IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 300

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「研究と事業、どちらも。」——両方をやる組織ほど成果が上がる、と言われます。この号が見るのは、それが正しいかではありません。どんな測り方のときに効果が大きく見えるか、のほうです。配分の比率も、どちらを増やすべきかも書きません。

使った資料は6点、そのうち本文の全文まで読めたのは2点です。中心にある統合研究は、要旨(論文の冒頭の短い要約)までしか読めていません。

2008年の総説(Journal of Management 34巻3号)は、この概念を今日の事業の要請をうまく揃えて効率よく管理しつつ、同時に環境の変化に適応する組織の能力と定義しました。概念の整理であって、効果の測定ではありません。

その5年後、効果を見たのが統合研究です。2013年に Academy of Management Perspectives 27巻4号へ出たメタ分析の要旨は、この主題の研究は業種も方法も多様で結果はまちまちだ、と前置きしたうえで——正で有意な、両立と業績の関係は、大部分において文脈上の要因と方法上の選択によって調整されている。両立は、非製造業において、また分析の水準が高いところにおいて、業績にとってとりわけ重要である。

「業種によって違う」と丸めないでください。名指しは非製造業と、分析の水準が高いところの二つで、これ以外の言い換えは足せません。統合されたのは観察された研究であり、実験ではありません。

(仮ビジュアル)石造りの建物の階段を、黒いコートの女性がひとりで下りている写真
名指しされた文脈は二つ。非製造業と、分析の水準が高いところ。 Visual: ALIFE

この号の中心は、同じ要旨の次の一文です——両立の「組み合わせ型」の測度と知覚的な業績が用いられたとき、そして横断的あるいは複数手法の研究設計が適用されたときに、業績への効果はより強くなる。

語をほどきます。知覚的な業績とは、外部の記録ではなく、回答者が「うまくいっているか」を答えた値。横断的な設計とは、一時点で原因側と結果側をまとめて測るやり方。組み合わせ型の測度とは、二つを掛けたり足したりして一つにまとめた測り方。同じ人が同じ日に、両方やっているかと、うまくいっているかに答える。その二つに相関が出るのは、ある意味で当然でしょう。要旨は効果が偽物だとは書いていません。大きさが測り方で系統的に動く、と書いています。

書誌から一つ。この統合研究が載った27巻4号には、同じ主題の文章が三つ並びます——287-298頁に概念の寄与を整理し直す論考、299-312頁に統合研究、324-338頁に提唱した側の総説。往復ではなく、並んでいるだけです。

01その三つの数は、この統合研究の要旨には出てこない。保存した公式の要旨を機械で走査しました。「25」も「26,183」も「0.06」も、一つも現れません。研究の本数も、累積標本も、全体の効果量も、印字されていない。ただし、本文にも無いとは書けません。そこには到達していないからです。

02出どころは2019年の別の査読論文の474ページ。引用した側の記述である。2019年に BBR. Brazilian Business Review 16巻5号へ出た査読論文の474ページに、こうあります——〔統合研究の著者ら〕(2013)は、25本の論文で組織の両利きのメタ分析を行い、26,183人の累積標本を探索した。主要な知見は、組織の両利きが組織の業績に影響することを示している(r = 0.06)。〔〔 〕は著者名を伏せた箇所です〕

03r = 0.06 は相関係数。オッズ比や回帰係数ではない。r は1に近いほど強く連動し、0なら関連なし。0.06は一般的な目安では小さい部類の値です。この区別は、引用した側の版面には書かれていません。そこには「r =」とだけ印字されている。混ぜて読まないための断りは、この号が足しました。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の天板を、ガラス・金属・漆の3本の脚が支えているテーブル
三つの数が印字されているのは、要旨ではなく2019年の別の論文の474ページ。 Visual: ALIFE

何を研究と数えるのかも見ておきたい。総務省統計局が毎年行う調査の記入上の注意(2026年版・査読誌ではなく公的機関の文書)に定義があります——事物、機能、現象などについて新しい知識を得るために、又は、既存の知識の新しい活用の道を開くために行われる創造的な努力及び探求。自然科学だけでなく人文・社会科学も含む、とも。この定義に「成功したか」も「事業に結びついたか」も入っていません。

