IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 304

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「矛盾は、折り合いで済ませずに、両方を立てよ。」——そう構える発明の技法があります。その由来には、たいてい「4万件の特許を分析して作られた」という一句が付いてきます。この号が見るのは、その件数のほうです。技法の使い方は扱いません。商標名も団体名も人名も出しません。

4万件という数は実在します。ただし辿ってみると、同じ由来について書かれている数は、資料ごとに違いました。

射程を先に。使った資料は7点、全文まで読めたのは4点で、残る3点は発行元の頁に載っている範囲までです。〔要旨=論文の冒頭に置かれる要約〕

ここでいう矛盾は、論理の矛盾ではありません。一方を良くすると、もう一方が悪くなるという関係のことです。強くすれば重くなる。速くすれば粗くなる。作る場面で毎日起きている、あの手詰まりです。

この技法の売りは、そこで折り合いをつけるのではなく、両方を立てる道を探すという構えにあります。そのために、改善したい性質と悪化する性質の組み合わせごとに、使えそうな原理を引く表が用意されています。仕掛けとしては、それだけです。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
一方を良くすると、もう一方が悪くなる。折り合いではなく両方を立てる、という構え。仕掛けは、組み合わせごとに原理を引く表。 Visual: ALIFE

では、その原理は何件の特許から取り出されたのか。辿ってみました。

出てきたのは、一つの数ではありませんでした。20万件。約40万件。4万件超。数千件。どれも同じ由来についての記述です。書いている資料の性格も、それぞれ違いました。

01この技法を掲げる団体のウェブページは、20万件と書く。団体が公開している頁で、査読誌ではありません〔査読=専門家が投稿原稿を審査する手続き〕。2026年に閲覧した頁にこうあります——「20万件の特許を研究したのち、〔考案者〕は、基本的な原理を当てはめれば比較的容易に解ける技術的矛盾がおよそ1,500ある、と結論づけた。」〔 〕は人名を伏せた箇所です。この頁に、4万件という数は出てきません。

022024年に公開された査読前の原稿は、4万件超と書く。公開の原稿置き場に出た版で、査読を通っていません。4万件を超える特許の徹底的な分析を通じて、繰り返し現れる革新の型と、その底にある発明の原理が特定された、と書いています。この一文に付された出典を実際に開くと、1999年に出た一般向けの著書でした。査読論文ではありません。

032025年の査読誌は数千件、2013年の査読誌は約40万件と書く。2025年に AIEDAM 39巻e12として出た査読論文は、この技法で着想を生むための主要な道具は40の原理の集まりで、それらは数千件の特許の詳細な分析から取り出されたものである、と書きます。この一文には出典が付いています——2000年に出た技術書で、この号はそこまでは辿れていません。そして2013年に Technovation 33巻2-3号(30-37頁)へ出た査読論文には、約40万件があります。

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いコートと白いパンツの女性がひとりで下りている写真
20万件・約40万件・4万件超・数千件。同じ由来について、書いてある数が資料ごとに違う。 Visual: ALIFE

件数が出てこない資料もあります。読めた範囲では、2016年の Computers in Industry 82巻(119-134頁)の総説にも、2016年の会議録の論文にも、件数はありませんでした。ただし、「有名な数字は、審査の厳しい場所には出てこない」とは言えません。2013年の Technovation の査読論文は、緒言でこう書いています——「〔考案者〕と彼の同僚たちによって開発され、彼らはおよそ40万件の技術特許を研究し、そこから、問題を解き、新しい着想と革新を生み出す過程を支配する一定の規則性と基本的な型を引き出した。」よく引かれる4万件とは、桁が一つ違います。

20万件を見て、そのうち4万件を選んだ、という二段構えの説明も出回っています。ただしこの号が読めた7点のどれにも、その形はありませんでした。どの資料も、四つのうちのどれか一つを書いています。だから、この二つの数を確定した値としては採りません。

