IN RESEARCH & DEVELOPMENT · ISSUE 296
● 12 SEC「外に開けば開くほど良い。」研究開発の話でいちばんよく回る一句です。この号が見るのは正否ではなく、引かれる研究に何と印字されているか、です。
線は上がって、途中で鈍ります。表が支えるのはそこまで。その先で折れて損になる部分は、結果の節では検出されていません。よく引かれる「不利になる点が存在する」も、結果ではなく仮説の箇所にありました。
使った資料は6本、全文まで読めたのは1本。抄録までが4本、書誌だけが1本(2003年の一般書。中身に到達していないので主張は書きません)。日本の企業を対象にした研究は1本もありません。
2006年に Strategic Management Journal へ出た研究が、いちばんよく引かれます。標本は英国の製造業2,707社。2001年実施の英国の技術革新調査で、欧州統計局の共通様式による調査を中核にしたものだと本文にあります。13,315の事業単位へ送り6,287を追送、回答は任意。
「広さ」は16の情報源のうちいくつを使うか、「深さ」はそのうちいくつを「高い程度で」使うか(どちらも0〜16)。成果は三つとも売上比率で、世界の市場にとって新しい製品・その会社にとって新しい製品・大きく改良した製品。三つ目を「模倣」と呼ぶ箇所は本文にありません。
16の情報源のうち平均55パーセントは「使っていない」、「高い程度で」は6パーセント。「広さ」の平均は7.22、「深さ」の平均は0.96。本文の一文——「平均すると、企業は一つの情報源からしか深く汲み上げていない。」

原典は折れ返りの位置まで書きます。世界の市場にとって新しい製品の比率で見た転換点は広さ11、深さ3の情報源。ここだけ取り出せば、線ははっきり折れて見えます。
ところが直後に留保が来ます。負で有意な二次の項〔横軸を2乗した項。負だと「上がって、やがて鈍る」形〕から言えるのは収穫の逓減までで、「曲線の下向きの曲がりは統計的に有意でないかもしれない」からだ、と。
では、その一文はどこにあったのか。二つの理論は「どちらも、外部への探索の広さが不利になる点が存在することを示唆している。要するに、仮説は次のように述べることができる」——直後に「仮説1」。結果ではなく、仮説へ渡る橋でした。
01広さの二次の項は、三つの列すべてで負で有意だった。係数は−0.024・−0.027・−0.033、三つとも1パーセント水準で有意〔偶然のばらつきでは説明しにくい大きさ〕。観測数は2,707・2,687・2,687で分母が違います。推定は上下を打ち切った回帰、検定は片側です。
02深さの二次の項は、三つ目の列で有意の記号が付いていない。−0.057と−0.031は5パーセント水準。大きく改良した製品の列は−0.015、一次の項も−0.029で記号なし。要旨は「広く、そして深く探索することは成果と逆U字の形で関係している」。この一文は、三つ目の列を通っていません。
03三つ目の列は「模倣的な革新」ではない。原典は二つ目と三つ目を「漸進的な革新の代理変数」と呼び、互いに排他的だと説明します。三つ目は大きく改良した製品の売上比率。新しさが下がるほど、深さの効きが見えなくなります。

同じ論文がもう一つ報告しています。研究開発の集約度と広さ・深さを掛け合わせた項〔交互作用=同時に増えたときのずれ〕は5パーセント水準で有意だが符号は負。内部の研究開発と開放度の代替効果を示す、と。
ところが同じ2006年に、逆向きがあります。別の査読誌の抄録は「内部の研究開発と外部からの知識の獲得は補い合う革新の活動である」と書き、補い合いの度合いはその会社の戦略の環境の他の要素に敏感だ、とも添えます。標題も構成も違う2002年の作業論文版は、ベルギー製造業の調査(1992-93年・1,335社)を使ったとありますが、刊行版の標本としては確かめていません。
短期の側です。2011年の研究の抄録は、直近の指標では単独の戦略のほうが良い成績で、開かれているほど案件は業界の標準より遅く費用も高かったと報告し、著者自身が「探索的な論文」と断ります。標本の記述には到達していません。
2010年の別の研究は、ベルギーの製造業305社について、提携相手の多様さが革新の成果を経由して財務の成果に間接的な正の影響を持つ一方、直接には費用を増やし、短期には費用増が上回ると報告。この「財務の成果」は会計の指標で、株価ではありません。同じ年の総説は「開く」を内向き二つ・外向き二つに分けています。
01「開きすぎると落ちる、と研究が示した」——落ちるほうは、広さでは検出されていない。結果の節が書いているのは、収穫の逓減まで。負の収益は広さでは検出されず、深さでも9〜16の帯だけ(10パーセント水準)。「折れ返りがある」と「折れ返りが測れた」は、別のことです。
02「逆U字は、どの成果でも同じように出る」——三つ目の列では出ていない。広さの二次の項は三列とも負で有意。深さは三つ目の列で、二次の項にも一次の項にも記号が付きません。それでも要旨は逆U字と書きます。要約が本文より一段強い形です。
03「外を使えば内は要らない」も「内と外は必ず補い合う」も、この号の資料では決まらない。同じ2006年に、英国の研究は代替効果を、別の研究の抄録は補完性を報告しています。国も、調査の年も、枠組みも違います。どちらが正しいかを、この号は決めません。

英国の研究は、郵送の質問票への回答を集めたものです。回答率41.7パーセント、企業は広さや深さを無作為に割り当てられてはいません。「開いたことが成果を上げた」とは、どこにも書いていません。著者ら自身、一つの期間に焦点を当てたことが重大な限界のままだと書いています。
標本の国が版面に印字されているのは英国(2,707社)とベルギー(305社)だけ。3本が、欧州統計局の共通様式による技術革新調査に由来します。別々の証拠に見えて、質問票の一族は同じ。2003年の一般書は書誌だけを確かめ、その書誌さえ資料によって食い違いました。
16の情報源のうち、高い程度で使われていたのは平均6パーセント。
深く頼っていた数は、平均0.96でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。聞いた数字を書き写したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定はしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
この1週間で見聞きした「外と組んだほうがいい」という言い方を1つ選び、それを見た場所の種類だけを書く(社内の資料、報道、交流サイト、広告、人づて)。
- 02NOTE
数字が付いていたら、数字と、何を数えた数かと、いつのものかを書き写す。無ければ「記載なし」。判定はしません。
- 03COUNT
今日1日で外側から取り込んだ情報の件数だけを、数え取りの印で記録する。中身も、役に立ったかも書きません。
年の順に並べると、2002年の作業論文版、2003年の一般書、2004年1月の予稿(係数は刊行版と完全に一致し、要旨の「英国の技術革新調査から採られた」の一句が刊行版で落ちています)、2006年の刊行版と補完性の報告、2010年の総説とベルギーの305社、2011年の報告。8年で積み上がったのは、但し書きのほうでした。
確かめられたのは四つ。広さの二次の項は三列とも負で有意だったこと。深さは三つ目の列で消えたこと。折れ返りの位置は印字されるのに、結果の節は負の収益は検出されないと書いていたこと。看板の一文が仮説の箇所にあったこと。残せるのは、数と、対象と、年です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS「外部の技術を取り込むには?」を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