同じ調査の2025年(令和7年)の結果の概要では、2024年度の研究費総額が23兆7925億円、うち企業17兆4303億円、研究者数が91万2800人(2025年3月31日現在)。国内総生産に対する比率は3.70%ですが、その※の脚注に、人件費を国際機関と同様の方法で算出すると3.44%とある。同じ年の同じ調査の比率が、方法で二通り印字されているわけです。

01「両方やれば成果が上がると確かめられている」——要旨が書いたのは、条件で変わる、である。要旨の言葉は「効く」ではありません。関係は文脈上の要因と方法上の選択によって大部分が調整されている、という書き方です。効果が偽物だという話ではなく、大きさが測り方で動くという話です。

02「25本・26,183人で r = 0.06 だった」——三つとも、要旨には出てこない。要旨にあるのは、非製造業と分析の水準が高いところで特に重要であること、そして知覚的な業績と横断的な設計のときに効果が強くなること。引用した側が報告している値を、原典が書いたことのように運ばないでください。

03「統計を見れば、どの国が進んでいるか分かる」——研究と数えるものは、調査ごとに決まっている。日本の調査の定義に、成功したかどうかも、事業に結びついたかどうかも入っていません。数え方が違うものを並べても比較になりません。同じ調査の同じ年の比率でさえ、算出の方法を変えれば3.70%と3.44%の二通りになります。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
取り違えるのは、この三か所。「確かめられている」「25本で0.06」「国の比較」。 Visual: ALIFE

標本の偏りを断ります。統合されたのは、業種も方法上の設定も多様な研究で、要旨自身が結果はまちまちだと書いています。業種・国・期間・水準の内訳は、要旨には印字されていません。本文に到達していないので、どんな研究が何本入っているのかも書けません。観察された研究の統合なので、どこにも「〜が〜を起こした」とは書いていません。

全文まで読めた2点は、三つの数の出どころになった2019年の論文と、日本の公的統計。統合研究も、2008年の総説も、提唱した側の総説も、要旨まで。287-298頁の論考は書誌までなので、中身を要約しませんでした。

効果が強く出たのは、回答者が答えた業績と、
一時点でまとめて測る設計のときでした。

だから次の3行も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは関係が測り方でどう変わるかであって、あなたの時間の割り方を確かめた研究ではありません。ここからは、ALIFEが提案する記録の入口です。判定はしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    紙かメモアプリに、今日の日付を書く。**欄を2つ作る**——左は「すぐ役に立つこと」、右は「いつ役に立つか分からないこと」。

  2. 02NOTE

    今日使った時間を、この2つに**おおよその分数**で割り振る。どちらとも言えないものは右へ。作業の中身は書きません。

  3. 03CHECK

    合計が今日の全部と合わなくてかまいません。**記録するのは、日付と、左の分数と、右の分数の3点だけ**です。

10分。**採点はありません。**どちらが多くても、それ自体は良いことでも悪いことでもありません。記録のために予定を動かさなくてよい。**この号のどの資料も、あなたの時間の割り方が何を生むかを測ってはいません。**

年の順に。2008年、概念を整理する総説(効果の測定ではありません)。2013年、統合研究が、関係は文脈と方法で大部分が調整されていると書く。2019年、引用した側の論文が三つの数を報告する。2025年12月、日本の統計が前年度の研究費総額と研究者数を公表する。

確かめられたのは、ここまでです。要旨が書いたのは効くかどうかではなく、条件で変わるということ。名指しされた条件が、回答者が答えた業績と、一時点でまとめて測る設計と、二つをまとめた測度だったこと。皮肉なのは、いちばんよく引かれているのが、その三つの条件でもなく、要旨に載っていない小数点以下二桁のほうだ、という点です——というのが、この号の読み筋です。要旨がそう書いているわけではありません。日付と、2つの分数。3点の記録が、1件残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「研究と事業を両立するには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

効果量
差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
相関係数 r
2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
オッズ比
ある状態の「起こりやすさの関連」を表す倍率。1なら差なし、1より大きいほどその群で起こりやすい関連です(確率が何倍、という意味ではありません)。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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