IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 297

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「速くすれば勝てる。」——この号は、それを否定しません。開発の速さを統合した2013年の研究は、速さは成功の結果を改善することと結びついている、と要旨に書いています。見るのは、その同じ一文の後半と、何を成功と呼び、誰がそれに答えたかのほうです。速く作る段取りの助言はしません。会社名も製品名も人名も出しません。

射程を先に。使った資料は7点、本文の全文まで読めたのは3点です。読めていない部分を、読めたことのようには書きません。

2013年に製品開発の学術誌へ出たのはメタ分析〔=先行研究の結果を数量的にまとめ直したもの〕です。要旨はまず、この主題ではすでに5本のメタ分析が出ていると述べ、成功をより細かい水準で見ると宣言します。結論の一文はこうです——「おおむね、新製品開発の速さは、成功の結果を改善することと結びついている。……それらの関係は、いくつもの方法上の設計判断と、研究の文脈しだいで、弱まるか、消えることさえある。」

前半で止めると、俗説と同じになります。この論文は二つのメタ分析——速さと成功の関係、速さの先行要因——を含みます。統合した研究の数も、累積の標本数も、効果の大きさも、読めた範囲には印字がありません。だから書きません。

(仮ビジュアル)暗い室内の黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性
速さは成功と結びついている——ただし方法と文脈しだいで、弱まるか消えることさえある。同じ一文の前半と後半。 Visual: ALIFE

同じ要旨は、成功の分け方も並べます。全体としてまとめたもの。工程の側——開発の費用が下がったか、市場へ出す時期をうまく差配できたか。製品の側——技術的な性能、競争上の優位。そして外側の結果——顧客から見た成功と、財務上の成功。開発の費用が下がることと財務上の成功は、同じ「成功」という語で呼ばれますが、同じものではありません。

011002件の案件を調べた2015年の研究は、アジャイルの効果を肯定している。2015年に案件管理の学術誌へ出た研究は、複数の業種と複数の国にまたがる1002件の案件のデータで、成功の二つの側面——効率と、組織の目標に照らした関係者全体の満足——への効果を検定し、両方の側面に正の効果を持つ、と結論しました。目標や構想の質は、わずかに有意な調整変数〔=効果の大きさを条件によって変える変数〕でした。要旨は自ら、これを支える大規模な実証研究はごく少ない、と断っています。

02その1002件の「成功」を答えたのは、その案件に関わっていた本人である。論文本文の方法の記述には到達できませんでした。書けるのは、ある職能団体が出した査読誌ではない要約記事の記述までです。情報は著者らがオンラインの質問票で集め、別の職能団体の会員と、いくつかの交流サイトの集まりの参加者が回答を求められた、とあります。続けて——「質問された人々は、自分が関わった案件のうち、より成功したものを1件と、あまり成功しなかったものを1件、記述するよう求められた。」成功の定義も同じ記事にあり、費用と期間と目標を満たしたか、発注した顧客の期待に応えたか、の二つです。効果の有無は否定されません。変わるのは、その効果が何の上に載っているかです。

03「成功」の基準そのものが、20年近く数え上げの対象になっている。2009年に出た研究は、1986年から2004年までに二つの案件管理の学術誌に載った、案件の成功についての論文を数え上げました。要旨の一文は——「結果は、案件の成功についての研究が、認識論的および方法論的な立場を除いて、多様さによって特徴づけられることを示している。」その二誌の一つは、いま見た1002件の研究が載った誌です。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の脚が支えているコンソールテーブル
結論は肯定・成功と不成功の案件を選んだのは本人・成功の基準そのものが数え上げの対象。 Visual: ALIFE

1995年に組織研究の学術誌へ出た研究は、二つの模型を比べました。工程を圧縮する模型——手順は分かっているものとして段階を詰める——と、経験に頼る模型——不確かだとして反復と経験に頼る——です。標本は、欧州・アジア・米国の計算機産業36社から集めた72件の製品開発案件です。

