IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 281

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

ひとつの表から入ります。西欧・日本・米国の化学産業の主要97社。提携1981年から1991年、特許1982年から1992年、分析に入ったのは996の企業・年で、1件は「ある会社の、ある1年」です。同じ表の中で、符号が揃いません。直に結ぶ相手の数は正、一人挟めば届く相手の数も正、掛け合わせは負。相手どうしが互いに結んでいない状態——空隙——も、負でした。

空隙はマイナス0.310・マイナス0.373・マイナス0.284で、測り方を三通りに変えても負のまま(マイナスは逆向きの関連、0なら関連なし)。「外とのつながりを増やす」の中に、三つの別の量が入っています。

ただし、ここで止めると原典を裏切ります。カナダの投資信託を運用する77社を測った2005年の研究は、標準化された係数0.519で正。2009年の研究はイタリアのテレビ制作501チームを12年追い、橋渡しするチームは視聴が多いと報告します。空隙を負と測った側の討論部には——空隙が良いか、悪いか、無関係かは、文脈の関数でありやすい。

外部弱紐帯ネットワーク幅(external weak-tie network breadth)が指すのは、組織の外にいる相手との薄いつながりの数と広がり。直接の紐帯は直に結んでいる線、間接の紐帯は相手の相手、空隙は結んでいる相手どうしが互いに結んでいない状態です。

化学の97社は最尤法によるランダム効果のポワソン回帰で、有意水準は仮説の変数が片側検定、統制変数が両側検定。カナダの77社は重回帰、従属変数は市場占有率。読んだ範囲に、無作為な割り付けは1件もありません。書けるのは、正に出た/負に出た/明確な差とは言えなかった、までです。

(仮ビジュアル)夜の高層階の窓辺に立ち、暗いガラスに自分の姿を映しながら街の明かりのほうを見ている、黒いスーツの女性
1件は、ある会社のある1年です。化学産業の97社について、996の企業・年が分析に入りました。 Visual: ALIFE

では、その空隙は、どこで、どう測られたのか。

01化学産業の主要97社では、直接と間接は正、掛け合わせと空隙は負に出た。2000年の研究。約120社から、子会社を統合して107社、データの揃わない10社を落として97社。空隙はマイナス0.310・マイナス0.373・マイナス0.284(標準誤差0.029・0.029・0.025)、直接0.057、間接0.051、掛け合わせマイナス0.007。掛け合わせが負とは、直接の相手が多い会社ほど、間接が増える効き目が小さいということ。換算では、直接5・間接20の会社で、直接が1目盛り(1標準偏差)増えると特許の率が23%、間接は4%。間接の効き目は直接5の会社で1.03倍、6では1.016倍。

02カナダの投資信託を運用する77社では、同じ空隙が市場占有率と正に出た。2005年の研究。1998年1月31日時点の協会名簿79社から、二重登録の1社と活動していない1社を除いた77社。会員は当時、カナダで運用される資産の97%超。従属変数は同年12月31日の市場占有率。空隙は標準化された係数0.519、掛け合わせ込みで0.352、いずれも危険率0.001(0なら関連なし、大きいほど強い)。相手側の革新度マイナス0.080とマイナス0.159は明確な差とは言えず、同じデータで、閉鎖が業績を高めるという仮説3bは支持されませんでした。

03イタリアのテレビ制作501チームの研究は、正の関連と留保を同じ抄録に置く。2009年の研究。到達したのは抄録までです。測られたのは会社ではなくチーム——イタリアのテレビ制作501チームの12年ぶんで、主な問いは空隙の生まれ方。ただし抄録は、橋渡しするチームの業績(視聴の多さ)との正の関連を報告し、直後に留保を置きます——多様性ではなく同質性のほうが、空隙をまたぐ業績に影響している。本文に届いていないため、係数も内訳も書けません。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
化学産業の97社・カナダの運用会社77社・イタリアのテレビ制作501チーム。空隙を測ったのは、この3本。 Visual: ALIFE

