IN SOURCING & SUPPLY · ISSUE 307
● 12 SEC「欠品はゼロを目指せ。」そのとき足元にあるのは天秤です。片方の皿には積み増した在庫の費用、もう片方には切らしたときの費用。この号が見るのは、切らさない方法ではなく、測りにくいほうの皿です。
出発点は2006年、Management Science 52巻11号の論文。書き出しは"the difficulty of measuring how stockouts affect both current and future demand"(欠品が現在と将来の需要にどう効くかを測ることの難しさ)。理論は分厚いのに現場で使われない理由の一つが、片方の皿を測れないことだ、と。
同じ論文は測りにいきます。場所は、寝具と住まいの小物を中位から高価格帯で扱う通信販売のカタログ(社名は原典が伏せています)。5週間に22,921人から63,051点を超える注文。注文のおよそ21.9%が在庫切れ。その後は13カ月追いました。
新聞売り子の問題では、売れ残る費用をCo、切らす費用をCuと置くと、最適な充足率がCu ÷ (Cu + Co)で出るとされます。2006年の論文はこの古典に戻り、会社の数字で書き下しました——欠品率 =(売上原価 − 処分価額)÷(価格 + 機会費用 − 処分価額)。
空欄になりやすいのが機会費用〔切らしたせいで失った利益。次の注文の分まで含む〕の欄です。これを4通りに置くと、最適な欠品率はこう動きました。ゼロなら0.00ドルで20.0%、短期の直接費用まで数えて8.76ドルで16.1%、他の品目も入れた短期の合計で13.13ドルで14.6%、短期と長期の合計で22.69ドルで12.2%(式(3))。同じ式、同じ会社、同じ品目。動いたのは、欄に何を入れたかだけです。
実際に出ていた欠品率は21.9%。その会社は機会費用をそれまで測ったことがなかった、と論文は書きます。測っていない費用は、ゼロとして式に入ります。ただし一社の平均的な品目の計算で、同じ論文も、すべてが他の小売業者へ一般化できるわけではないと断ります。

では長期まで数えて欄を埋めればいい——とはなりません。埋めるのが難しい、というのが出発点でした。切らしたとき、相手の多くは記録の外側で決着をつけてしまいます。
012006年の現地試験(準実験)は、切らした損が同じ注文の他の品目にも及ぶことを一社で測った。在庫があった品目は注文の86%が売上になり、在庫切れでは62%。悪影響は同じ注文の他の品目にも及びます(p<0.01)。追跡では、すべて欠品なら需要は1点も欠品しない場合より約22%低い——両端どうしの対比で、平均的な客に起きる差ではありません。準実験〔無作為割り付けを使えない比較〕で、無作為なのは客と対応係の組み合わせだけ。台本の割り当ては経営側です。
02日用品の世界調査は、店頭の欠品率を世界平均8.3%と見積もり、客の行動を五つに分けた。2002年の業界報告(査読誌ではありません)は、40本の調査から世界の平均欠品率を8.3%としました。高い側の平均は12.3%、低い側は4.9%。平均8%なら12〜13点に1点は見つからない計算です。8カテゴリ平均の反応は、別の店で買う31%/別の銘柄26%/同じ銘柄の別品19%/先送り15%/やめる9%。この五つの分母は19カ国・28の調査・48,000人超の世界調査の側で、報告書全体の集計人数71,000人(米国23,000人超+世界48,000人超)ではありません。報告書が世界平均として算出した損失は、小売の売上の3.9%です。
032008年の研究は、ある小売企業の37店舗の在庫記録の65%が不正確だったと報告した。測りにくさは費用の側だけではありません。2008年の Management Science 54巻4号の研究は、ある一つの小売企業の37店舗・約370,000件の在庫記録のうち65%が不正確だと報告しました。記録では在庫があるのに棚には無く、切らした事実そのものが「率」として数えられません。読めたのは抄録までで、標本の期間も国も書きません。