01「4万件を分析して作られた」——由来として書かれている数は、資料ごとに違う。20万件・約40万件・4万件超・数千件。この号は、どれが正しいかを判定しません。書けるのは、割れている、というところまでです。

02「有名な数字は、審査の厳しい場所には出てこない」——出てきます。2013年の査読論文の緒言に、約40万件と印字があります。出てこないのではなく、割れています。

03「表を引けば、原理が出る」——その部分が、査読誌のなかで疑問視されている。2021年に Design Science 7巻e12として出た査読論文の要旨にこうあります——「しかしながら、組み合わせの表の信頼性はしばしば疑問視されており、原理を選ぶための堅固で信頼できる手順についての合意には、到底達していない。」同じ要旨は、使う側は最も適した道具を選ぶことに広く困難を経験しており、提供される道具の数の多さを考えると、それは重い制約である、とも書いています。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床のコートと鍵
数は割れている・厳しい場所にも数はある・表そのものが疑問視されている。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

2016年の Computers in Industry 82巻の総説は、被引用の上位100件を分類して整理した論文です。冒頭に置かれた要点の箇条書きには、著者たち自身の言葉で、この技法の発展は科学的な検証の典型的な道筋を辿ってこなかった、学術文献のなかへの広がりは発展よりずっと後に起きた、この技法に関する出版物の体系的な総説は行われていない、とあります。要旨の一文はこうです——「あらゆる難度の技術問題に対する強力な支えになるという主張は、産業の現場でのこの技法の広がりと食い違っており、製品開発の実務についての知見に照らせば、その広がりは比較的低い。」

証拠が集まる場所を断っておきます。2016年の会議録の論文は、この技法の専門誌と専門の会議から200件を超える事例研究を集めて整理したものです。その頁には「査読は、この会議の学術委員会の責任のもとで行われた」と刷り込まれています。検証の道筋を問うた総説と、表の信頼性を書いた論文には、同じ著者が1人重なっています。その総説は、会議録の論文も引用しています。読めていない部分について「無い」とは書きません。

同じ由来について、四つの数が並んでいます。
一番厳しい場所に書かれていたのは、約40万件でした。

次の3行は、研究が命じた順番ではありません。測られたのは資料に印字された件数と、集められた事例と、使った人への調査であって、見かけた数字を書き写すと何が起きるかを確かめた研究は扱っていません。ここからはALIFEが提案する記録の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    この1週間で見聞きした「◯万件を分析した」「◯件を調べた」型の数字を1つ選び、見た場所の種類だけを書く(社内の資料、報道、交流サイト、広告など)。媒体名も会社名も人名も書きません。無ければ「見かけなかった」で終わりです。

  2. 02NOTE

    その数字を書いていた資料が、査読のある学術誌なのか、査読前の原稿なのか、団体や企業の頁なのか、一般向けの本なのかを、書かれていた範囲で書き写す。分からなければ「記載なし」。

  3. 03CHECK

    最後に、その一文に出典が付いていたかだけを見る。付いていれば出典の年と種類を1行書き写し、無ければ「出典の記載なし」と書く。記録するのはこの3行だけです。

10分。**採点はありません。**正しい数を突き止める課題ではありません。同僚や取引先に確かめに行かないでください。書いたものは手元に置き、提出もしません。

1999年、一般向けの著書が出る。この号は到達していません。2013年、査読誌の論文の緒言に、約40万件と書かれる。2016年、被引用の上位100件を整理した総説が、検証の典型的な道筋を辿ってこなかったと書く。2021年、査読誌が、組み合わせの表の信頼性はしばしば疑問視されていると書く。2024年、査読前の原稿が4万件超と書き、出典に1999年の著書を挙げる。2025年、査読誌が数千件と書き、出典に2000年の技術書を挙げる。

四つの数は、割れたまま同時に流通しています。訂正が標語に追いつくことは、あまりありません。具体的であることと、辿れることは、別です。——というのが、この号の読み筋です。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「矛盾を発明で解くには?」を、もっと深く学ぶ。→

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。