IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 301
● 12 SEC「選択と集中」。テーマを絞れば成果が上がる、という言い方があります。数が減ると、決めた気がします。この号が見るのは、その「絞る」が何を指しているか、のほうです。会社名も製品名も人名も出しません。
この向きを測った研究は、ドイツの企業1,495社の調査でした。結びついていたのは、絞った側ではなく、広く配った側です。
この号が使った資料は6本。全文まで読めたのは4本で、1本は抄録まで、もう1本は原文を引用する別の公的資料を経由して読みました。〔抄録=論文の冒頭に置かれる要約〕
同じ「絞る」でも、動く量は違います。手がけるテーマの件数を減らすこと。手がける分野の幅を狭めること。1件あたりに回す資源を厚くすること。この三つは連動して見えて、別々に動かせます。
厄介なのは、研究が測っているのはたいてい一つめか三つめで、助言が言うのは二つめだということです。以下の数字も、測られたのは件数のほうです。

その研究は2014年に Strategic Management Journal 35巻2号(246-268頁)へ出ました。ただしこの号は掲載版の本文に到達できていません。以下の数値は、掲載前の2011年11月の原稿から採ったものです。〔査読を通る前に研究機関が公開する稿です〕
標本は、2009年のドイツの革新調査——欧州の共同体革新調査のドイツ部分——に答えた企業です。要旨の一文はこうあります。資源をより広い範囲の革新案件に配分する方針は、新製品の売上を増やす。とりわけそれが真に新しい、すなわち市場にとって新しいものである場合に。「増やす」は著者の書き方です。割り付けをした実験ではなく調査なので、この号は結びついていた、という言い方までにします。
01「広さ」として測られたのは、件数だった。原典は、2006年から2008年に進めた革新案件の件数を企業に報告してもらい、その回答を企業規模に対して標準化しています。金額ではありません。同じ論文は1件あたりの厚みも別の変数として扱ったうえで、広さの効果はそれを上回るように見える、と書いています。
02順に引くと、最終の1,495社には届かない。調査の対象35,197社から宛先不明などを除いた29,807社のうち、使える回答は7,061社(25%)。そこから革新活動の無い3,017社、10人未満の399社、期間中に生まれた41社、項目が欠けた1,082件を除いて1,495社、とあります。順に引くと2,522社で、その差がどこで落ちたのかは、この版の本文に書かれていません。
03選別は、前提条件ではなく調整変数だった。原典の一文です。選別的な企業も非選別的な企業も、広さによる有意な正の成果効果を示す。ただし信頼水準と係数の大きさは、選別的な企業のほうが大きい。前提条件なら「無ければ効かない」、調整変数なら「あると効きが変わる」。ここでの選別とは、その3年の案件のうち途中で打ち切ったものがあるかどうかを訊いただけのものです。

案件を1件ずつ点数化して上位から残す。よくある絞り方です。2007年に Management Science 53巻9号(1452-1466頁)へ出た研究は、そこを崩します。失敗が公表された前後の株価の動きから、その案件の値打ちを測ったものです。対象は、失敗の時点で米国のいずれかの市場に上場していた医薬品企業の、1994年から2004年の第III相試験の失敗132件です。
結論の一文はこうです。同じ市場を狙う他の案件が存在すること、および同じ開発資源を必要とする案件が積み上がっていることは、ある開発案件の値打ちを下げる。ただし、この組み合わせの分析に使えたのは132件のうち116件で、残りは案件の一覧が揃いませんでした。
2008年に同じ雑誌の54巻5号へ出た論文は、著者たち自身が規範的な理論の枠組みと呼ぶモデルで、環境の複雑さは均衡を急進的な革新へ、環境の不安定さは漸進的な革新へ動かす、と示します。日常語ならどちらも「先が読めない」で片づく言葉が、正反対の向きに効いています。
01「選択と集中は間違いだった」——測られたのは、件数の広さと新製品の売上の結びつき。調査に答えた企業を1時点で比べたもので、割り付けた実験ではありません。業種も国も期間も、この標本のものです。
02「選別できる体制がないと効かない」——原典は、どちらの群でも正で有意と書く。違うのは係数の大きさと確からしさだけでした。前提条件と調整変数は、別のものです。
03「良い案件から順に残せばいい」——株価から測ると、隣の案件で値打ちは動いていた。1件ずつ点数を付ける絞り方は、この相互作用を見ていません。

絞り込みは、研究開発費という数字の上で議論されます。定義を置いた国際的な手引きは、研究開発を、知識の蓄積を増やし、利用可能な知識の新しい応用を考案するために行われる創造的で体系的な仕事と定義し、新規・創造的・不確実・体系的・移転可能かつ/または再現可能の5つを、少なくとも原則として活動のたびにすべて満たすことを求めています。それでも日本の公的資料は、2023年の研究開発費を、国際機関の推計で20.4兆円、国内の調査で22.0兆円と、同じ表に並べています。差は1.6兆円。理由も同じ版面にあり、大学の先生の人件費のうち、どこまでを研究とみなすかの違いです。
限界を断っておきます。ここまでの証拠は、ドイツの調査票に答えた1,495社、米国のいずれかの市場に上場していた医薬品企業の失敗132件、そして米国の医療機器1社・欧州の金融サービス1社・米欧の食品2社を社内文書1,750ページ・面接75回・会議の観察13回で調べた研究から採られています。4社のうち2社は、革新の巧者と評価された企業の一覧から選ばれた側です。この研究は効果を測ったものではなく、有効な組み合わせ決定は証拠・力関係・意見の三つの過程の相互作用の結果だ、と述べたものです。
広さとして測られたのは、件数のほうでした。
2023年の研究開発費は、同じ表に二つ載っています。
次の3行も、研究が命じた順番ではありません。研究が測ったのは新製品の売上・株価の動き・決定の過程で、見かけた数字を書き写すとどうなるかを確かめた研究はありません。判定も採点もしません。
TRY IT TODAY
- 01COUNT
紙かメモアプリを開く。**いま自分が抱えているものの件数を、良し悪しの判断を挟まずに数える**だけです。「これは入れていいのか」と先に考えると、たいてい数字は小さくなります。先に数え、あとで考えます。
- 02NOTE
この1か月で見かけた研究開発の数字を1つ選び、**どこの・いつの・何の数か**が書かれていたかを書き写す。無ければ「記載なし」。媒体名も会社名も人名も書きません。
- 03CHECK
最後に、その数字に**何をその数に入れたかの断り**が付いていたかを見る。付いていれば1行書き写し、無ければ「定義の記載なし」。記録はこの3行だけです。
2007年、株価の動きから案件の値打ちが測られる。2008年、理論のモデルが、複雑さと不安定さで向きは反対だと示す。2011年、ドイツの1,495社で件数の広さが新製品の売上と結びつき、同じ年、米欧4社の観察が、決定は証拠だけで動いてはいないと述べる。2015年、国際的な手引きが5つの基準を置き、日本の公的資料は2023年の研究開発費を二通りで並べている。
定義つきの測定が、係数になり、文になり、標語になる。逆向きには、まず動きません。——というのが、この号の読み筋です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「開発テーマを絞り込むには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。