IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 310
● 12 SEC「仕入先と近づけば、共に強くなる」。供給の話には、この明るい筋書きがあります。実証は、それを否定していません。ただし同じ研究の要旨に、近さは多すぎても成果を損なうことがあると書かれています。
この号が見るのは、どの相手と組むべきかでも、付き合いをやめるかどうかでもありません。協働を深めることと成果の関係が、直線ではなかったという、線の形のほうです。相手を格付けする話にはしません。
社会関係資本とは、関係の中に貯まっていく信頼や結びつきという、目に見えない資源のことです。2011年に Journal of Operations Management 29巻6号へ出た研究は、これを認知的・関係的・構造的の三つの形に分けて測り、買い手の側の成果と突き合わせました。
要旨の中心は、この一文です——“There is an inverted curvilinear relationship between social capital and performance: Either too little or too much social capital can hurt performance.”(社会関係資本と成果のあいだには逆さのU字の関係がある。少なすぎても多すぎても、成果を損なうことがある。)割り付けのある実験ではなく、質問票の測度と外部の客観的な測度を合わせた分析です。

上がる理由と下がる理由が、同じところにあります。要旨はこう書いています——“…building social capital in a collaborative BSR positively affects buyer performance, but that if taken to an extreme it can reduce the buyer's ability to be objective and make effective decisions as well as increase the supplier's opportunistic behavior.”(協働の関係で社会関係資本を積み上げることは買い手の成果によい向きに働くが、極端まで行くと、買い手が客観的でいる力と有効な判断をする力を下げ、仕入先の機会主義的なふるまいを増やしうる。)
厚くなった資源は、あるところまでは潤滑油として働き、そこを越えると判断を曇らせる緩衝材に変わる——という読み方が成り立ちます。これは研究結果そのものではなく、ALIFEが置く読み方です。ここから先は、この号が読めた範囲にあったことを三つに分けます。
01明るい側には、自動車の実証があります。1996年に Strategic Management Journal 17巻4号へ出た研究は、日本の2社と米国の3社の自動車メーカーを対象に、企業をまたいだ資産の特殊化と業績の関係を調べました。人の技能を互いに合わせて育てることは品質と新型の開発にかかる期間に、置き場所を近づけることは在庫費用の低さに、それぞれ結びついていたと報告しています。割り付けのある実験ではなく、特定の産業・特定の時期の観察です。
02同じ要旨が、暗い側を付け加えています。“The results show the presence of both the bright side, confirming the existing literature, and the dark side, extending the literature.”(明るい側は既存の文献のとおり確かめられ、暗い側はそこに付け加えられた。)協働は効かない、という報告ではありません。効きに範囲がある、という報告です。要旨は「暗い側が現れるのを買い手が遅らせる方法」も検討したと書いていますが、その中身は本文の側で、この号は読めていません。
03「全部の相手と深く」は、続きません。1998年に California Management Review 40巻2号へ出た論考(査読の仕組みはありますが、実務家向けの雑誌です)は、米国・日本・韓国の453の仕入先と自動車メーカーの関係を調べ、距離を置いた付き合いと深く組む付き合いを相手によって使い分けよ、と説きました——“Since resources are a scarce commodity in any company, they should be allocated mainly to suppliers who fall into the strategic partner category.”(資源はどの会社でも希少なのだから、主として戦略的なパートナーに当たる仕入先へ配分すべきだ。)

線の形の話は、受け取り方のほうで壊れやすくなります。取り違えやすいのは、次の三か所です。
01登り坂だけを、そのまま延ばしている。「近づくほど良い」は、頂点までの話です。要旨が報告しているのは線の向きであって、頂点がどこにあるかではありません。どこまで近づいたら折れるのかを示す数値は、この号が読めた範囲には書かれていません。
02誰が、どう集めた数字かを見ていない。2011年に同じ雑誌の29巻3号へ出た研究は、米国の製造業へのウェブ質問票の調査で、協働と企業業績のあいだに「協働の優位」が挟まる形を報告しました(小さな会社では完全に、中・大では部分的に)。関係も成果も同じ人が同じ票に答える形では、良いと感じる人ほど良いと答えやすい向きが残ります。ただし逆U字の研究は、質問票の測度と客観的な測度の両方を使ったと要旨にあります。
03一つの産業の話を、そのまま持ち帰る。明るい側の実証は、自動車という特定の産業・特定の時期の網から採られています。別の産業・別の規模で同じことが起きる保証にはなりません。どこまで近づけるかは、熱意ではなく、相手との力の差や切り替えのしやすさの側で先に決まっていることが多い——ここはALIFEが置く読み方です。

この号が挙げた6点のうち、全文まで読めたのは1点(1998年の実務家向けの論考。発行元のリプリント版)だけです。2011年の二本と1996年・1998年の論考は公式の抄録まで、実務誌の記事は冒頭の抜粋まで。読めていないものについては書きません。逆U字の研究がどこの国の・いくつの組織を対象にしたかも、読めた範囲には印字がありません。
そして1996年の実証・1998年の理論の整理・1998年の実務家向けの論考の三本には、同じ著者が関わっています。独立した三つの検証ではありません。頂点の位置を示す数値は、読めた範囲のどこにもない。だからこの号は、もっと近づけとも、距離を置けとも書きません。
「近づくほど良い」は、
頂点までの話でした。
折れ返りの厄介さは、当人にとっていちばん見えにくいところにあります。2005年に MIT Sloan Management Review 46巻3号へ出た記事(実務誌。著者本人の業績一覧では査読つきの印がついており、「査読を経ていない」とは断定できません)の冒頭に、こうあります。
“Relationships that appear to be doing well are often the most vulnerable to the forces of destruction that are quietly building beneath the surface of the relationship.”(うまくいっているように見える関係ほど、その表面の下で静かに積み上がっていく破壊の力に対して、もっとも脆いことが多い。)同じ冒頭は、近い関係と良い関係は同じではない、とも書いています。ここで読めたのは冒頭の抜粋までで、本文は購読の壁の向こうです。
TRY IT TODAY
- 01LIST
手元の記録だけを見て、いま買っている相手を書き出す。
- 02SORT
「近い」「ほどほど」「遠い」の三語のどれかで分ける。
- 03COUNT
三語それぞれの件数を数える。相手には連絡しない。
逆さのU字が教えるのは、線の向きだけです。頂点がどこにあるかは、相手の数でも、付き合いの長さでも決まりません。だから今日残せるのは、判定ではありません。いま持っている付き合いが、どの距離にどれだけあるか——その分布が、記録として1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「仕入先と共に強くなるには?」を、もっと深く学ぶ。→