動くのは原典の表ではなく、要約されていく途中のほうです。

01「鉄鋼と半導体で符号が入れ替わった」と読むと、空隙を測っていないことが畳まれる。2000年の研究に、空隙という変数はありません。測られたのは強い紐帯・弱い紐帯の本数と、相手どうしの結び合いである局所の密度。産業別の回帰は鉄鋼で強い紐帯0.0119(危険率0.01)・密度0.0901(同0.05)、半導体で弱い紐帯0.0074(同0.05)。鉄鋼の弱い紐帯0.0057、半導体の強い紐帯0.0028と密度0.0024は明確な差とは言えません。空隙に訳せば「鉄鋼で負・半導体では差とは言えない」で、入れ替わりではありません。期間は1990年1月1日から1997年6月30日。社数は本数138社・132社、総資産利益率58社・66社、回帰53社・45社。星ひとつは危険率0.10という緩い印字。原典自身が——確かめるにも反証するにも、さらなる研究が必要である——と留保します。

02「つながりを増やす」と一語で読むと、三つの別の量が畳まれる。直に結ぶ相手の数・一つ挟めば届く相手の数・相手どうしが結んでいない状態は、別の量です。化学の97社では正・正・負に分かれ、掛け合わせも負でした。皮肉なのは、その数を三つに割って測った研究のほうが、増やすと良いとは言ってくれないこと——というのが、この号の読み筋です。カナダの77社では符号が逆。

03「空隙は良い」「悪い」で締めると、測った本人の一文が畳まれる。空隙を負と測った論文は、討論部で条件を二つ挙げます。共同の場を作ることと出し抜かれないことが不可欠なときは閉じた網、多様な情報に速く届くことが不可欠なときは空隙が有利になりやすい。どちらも推測の形の、著者の解釈です。抄録の締めも同じ向き——最適な構造は、その網の参加者の目的によって決まる。一人でやっている人、家業を継ぐ立場、行政や学校の組織は、この数字に入っていません。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
空隙を測っていない研究を一角に数える・三つの量を一語にする・良い悪いで締める。畳まれるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

化学の97社は世界の化学産業の中核をなす最大手です——共同のつながりの記録は、小さい企業について長期にわたって得ることが極めて難しい、と原典自身が書いています。カナダの77社は1業種・1年の断面、イタリアの501チームは1国のテレビ制作。全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていないものについては書きません。

割れている側も並べます。1996年の研究は、ヒト治療薬の研究主導型バイオ企業約225社を1990年から1994年まで分析し、革新の所在は個々の企業ではなく学習の網にあると論じました(観測期間の全数であって無作為標本ではない、と原典自身の断りつき)。2000年のもう1本は、カナダのバイオ新設企業で、多様な情報と能力に届く効率的な網と、競合の危険が小さい相手選びが、革新の面で支持されたとします(抄録まで)。2本とも空隙の係数は報告していません。

空隙が良いか、悪いか、それとも無関係かは、文脈の関数でありやすい。
そう書いたのは、その空隙を負と測った側だった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは組織どうしの網の形と、特許や市場占有率との関連です。増やしません。評価もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    この1年に外部とやりとりした記録——連絡、請求や納品の控え、予定表——から、接点を三つだけ書き出す。相手の名前は要りません。

  2. 02MARK

    三つそれぞれに、直に結んだ線か、誰かを介した線かを書き添える。分からなければ「分からない」。良し悪しの印は付けません。

  3. 03NOTE

    最後に一行。三つの相手どうしが互いに結んでいるかを、知っている範囲で。知らなければ「知らない」。調べません。

5分。採点も、多さを競う要素もありません。相手を評価しない、調べない、尋ねない。手元の記録だけで完結させ、誰にも見せず、提出もしません。**組織の決定や、誰と付き合うかの判断には使えません。**気持ちが沈む状態が続くときは、この課題より先に、信頼できる相談先や専門家へ。

確かめられたのは四つ。化学の97社で、直接0.057・間接0.051・掛け合わせマイナス0.007・空隙マイナス0.310〜マイナス0.284と符号が割れたこと。カナダの77社では同じ空隙が市場占有率と0.519で正に出て、閉じた網の仮説が不支持だったこと。イタリアの501チームの抄録が、正の関連と同質性の留保を同じ場所に置いたこと。鉄鋼と半導体でよく並べられる研究は、空隙を測っていなかったこと。測るたびに増えたのは答えではなく条件のほうだった——というのが、この号の読み筋です。残せるのは判定ではありません。接点が三つと、線の形。記録が三件、残るだけです。

SECOND LAYER · FULL SYLLABUS外部弱紐帯ネットワーク幅を、もっと深く学ぶ。→
HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。