同じ論文は、切らしたあとの対応の効き目も測りました。台本は五つ——値引きが二つ(10%引き・5ドル引き)、説明が三つ(標準/仕入先の問題/たいへん人気)。取り置きへ回す値引きは広く使われますが、いちばん利益の小さい対応でした。話はここで終わりません。
01「欠品率は下げるほど良い」——天秤の片方が測れていないので、単純には成り立たない。水準を上げれば在庫の費用が増えます。もう片方が測れていないかぎり、「下げるほど良い」は単純には成り立ちません。欄に何を入れるかで、目指す欠品率は20.0%にも12.2%にもなりました。反対の極へも振れません。長期の影響を入れないと在庫の判断が最適でなくなる、と同じ論文は書きます。「切らしてもいい」ではありません。
02「切らしたら値引きで引き止めればいい」——利益では最小。ただし引き止める力では上位だった。1点あたりの平均利益は、10%引きが15.97ドル、5ドル引きが14.28ドル。標準の対応(対照)は18.18ドル、仕入先の問題は19.10ドル、たいへん人気は20.51ドル。ところが、同じ表にはもう一つの向きがあります。「たいへん人気」と「10%引き」は注文をつなぎ止める力が最も強く、二つに明確な差は無いものの、他より解約率が低く(p<0.01)、売上になった割合も高い(p<0.01)。値引きの二条件では長期の需要への負の影響が最も強く出ました。一社・5週間の結果です。
03「8.3%も31%も、自分の現場の数字」——違う。どれも別の場所と分母で測られた値である。8.3%は日用品の小売店頭で40本の調査を集めた世界平均、31%・26%・19%・15%・9%は19カ国・28の調査・48,000人超・8カテゴリ平均、20.0%と12.2%は一社の通信販売カタログの平均的な品目の計算値、65%はある小売企業の37店舗の在庫記録の値。受注生産や部材の購買、予約、公共の調達では、行き先も費用の逃げ先も違います。混ぜられません。

全文まで読めたのは6本のうち2本——2006年の査読論文と2002年の業界報告です。抄録までが3本、書誌のみが1本。読めていないものは書きません。測られたのは、一社の通信販売カタログ、日用品の小売店頭、ある小売企業の37店舗。製造の部材も公共の調達も入りません。
人や店や会社を無作為に割り付けた実験は、読めた2本のどちらにもありません。だからこの号は対応の差を「効いた」と書かず、原典の語で止めます。残る4本も、読めた範囲に割り付けの記述はありません。「切らさない方法」は渡しません。
機会費用の欄をゼロと置けば20.0%、短期と長期の合計まで数えると12.2%。
同じ式に、同じ会社の平均的な品目を入れて出た値です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。1件を書き留めて何が起きるかを確かめた研究はありません。ここからはALIFEが提案する入口です。仕入先にも同僚にも、点を付けません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開く。**最近「切らした」品目を1つだけ**思い出して書く。受注でも予約でも備品でも構いません。
- 02TRACE
**相手がどうしたか**を1行で書く。選ぶのは四つ——別の物にした/待った/帰った/分からない。追いかけて聞きません。
- 03MARK
**そのふるまいが記録に残ったか**を一言添える。残すのは、品目1件と1行と、この一言だけ。何%かは数えません。
2002年に世界調査が欠品率を8.3%と見積もり、2003年に同じ調査が査読誌にも載り(版違いで、独立した二つではありません)、2006年に一社の現地試験が費用を測り、2008年に在庫記録の65%が現物と食い違うという研究が出ました。「率」は測れても、「費用」の欄はいまも埋めにくい——というのが、この号の読み筋です。
確かめられたのは四つ。同じ式でも、欄をゼロと置けば最適な欠品率が20.0%、短期の直接費用まで16.1%、短期の合計で14.6%、短期と長期の合計で12.2%になったこと。実際は21.9%で、機会費用を測ったことがなかったこと。在庫があれば注文の86%が売上になり、在庫切れでは62%だったこと。世界平均8.3%の店頭で、客が31%・26%・19%・15%・9%に分かれたこと。残るのは判定ではなく、記録が1件だけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「欠品を防ぐには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。