IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 312
● 12 SEC「一社に頼るな、分散せよ。」仕入れの話には、たいていこの一言が付いてきます。この号が見るのは何社に分けるべきかではなく、その助言のうしろにある研究が、実際には何を証明していたか、のほうです。
出発点は2006年の解析。「途絶への対策は、在庫・信頼できる一社・受け入れの一つに絞られる」——よく引かれるこの一文には、原文では前置きが付いています。証明されているのは、特別な場合の話でした。
そしてもう一つ。1997年、ほぼ一社からしか届かない部品の工場が焼けました。組立が再開したのは、二日後です。この号は、複線化を勧めも止めもしません。
一社だけから買うのがシングルソース、複数から買うのがマルチソース。2006年に Management Science 52巻5号へ出た解析は、一つの品目を、信頼できないが安い相手と、信頼できるが高い相手の二社から買える状況を数式で解いたものです。実験ではなく、モデルの上の話です。
原文の一文は、こう始まります——「信頼できる相手に融通が無く、信頼できない相手の生産能力が無限という特別な場合には、リスクに中立な会社は一つの途絶対策を採る。在庫を持って備えるか、信頼できる一社から買って備えるか、何もせず受け入れるか」。よく引かれるのは、後半だけです。

では、何が選択を決めるのか。同じ抄録の次の文が答えています——「相手がどれだけの割合で動いているか(稼働率)と、途絶の性質——頻繁だが短いか、稀だが長いか——が、最適な戦略の主な決定要因である」。何社に分けるか、ではありません。
012006年の解析は、限定つきで一つに絞られると証明した。同じ論文は、信頼できない相手の生産能力に限りがあるとき、または会社がリスクを嫌うときは、信頼できる相手からの一部調達と在庫を組み合わせる混合戦略が最適になりうる、とも書いています。前置きと但し書きは対。読めたのは公式の抄録まで。
022009年の解析は、単一と二重の期待利益を比べ、分かれ目を求めた。舞台は二段階の供給網、需要は非定常で価格に反応するという設定。二つの買い方の期待利益を式にして比べ、どちらを選ぶかを左右する主な要因の臨界値を求めた——抄録に書かれているのはここまでです。どちらが常に有利、とは書かれていません。
032010年の解析は、危険な環境では複数調達が有利と報告した。実物オプション〔選ぶ権利を金額として評価する考え方〕とモンテカルロ〔乱数で何度も試算する方法〕による計算モデル。ただし抄録が印字している限定は、特定の一事例についての確率的な優位まで。向きが前の二つと逆なので、この号はどちらかを正解にしません。

1997年2月1日、ブレーキに関わる小さな部品の工場が焼けました。その部品はほぼ一社からしか届かず、手元の在庫は二、三日分。焼けた専用の機械や工具は、再発注に数か月かかりうるものでした。事例研究の逐語は——「組立工場は、わずか二日の停止のあとに再開した」。二百社を超える会社が役割を分け合った、と記録されています。
ただし、「二日で回復した」ではありません。同じ記録では、すべての組立工場が通常の生産量(一日13,000〜14,000台)に戻ったのは火災から約一週間強のち、当初計画していた一日15,500台に戻ったのはさらに約一週間後です。停止の長さ・通常への復帰・計画水準への復帰は、別々の測り方です。
01「複数に分ければ、リスクは下がる」。2006年の証明は、信頼できる相手に融通が無く、信頼できない相手の能力が無限という特別な場合の定理です。相手の能力に限りがあれば混合が最適になりうる、とも同じ論文に書かれています。前置きを外すと、別の命題になります。
02「一社だと止まったら終わりで、回復も遅い」。停止は二日、通常の生産量への復帰は約一週間強、計画水準までさらに約一週間。三つは別の数字です。原典が速さの源として書くのは、供給元の数ではなく、途絶のあとに動けた関係と、代わりの道のほうでした。
03「複線にすれば、上流は気にしなくてよい」。2016年に査読誌へ出たレビュー(この号が読めたのは刊行の3年以上前の作業版)は、供給の不確かさが相手どうしのあいだで相関する場合を扱った研究を紹介しています。その紹介の逐語は——「多数調達の系では危険の分散が好まれるが、組立の系では危険の集中が好まれる」。向きは一つではありません。元の論文そのものは読んでいません。

全文まで読めたのは六点のうち二点——1998年の事例研究の複写と、2016年のレビューの作業版です。三点は公式の抄録まで、一点は政府の報告の原文です。読めていないものについては書きません。レビューが紹介する個々の研究は、レビューの記述として運びました。
測られたものの限定も置きます。三つの解析はモデルの上の計算で、実際の会社を追った記録ではありません。事例は一つの国の一つの産業で起きた一つの出来事——しかも生き残った側の記録です。静かに乗り切られた途絶や、畳んで語られない途絶は数に入りません。この号は、複線化を勧めも止めもしません。取引先を見直す判断にも、災害や情勢の予測にも使えません。
よく引かれるのは、一文の後半だけでした。
前半には、特別な場合には、と書いてあります。
上流が一つ、というのは絵空事ではありません。2021年に米国の政府が公表した供給網の百日点検の報告は、逐語で——「半導体の製造は地理的に集中している」。同じ報告は、米国内にある製造能力の割合が20年前の37%から、世界の生産のおよそ12%へ下がったとも書いています。ただしこれは政策の文書で、点検の記述であって、実証の証拠ではありません。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。研究が測ったのはモデルと、一つの事例です。ここからはALIFEが提案する実践の入口。相手に問い合わせません。取引も、発注も変えません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
自分が仕入れているもの、よく買っているものを一つ選ぶ。品目の名前だけで十分です。会社の名前も、人の名前も書きません。
- 02DRAW
紙のまん中に自分を置き、直接の相手を線でつなぐ。その先に、思い当たるなら共通の上流や地域を書き足す。最後に、代わりの調達先を思いつくかどうかを一言。
- 03MARK
分からないところは「分からない」と書いて、丸で囲む。分からない場所が見えることが、この図の収穫です。数を数える課題ではありません。
六点の著者を突き合わせると、名前の重なりはありません。ただし独立した六つの検証でもありません——2016年のレビューは、2006年の解析を要約している側です。並べて確からしくなったのは、「分けろ」という処方ではなく、効き方が稼働率と、途絶の型と、上流の相関で変わる、という条件のほうでした。今日残るのは判定ではありません。紙が一枚と、「分からない」と書かれた場所が、いくつか。それだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「調達先を分散するには?」を、もっと深く学ぶ。→