IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 286
● 12 SEC「余裕は、多すぎても少なすぎても良くない。」よく出る形です。広めたのは1996年の論文。要旨は余裕と革新に逆U字の関係を示唆し、こう続けます——"Comprehensive worldwide data on 264 functional departments of two multinational corporations support the prediction."(2社の多国籍企業の264の機能部門についての網羅的な世界規模のデータが、この予測を支持する)。数えられた単位は企業ではなく、2社の中の部門でした。
スラック〔ある水準の産出に最低限必要な量を超えて組織が持つ資源のたまり〕。この号では「余り」と呼びます。扱うのは、どれだけ持つべきかではなく、どう数えられてきたか、です。
方法の節によれば、データは欧州の企業と日本の企業、二つの多国籍企業の各国子会社の部門管理職へ郵送された自己申告の質問票。業種は民生用電子機器。
日本の企業の14の各国子会社から178名、欧州の企業の8の各国子会社から78名の回答が完全で使用可能だった。回答率は日本93%、欧州87%、どの子会社でも83%を下回らず。ここで足し算が合いません。178+78は256で、要旨の264と8ちがい、表に標本の大きさの印字はありません。
余りは、二つの仮想の問いで測られました——部門の全員の時間の10%が無関係な仕事に取られたら、年間予算が10%削られたら、今後1年で産出はどれだけ影響を受けるか、です。"managers were given five choices ranging from 1, 'output will not be affected,' to 5, 'output will fall by 20% or more.' … we added the two responses, constructing a composite measure of slack (α = .79)."(どちらも1=産出は影響を受けない、から5=産出は20%以上落ちる、までの五つの選択肢。二つの回答を足して合成尺度にした)。α〔二つの答えがどれだけ揃って動くかを0から1で表す数字〕。記録されたのは資源の量ではなく、五つの選択肢です。
革新の側も同じ回答者です——直近1年に部門が導入した三つの最も重要な革新の総経済効果を、百万ドル単位で見積もる。ただし原典自身が、気づかれないよう二つの設問を離して置いた、と書きます。

この測り方には親がいます。1981年の論文で、1996年はそこから質問文を作りました。その1981年は、この方法に「問題は二つある」と自分で書いています。
011996年は、2社の中の部門で逆U字を報告した。回帰の係数〔条件をそろえ、片方が1目盛り動くと相手がどれだけ動くかの見積もり〕は、直線の項だけで0.08、二乗の項を足すと0.26と−0.00(どれも5%より小さい水準)。頂点も数で——"The point of inflexion … occurs at a slack score ranging from 32 to 34 (on a scale of 0 to 60)."(革新が減り始める変曲点は、0から60の尺度の上で32から34の余裕得点に生じる)。そこでの革新性は、余裕が無いときの4倍。
022003年は、余りを二つの種類に割った。すぐ使える余り(未吸収)と、業務に埋まっている余り(吸収済み)。抄録は——"organization theory generates stronger predictions when dealing with unabsorbed slack, and agency theory is more valid when focusing on absorbed slack."(未吸収の余裕では組織の理論の予測が強く、吸収済みの余裕ではエージェンシーの理論の妥当性が高い)。業績への影響は曲線的で逆U字に「似ている」とも。標本は質問票の57社と記録済みデータの1,532社、いずれも中国の新興経済。
032004年のメタ分析は、三種類とも正だと報告した。80の標本(66の研究、n=54,249)で、三つの型——利用可能・回収可能・潜在的——すべてと財務業績に正の関係。80は標本、66は研究、54,249はのべの企業数。"correlations … are .17, .05, and .28, respectively. None of the confidence intervals includes zero."(相関はそれぞれ.17、.05、.28。どの信頼区間も0を含んでいない)。相関〔二つの数が一緒に動く度合い。−1から1で表す〕。仮説と反対の結果も——遅らせた測り方が当年より強い正の関係を示すことはなかった。集めたのは1990年から2000年の実証論文。

