IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 308
● 12 SEC「在庫は悪。減らすほど健全。」在庫の話には、たいていこの一言が付いてきます。この号が見るのは、いくつ持つべきかではなく、その「減らすほど良い」という線が、実際に測るとどんな形をしていたか、のほうです。
出発点は2011年の論文。書き出しの逐語は——「在庫のスリムさが企業の業績の向上につながるという証拠は限られている」。リーン〔むだをそぎ落とす。在庫では「薄く持つ」の意味〕。よく言われるわりに、裏づけは薄い。そこから始まります。
そして測り直した結果、関係は上に凸〔山なり。頂を過ぎると下がる形〕でした。「減らすほど良い」は、この山の左半分の記述だったことになります。
材料は、米国の製造業の大きなパネルデータ〔同じ会社を何年も続けて追いかけた資料〕。業種は54に分けられています。業種ごとの在庫管理の特徴を織り込んだ測り方を新しく提案して測り直しています。
結論は3文。逐語は——「在庫と業績の関係の有意性と形が、業種によって大きく異なる。この関係は、調べた54業種のうち3分の2で有意である。それらの場合のほとんどにおいて、関係は上に凸であり、在庫のスリムさには最適の水準があって、それを超えると企業の業績が悪化することを示唆している」。
54は業種の数で、会社の数ではありません。有意だったのはそのうちの3分の2、裏返せば残る3分の1でははっきりした形が出ていません。上に凸だったのも有意だった業種の「ほとんどの場合」で、そのすべてではない。どの特性が形を決めるのかは、事後の分析で探索された段階までです。

折れる場所は、自分の会社の事情だけで決まるのか。同じ研究者の系統が、その先を二方向から測っています。相手の在庫の薄さと、二者のあいだの依存の偏り。
012011年の論文は、有意性も形も、業種で大きく異なると報告した。有意だったのは調べた54業種のうち3分の2で、そのほとんどの場合において関係は上に凸。残る3分の1では形が出ていません。読めたのは公式の抄録までで、この「業績」が何の指標で測られたのかは書けません。
022022年の論文は、仕入先のスリムさが山の形と頂を動かすと報告した。逐語は——「仕入先の在庫のスリムさは、その企業自身の在庫のスリムさとの相互作用を通じて、間接的に当該企業の財務業績に影響する」。動くのは、自社の側の非線形性と最適な水準。直線の話ではありません。
032017年の論文は、調整するのは二者の依存の非対称性だと報告した。直接の効果として測られたのは、自社と仕入先それぞれの財務的な依存が業績に及ぼす効果。調整するもの〔条件によって関係の強さや向きを変える変数〕は、依存の非対称性。その会社に財務の余裕があるかどうか、ではありません。分析されたのは3,638の買い手と仕入先の関係——関係の件数で、会社の数ではない。

「在庫は減らすもの」という前提はどうか。同じ3人による2本の論文があります。1本目は2005年。米国の上場製造業を1981年から2000年で追い、在庫保有期間の中央値が96日から81日へ、平均の減少率は年およそ2%、いちばん減った仕掛品で年およそ6%。そして完成品の在庫は減らなかった。
2本目は2007年。同じ3人が米国の上場小売・卸売を1981年から2004年まで追い、卸売の中央値は73日から49日へ、小売の在庫は1995年頃まで減り始めなかった。別の論文・別の期間・別の母集団です。2007年の論文は「製造業と逆方向だった」とは書いていません。
01「在庫は、この数十年ずっと減り続けてきた」。製造業では完成品の在庫が減っておらず、小売では1995年頃まで減り始めていません。二つは別の論文で、期間も、入っている会社の集まりも違うので、足し合わせられません。
02「減らしすぎると業績が下がる最適点があると、分かっている」。「上に凸」は、二段の絞り込みの先にある形です。有意だったのは54業種の3分の2、上に凸だったのはそのうちのほとんど。残る3分の1では、そもそもはっきりした形が出ていません。
03「動かない在庫を持っていること自体が、悪い」。国際的な基準は、棚卸資産を取得原価と正味実現可能価額の低いほうで測ると述べます。日本の基準の第7項は——「正味売却価額が取得原価よりも下落している場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額とし、その差額は当期の費用として処理する」。基準が定めているのは、ここまで。「処分の判断から仕入れ値を外せ」とは、どちらにも書かれていません。

全文まで読めたのは7点のうち1点、日本の会計基準だけです。国際的な基準は発行元の説明のページまでです。読めていないものについては書きません。だから業績の指標名も、標本の会社数も書いていません。読めた抄録の範囲に、無作為な割り付けの記述は一つもありません。ただし本文は読んでいないので、「実験は1本もない」とも書きません。
測られたのは米国の上場企業——製造業、小売・卸売、そして供給関係のパネルです。日本の小さな商いも、非営利も、行政も入っていません。この号は、在庫を減らせとも増やせとも書きません。2005年と2007年の論文は同じ抄録で株式の収益率との関係も報告していますが、その部分は使っていません。どの数字も、買う・売るの合図にも、評価損の計上の判断にも使えません。
有意だったのは、54業種のうち3分の2。
そのうちのほとんどで、関係は上に凸でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。研究が測ったのは会社の在庫の薄さと業績の関係で、手元の1品目を測った研究はありません。ここからは、ALIFEが提案する実践の入口。処分も、値下げも、発注の変更もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
**手元で「動きが止まっている」ものを一つだけ**選ぶ。品目の名前は書かなくてかまいません。仕入先の名前も、人の名前も書きません。在庫を持たない働き方なら、使わなくなった道具や材料でも同じです。
- 02WRITE
その下に三行。(a)仕入れたときの値段。(b)いま手放すとして回収できそうな額。(c)置いておくのにかかっている費用(場所、手間、傷みなど)。思い出せない行は「分からない」と書いて先へ進みます。
- 03NOTE
最後に、(a)の行を指で隠して、(b)と(c)だけを見るとどう見えるかを一言書く。「処分する」「残す」と決める課題ではありません。
年代順に並べ直して見えてくるのは、著者の重なりです。2005年と2007年は同じ3人。2011年と2022年は、4名のうち2名が同じ。重なっていないのは2017年の5名だけ。5本の査読誌は、独立した5つの検証ではありません。「在庫は悪」の一言のほうは、17年ほとんど動いていない——というのが、この号の読み筋です。
確かめられたのは四つ。有意だったのは54業種の3分の2、そのほとんどが上に凸で、残る3分の1では形が出ていないこと。仕入先のスリムさが、自社の側の非線形性と最適な水準を動かすこと。3,638の関係で、調整するのが自社単独の財務の余裕ではなく依存の非対称性だったこと。製造業と小売・卸売の減り方が、別の期間・別の母集団だったこと。今日残せるのは判定ではありません。品が一つと、三行と、一言。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「過剰在庫をなくすには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。