結果は、圧縮の側で逆を向きます。準備——基本の要件が固まるまでの段階に費やした時間が、案件全体の期間に占める割合——が大きい案件ほど、期間は長い側にありました。供給者の関与も、計算機による設計の利用も同じ向きです。ただし要旨は、圧縮が速さを説明するのは成熟した産業区分に限られると限定しています。日程の達成への報奨は有意ではありませんでした〔有意=偶然のばらつきだけでは説明しにくい大きさ〕。要旨の言い方はこうです——「日程の達成に向けて計画を立て、報いることは、進み方を速めるやり方としては効いていない。」速い側と結びついたのは、設計の反復・試験の期間・節目の頻度・複数の職能をまたぐ集団です。観察と回帰で、割り付けの実験ではありません。

01「速ければ成功する、と研究が示した」——示されたのは、消えることもある関連のほう。結論の一文は、前半と後半で一つです。後半を落とすと、向きが変わります。

02「アジャイルは効かない」——この号は、そう書きません。1002件の研究の結論は肯定です。見る場所は効果の有無ではなく、成功と不成功の線を誰が引いたかで、その記述の出どころは査読誌ではない要約記事です。

03「とにかく全体を速くせよ」——どこを速めたかが、別々に測られている。1社の内部の399件を客観的なデータで調べた2013年の研究は、工程を三つの段——構想が固まりきらない前段・開発・市場への投入——に分け、「少なくともこの企業においては、新製品の成果は、三つの段がすべて一貫して速められた場合にのみ上がる」と報告しました。ステージゲート方式の型の工程で進んだ、1社の中の話です。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床のコートと鍵
後半を落とす・効果の有無で値切る・号令と速さを同じにする。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

標本を断ります。証拠は、計算機産業36社の72件(1995年)、1社の内部の399件(2013年)、複数の業種と国にまたがる1002件(2015年)から採られています。1002件の回答者は、呼びかけに応じて自分から答えた人たちです。どれも無作為に割り付けた実験ではありません。だから「〜が〜を起こした」とは書いていません。

1002件の研究の方法の記述には到達できていないので、成功の線の引き方について書いたのは査読誌ではない要約記事の記述までです。読めていない資料について「無い」とも書きません。

速いか遅いかではありません。
何を成功と呼び、誰がそれに答えたか、です。

次の3行は、研究が命じた順番ではありません。測られたのは案件の期間・成否の自己申告・新製品の成果で、見かけた言い方を書き写したとき何が起きるかを確かめた研究は扱っていません。ここからはALIFEが提案する記録の入口です。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    この1週間で見聞きした「速くなった」「うまくいった」という言い方を1つ選び、**見た場所の種類だけ**を書く。媒体名も人名も書きません。

  2. 02NOTE

    その言い方に、**何をもって成功とするかの定義**が添えられていたかを見る。あれば1行だけ書き写し、なければ「定義の記載なし」と書く。

  3. 03CHECK

    最後に、**その成功を誰が答えたか**——本人か、記録か、第三者か——が書かれていたかだけを見る。なければ「記載なし」と書く。記録はこの3行だけです。

5分。採点はありません。**人や部署の評価や査定の材料には使わないでください。**書いたものは手元に置き、提出もしません。気が重くなったら中止してください。

2001年、17人が作った価値の宣言が公開されました。査読論文ではありません。書かれているのは四つの対——工程や道具よりも個人と対話を、網羅的な文書よりも動く成果物を、契約の交渉よりも使う側との協働を、計画に従うことよりも変化への対応を——と、結びの一文「右側にあるものにも価値はあるが、我々は左側にあるものにより高い価値を置く。」です。成果が何%上がるとは書かれていません。語られているのは、ソフトウェアを開発するよりよいやり方についてです。

数字は宣言ではなく、あとから来た研究の側にありました。20年で細かくなったのは、速いか遅いかの答えではなく、成功をどこまで分けて測るかのほうです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「開発スピードを上げるには?」を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

メタ分析
同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。