1981年へ戻ります。要旨は、余裕という概念はたいてい経験的な測定の試みを伴わないまま論じられている、と書き、いくつかの測定を提案しました。問いは「そもそもどう測るか」でした。質問票で尋ねるやり方を挙げ、すぐこう続けます。
一つ目は、個人が自分の限界点を正確に判断できるとは考えにくいこと。そして——"The second, and perhaps more critical, problem is that this would represent a measure of individual phenomena, not organizational."(二つ目の、そしておそらくより重大な問題は、これが組織ではなく個人の現象の測定になってしまうことだ)。1996年が引いて答えたのは、一つ目だけです。「より重大なほう」への応答は、読めた範囲にありません。
01「逆U字なのだから、最適な一点がある」。頂点の32から34は合成得点の目盛りの上の位置で、現金や時間の比率ではありません。原典は量の答えを出さず、問うべきは、余裕が革新にとって良いか悪いかではなく、どれだけの量が最適か、だと討論の節を閉じます。資源の何%が適正かという目安は、6本のどこにもありません。
02「余りの種類で、業績との関係の符号が逆になる」。メタ分析は三種類すべてで正(.17、.05、.28)。均すと符号は分岐していません。出どころは2003年。入れ替わったのは理論の当たり外れです。組織の理論は余りが業績に正の影響を持つと予測し、エージェンシーの理論は余りが非効率を生んで業績を抑えると予測します。二つを混ぜると、どちらの原典とも違う主張になります。
03「撤回や訂正は、機械で照会すればすべて分かる」。正誤表は1頁だけの文書で、直ったのは表6(1259頁)のNが1.532ではなく1,532、図1の式が Y = f(X,Z) = 0.023 + 0.23X − 0.006X² + 1.024Z − 0.029Z²。組版の誤りで、結論も符号も、どちらの理論がよく当たるかも動いていません。一方、6件の出典すべてで訂正の相互リンクを照会すると6件とも空。分かるのは、原論文の抄録の冒頭にその一文があるからです。

全文まで読めたのは6本のうち3本——1996年、1981年、2004年の正誤表。読めていないものについては書きません。対象は、2社の多国籍企業の中の部門、中国の移行期の経済にある企業、1990年から2000年の実証論文の集計。単位は部門と企業で、働く人ひとりの余りではありません。各国子会社の国も、答えた人の性別や年齢も、原典は書いていません。無作為に割り付けた実験は、読めた範囲に1本もありません。
これは、余りをいくつ持てばよいかの目安ではありません。1981年が提案した財務データによる測定は、内部留保・配当性向・一般管理費・売上高に対する運転資本・負債の対資本比率・信用格付・短期借入の金利と最優遇金利の差・株価収益率の8つ。原典は株価収益率を、株式で資金を集める力の合図と説明します。買う・売るの合図に読み替えないでください。
余りの量として記録されたのは、部門にある資源の量ではありません。
10%取り上げられたらどれだけ困るか、への五つの選択肢でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の余りを書き分けたら何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も、採点もしません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
紙かメモアプリに、**手元の「余っているもの」を三つだけ**書き出す。使っていない道具、埋まっていない時間、置いたままの材料。他人の余りは見ません。
- 02SORT
その三つに、**「すぐ回せる」か「すでに埋まっている」かの札を付ける**。迷ったら「わからない」と書く。
- 03NOTE
「わからない」と書けたものは、なぜ決められないのかを一言ずつ書く。残すのは三つと、その札と、一言だけ。
1996年と1997年は同じ2人・同じ標本の連作で、独立した二つの検証ではありません。2003年の論文と2004年の正誤表は、同じ論文とその訂正。1981年は年表の目印ではなく、部門という単位で余裕を測る唯一の手引きとして1996年が引いた測定の親です。
確かめられたのは三つ。数えられたのは企業ではなく2社の中の部門で、要旨と方法の節の数が8ちがうこと。分析に入った余りの量は、二つの問いへの五つの選択肢の合成だったこと。頂点は目盛りの上の位置で、資源の比率ではないこと。余りを減らせば、減らしたことは数えられます。おかげで通ったものは数えられません——だから余りは、減らしすぎるほうへ倒れる。というのが、この号の読み筋です。残るのは、記録が1件だけ。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS戦略的スラックを、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。

