすぎない」。担当者が去れば、その知識も去ります。
01「道具を入れれば、全体が見える」。学術研究でさえ、一つの部品の完全な網を、三つの製品ラインで描くのに集中的な多事例研究を要しました。実務側の記事が書く見積もりも100人で1年以上。見えない理由を、道具の性能だけの問題と取り違えないほうが安全です。
02「重要な相手は、上位の層の大口だ」。2015年の理論は、要の相手が買い手の利益とリスクへの影響の大きさではなく、網での位置から重要になり、多層の網のどこからでも現れうると書きました。上位の層を一社ずつ見る見方とは対照的だ、とも。ただし類型の提示であって、実測の研究ではありません。
03「一次の先まで見えている企業は◯%」という調査。その割合が小さいことは、可視化できていないことの証拠です。「道具を入れれば見える」ことの証拠ではありません。この種の数字の多くは可視化の道具を売る側の自社調査で、査読を経ていません。だからこの号は、割合の数値を一つも引いていません。

全文まで読めたのは六点のうち一点——2020年の実務誌の記事だけです。残る五点は公式の抄録まで。読めていないものについては書きません。だから本文で引いた逐語は、すべて抄録か、その記事の本文に印字されている範囲のものです。
測られたものの限定も置きます。2002年は事例研究で、一つの部品・三つの製品ライン・一つの産業。2014年は計算機の上のモデルで、実在の会社の記録ではありません。2015年は理論の提示です。「見えるようにすれば危険が減る」という因果を測った研究は、この六点の中にありません。この号は、可視化の道具を勧めも止めもしません。取引先を見直す判断にも使えません。
地図の余白は、危険が無い場所ではありません。
まだ描けていない場所です。
2013年に Systems Engineering 16巻2号へ出た総説は、供給網をネットワークとして分析する研究を、構造・動態・戦略という三つの主題に整理しました。網を描き、測ることが、それ自体で一つの研究の流れになっている、ということです。
次の3手は、研究が命じた順番ではありません。ここからはALIFEが提案する実践の入口です。相手に問い合わせません。取引も、発注も変えません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日扱っているものを一つ選ぶ。品目の名前だけで十分です。会社の名前も、人の名前も書きません。
- 02COUNT
手元の納品書・表示・仕様書だけを見て、それがどこから来たかを、たどれるところまで段を数える。問い合わせはしません。
- 03MARK
たどれなくなった所に「ここで白くなる」と1行書く。白い場所が見えることが、この記録の収穫です。
六点の著者を突き合わせると、一人の名前が四点に現れます。残る二点も、著者順を入れ替えた同じ二人の対です。しかも2011年は、2002年が描いたその三つの網を測り直したもの——同じデータです。六点は、独立した六つの検証ではありません。
並べて確からしくなったのは、見える範囲を決めているのが道具の性能ではなく、開示と協力が届く範囲のほうだ、という一点でした。今日残るのは判定ではありません。数えた段数がひとつと、「ここで白くなる」と書かれた場所が、ひとつ。それだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「供給網の全体を見渡すには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

