IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 288
● 12 SEC「経営者の78%が、短期の数字のために長期の価値を犠牲にしている。」引かれるときは、たいていこの形です。この号が見るのは、その78%がどう作られたか。出どころは2005年に会計研究の専門誌へ出た論文です。
質問は、原典の表の見出しに印字されています——"How large a sacrifice in value would your firm make to avoid a bumpy earnings path?"(あなたの会社は、でこぼこした利益の道筋を避けるために、どれだけの価値を犠牲にしますか)。「短期の数字のために」ではありません。
回答は四択。犠牲にしない22.0%、小さく52.0%、中くらい24.0%、大きく2.0%で、足すと100.0%。原典の本文は"an astonishing 78% of the survey respondents state that they would sacrifice a small, moderate or large amount of value"(驚くべきことに、回答者の78%が、小・中・大のいずれかの規模で価値を犠牲にすると述べている)と書きます。78%は、後ろの三つを足した数です。52ポイント分は「小さく」、「大きく」は50人に1人。
この調査は401人の財務役員への質問票として引かれます。ところが、78%が載っている表の観測数は401ではなく302です。観測数〔その表を作るのに実際に使われた回答の数〕。
分析の基礎も401ではありません——"the analysis below is based on the 312 responses that we can classify as public firms."(以下の分析は、公開企業と分類できた312件の回答に基づいている)。総回答405件のうち同じ会社からの2件組4組を平均して401件、そこから不完全な7件、非公開46件、記載の無い36件が外れて312件。312+46+36+7=401。
「401人の78%」は二重に外れています。分母は302で、公開企業の回答者に限られる。401は重複を統合したあとの数です。

集め方も書いてあります。経路は二つ。財務役員の団体の3,174名へメールで送り、267名が回答(回答率は約8.4%)。回答率〔送った相手のうち、実際に答えた人の割合〕。もう一つは会議です——"approximately one-fifth of the conference attendees, or 134 participants, filled out the survey – these respondents make up approximately one-third of our final sample."(会議出席者のおよそ5分の1にあたる134名が記入し、これらの回答者が最終標本のおよそ3分の1を占める)。2003年11月17日と18日、ニューヨーク。椅子の上に紙が置いてありました。全体の回答率は10.4%。
原典は「最終標本」を数値で定義していません。割ると134/401=33.4%、134/312=42.9%で、「およそ3分の1」に合うのは401の側です。なお267+134=401は総回答405件と4件ずれ、由来は書かれていません(二つの大学のCFOフォーラム経由の接触もあった、と原典は書きます)。
01尋ねたのは、なめらかな利益への犠牲の大きさ。「短期の数字のために」という言い方は、質問文にありません。四択の内訳は22.0/52.0/24.0/2.0%で、足して100.0%。78%は後ろの三つの和、52ポイント分は「小さく」、「大きく」は50人に1人です。
0278%の分母は、401でも312でもなく302。総回答405件、2件組4組を平均して401件、不完全な7件と非公開46件、記載の無い36件を外して312件(312+46+36+7=401)。78%が載る表の観測数は302で、公開企業の回答者に限られます。
03回答のおよそ3分の1は、会議の椅子の上で書かれた。3,174名へのメールに267名(約8.4%)。加えて2003年11月の会議で、椅子へ置かれた紙に134名。原典はこれを最終標本のおよそ3分の1と書きます。134/401=33.4%、134/312=42.9%——合うのは401の側。全体の回答率は10.4%。

