IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 303
● 12 SEC発想を引き出す手法には、たいてい立派な名前が付いています。名前が付くと、確かめられた気がします。この号が見るのは、その確かめのほうです。会社名も製品名も人名も出しません。
見るのは二つ。デザイン思考と呼ばれる進め方と、就業時間の2割を自分の判断で使ってよい、という取り決めです。どちらも、名前のほうが先に広がりました。
この号が使った査読論文は6本。全文まで読めたのは3本で、残る3本は要旨〔=論文の冒頭の要約〕までです。ほかに、企業が公開した書類が2点あります。
2019年に Journal of Product Innovation Management 36巻2号(124-148頁)へ出た体系的な文献レビューが、この手法の研究を数え上げています。四つのデータベースを1985年から2017年まで検索して32,232本が当たり、絞り込みの末に104本が残りました。
その104本を読んだ著者たちは、本文にこう書きます——この手法の影響についての実証的な証拠は、いまだ欠けている。続けて、厳密な実証の方法を用いた研究はごくわずかであり、そうした研究はとうに必要とされていた、とも書きます。量的な研究もごくわずかで、記述的・規範的な研究のほうが多い、ともあります。
この三つは、要旨には出てきません。公式の要旨にあるのは、10の特徴と8つの道具・方法を整理したという話です。104本のうち何本が実証研究かという件数は原典に無いので、この号も件数は書きません。

本文は、厳密な方法を用いた例外として2本を挙げます。1本は14件の事例を集めた2013年の研究(同じ雑誌の30巻S1号・19-33頁)で、対象はこの手法に不慣れな、専門分野の異なる人が混ざった製品開発のチーム。もう1本は、このレビューの著者5人のうち3人が書いた2015年の論文でした。例外の2本のうち1本が自分たちの論文である、という重なりです。
14件の結果には、向きの逆のものも混じります。発想を出し合う会合の回数が増えるほど、成績は低いほうと結びついていました(新しい人が加わる場面を除く)。振り返りの多さは、案を広げる段階では良い結果と、案を絞る段階では悪い結果と結びついていました。
01推す側の2015年の論考は、自ら「視点論考」と名乗る。同じ雑誌の32巻6号(925-938頁)。要旨にこの視点論考はと書かれ、締めくくりは一連の命題と研究上の含意を提示して終わる、とあります。命題であって、結果ではありません。
02「厳密な実証的探究に抵抗するように見える」と書いたのも、推す側。同じ要旨の末尾です。道具と工程の寄せ集めという性格と、成果を測ることの複雑さのために学術研究になりにくい、という趣旨。批判の側の言葉ではありません。前段には、成果を改善しうる機構は経営学の研究者から大きな注目を受けてこなかった、ともあります。
03同じ名前の下に、参照し合わない二つの流れがある。2013年に Creativity and Innovation Management 22巻2号(121-146頁)へ出た論文は、経営の側の言説には三つの明確な起源があるが、おおむね表面的で通俗的な性格を持ち、デザインの側のものに比べて学術的な裏づけが薄いと書きます。さらに、経営の側はデザインの側の思考をほとんど参照せず、知識の積み重ねを妨げている、と。

もうひとつの取り決めに移ります。就業時間の2割を、自分が最も役に立つと思うことに充ててよい。この話には、たいてい「そこから製品の何割かが生まれた」という言い方が付いてきます。その数値の一次資料を探しました。
一次資料はあります。2004年4月29日に米国の証券取引委員会へ提出された、ある検索会社の株式公開の届出書です(企業の開示文書であって、査読誌ではありません)。創業者たちの書簡にこうあります——通常の業務に加えて、時間の20%を、自分が最も役に立つと思うことに充てるよう促している。続くのは製品名が2つ。同じ届出書の別の章にも同じ趣旨の一文があり、そこは製品名が3つ。同じ年の年次書簡には、実質、一週間に1日という言い換えと、やはり製品名が3つです。
割合も、件数も、金額も、ありません。届出書の原本・投資家向けの頁の同じ書簡・年次書簡・一般の検索・査読誌——2026年9月に見た範囲で、成果を数値で示した資料にはたどり着けませんでした。存在しない、とは書きません。読めた範囲に無い、と書きます。同じ年次書簡には資源配分の別の「2割」も出てきますが、配分の方針であって、成果の数値ではありません。
01「導入すれば発想が良くなる、と研究で確かめられている」——104本を読んだレビューは、本文で逆を書く。実証的な証拠は、いまだ欠けている。この一文は要旨に無いので、要旨だけを読んで引くと原典と食い違います。
02「推す側には、効果を測った論文がある」——その論文は、自ら視点論考と名乗る。一連の命題と研究上の含意を提示して終わる小論です。効果の測定ではありません。
03「2割の時間から、製品の何割かが生まれた」——一次資料にあるのは製品名まで。査読誌で近いのは、2018年に Organization Science 29巻6号(1056-1073頁)へ出た研究です。米国の資金募集の場に投稿された165,410件の企画と大学の休暇の時期を突き合わせたもので、この取り決めを測ったものではありません。要旨は、時間の余裕が増えたときの効果は理論上は曖昧であると枠組みを置き、検証では予測どおり休暇期間に投稿が増え、増え幅は質がとても高いか低い企画で最大だった、と続けます。

標本の偏りを断っておきます。ここまでの証拠は、104本の文献、14件の不慣れなチームの事例、米国の資金募集の場の165,410件の企画から採られています。どれも、無作為に割り付けた実験ではありません。14件の結果は、不慣れなチームについてのものです。
両論のどちらかを正しい値にはしません。レビューの側はそうした研究はとうに必要とされていたと書き、推す側は厳密な実証的探究に抵抗するように見えると書いたうえで、今後の研究が取りうる一つの道筋を示そうとしています。まだ測られていない、という点では、二つは食い違っていません。
実証的な証拠は、いまだ欠けている。
その一文は、要旨には無い。
だから次の3行も、研究が命じた手順ではありません。測られたのは文献の傾向・不慣れなチームの成績・投稿された企画の数と質であって、見かけた数字を書き写すとどうなるかを確かめた研究はありません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開く。**この1か月で見かけた「◯割が生まれた」「◯倍になった」型の数字を1つ**選び、見た場所の種類だけを書く(社内の資料、報道、交流サイト、広告など)。媒体名も会社名も人名も書きません。
- 02NOTE
その数字に**出どころが添えられていたか**を見る。添えられていたらその1行を書き写し、無ければ「出どころの記載なし」と書く。中身の正しさは判定しません。
- 03CHECK
最後に、その出どころが要約を指しているのか、本文の頁まで指しているのかを見る。書かれていればそのまま書き、分からなければ「どちらとも書かれていない」と書きます。
2013年、言葉の来歴が整理され、経営の側の言説は学術的な裏づけが薄いと指摘される。同じ年、14件の事例が集められる。2015年、推す側の論考が出るが、著者自身が視点論考だと書く。2018年、文化との関係を扱ったレビューが、もともとは組織の文化に染み込ませる進め方として提示されたのに、測られてきたのは個々の道具のほうだと整理する。2019年、104本を読んだレビューが、本文で実証的な証拠はいまだ欠けていると書く。
名前のほうは、この間ずっと広がり続けました。広がる速さと、確かめられる速さは、連動していません。そして確かめられていないことは、たいてい要旨ではなく本文に書かれています。——というのが、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「研究者の創造性を引き出すには?」を、もっと深く学ぶ。→