同じ論文の、もう一つの数字。55%は「予想に届かなくなるなら、非常に良い案件でも55%が着手を見送る」と引かれます。本文の表では、その55%はその案件を採る平均的な確率でした(1株1.80ドルから1.70ドルへ下がる筋書き、観測数284)。本文が書くのは、採るのは59%、つまり41%が採らない、という数字です(59%と41%で100%)。
実額を見ると、向きは一つになりません。2015年の論文は米国の非上場企業およそ25万件の企業・年(2001年から2007年)で、上場のほうが投資が少なく反応も鈍いと報告。2016年の論文は米国の天然ガス産業の74,670件の案件(非上場380社・上場92社、2000年から2012年)で、非上場のほうが60%反応が鈍いと逆を報告——ただしゼロではありません(係数の和は0.026で正、有意)。米国の税務申告のデータの査読前の作業論文版は、上場のほうが投資が多いと、さらに逆です。
01「78%が、短期の数字のために長期の価値を犠牲にしている」。置き換わっているのは、二か所です。尋ねたのは、でこぼこした利益の道筋を避けるための犠牲であって、「短期の数字のために」ではない。78%は、小さく52.0%・中くらい24.0%・大きく2.0%の和で、大きくは50人に1人。ただし「短期主義は無かった」とも言えません。言えるのは、分母302の四択のうち三つの和だった、まで。
02「その78%は、401人の回答だ」。版は三つ。作業論文版の抄録には「401人の財務役員を調査、加えて20名に面接」「予想に届かなくなるなら55%が着手を見送る」とあり、受理稿(2005年1月11日付)では55%が消えて「四分の三を超える」に。刊行版の抄録は——"We survey and interview more than 400 executives... A surprising 78% of our sample admits to sacrificing long-term value to smooth earnings."(400人を超える役員に調査と面接を行った……標本の78%が、利益をなめらかにするために長期の価値を犠牲にしていると認めている)。刊行版に「401」も「55%」もありません。「41%」の一文も作業論文版だけで、受理稿は「多くの経営者が」に変わります。
03「実額を見れば、向きは定まる」。定まりません。測り方そのものを変えた研究もあります。2017年の論文は短期志向を、その四半期に権利が確定する株式とオプションの額で測り、1標準偏差ぶん増えると研究開発費と純設備投資の伸びが年率0.2%下がると書きました(平均的な投資資産比率の11%)。1標準偏差〔値が平均から散らばる、その一つぶん〕。測るのは同じ四半期。落ち込みは後の四半期で部分的に戻ります(原典は「先送り」と書きます)。この一文も、刊行版の抄録では消えています。

引いた6本のうち、刊行版の版面に到達したものは1本もありません。読めたのは作業論文の版・受理稿・著者最終稿で、刊行版は5本で抄録まで。逐語を引くときは、どの版から引いたかまでが数字の一部です。測ったのは、米国の企業です。
会社を無作為に割り付けた実験は、6本のどれにもありません。原典自身がそう書いています——"it is clearly infeasible to randomly assign firms to a stock-market 'treatment' group and a 'control' group of unlisted firms."(企業を株式市場という「処置」群と非上場企業の「対照」群へ無作為に割り付けることは、明らかに実行不可能である)。2016年は代わりに準自然実験、税務申告のデータの研究は「実験ではない」と明記します。これは投資の話ではありません。買う・売るの合図に読み替えないでください。
犠牲にしない22.0%、小さく52.0%、中くらい24.0%、大きく2.0%。
78%は、後ろの三つを足した数です。その表の観測数は302でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分の使う数字の分母を探したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も採点もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
**よく引用する数字を一つだけ**書き出す。他人や他社の数字は選びません。
- 02FIND
公開されている出どころを開き、三つを探す——(1)分母、(2)集め方(誰に、いつ、どう)、(3)回答率。見つかったものは書き写します。
- 03NOTE
見つからない項目には「書かれていない」、出どころに届かなければ「たどり着けなかった」と書く。
年代順では、批判は少なくとも35年前(刊行版の抄録では40年)から。2005年に質問票、2015年・2016年・2021年に実際の投資額、2017年に権利確定の時期、2018年に反論。動いたのは、測り方のほうです。引かれ続けたのは2005年の78%——内訳も分母も集め方も付けずに。2018年の反論は長期の証拠をほとんど見出さないと結びますが、載ったのは実務家向けの誌で、作業論文版は査読なしと発行元が明記、著者は複数の米国企業と一つの投資信託の役員歴を開示しています。
確かめられたのは三つ。質問文が「でこぼこした利益の道筋を避けるための犠牲」だったこと。78%が四択の後ろ三つの和で、表の観測数が302だったこと。「401」も「55%」も刊行版の抄録に無かったこと。測られたのは、その席にいた一人が思い出して選んだ四つのうちの一つでした——というのが、この号の読み筋です。今日残るのは、数字と、分母と、集め方と、回答率の欄。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS長期投資意思決定力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 標準偏差
- ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。
