IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 279
● 12 SEC成績が良い会社ほど、成績のばらつきが小さい。リスクを取るほどリターンが上がる、の反対です。出どころは1980年、実務誌〔査読誌ではなく実務家向け〕Sloan Management Review の論文。ある投資情報サービスのデータで、85業種・1,572社、自己資本利益率の平均と分散〔ばらつきの大きさ。同じ数の列から平均といっしょに作られます〕を1968年から1976年までの9年間で計算しました。
本文の逐語は、85業種のうち56業種が仮説を支持し、21業種がこれを反証し、8業種が引き分けである。56+21+8=85。脚注は、自己資本利益率を含まない、あるいは「業種」ではない業種をさらに三つか四つ除外したと断ります。
手法は回帰ではなく、四つの枡で数える表と非母数検定〔分布の形を仮定せず、順位や個数で判定するやり方〕。自己資本がほとんどゼロの会社の巨大な負の利益率が最小二乗を歪めるから、と理由も。有意水準は脚注——二項検定(帰無仮説 p = 0.50)は5年間の検定が0.01、85業種の9年間の検定は0.001よりさらに小さい〔小さいほど偶然では起きにくい〕。
比べられているのは、同じ業種の中の会社どうしです。同じ論文は業種そのものの水準も見ます。85業種を会社の平均値で四つの枡に置くと18・25・25・17、驚くべき無相関(あるいは有意でない負の相関)。業種の中の会社どうしの負の相関は、有意ではあるが、おおむね控えめ。
説明も同じ論文の中でした——利益平準化と企業戦略。ただし原典は平準化を二つに分けます——会計上の平準化はまったく会計上の調整によるもの、実体のある平準化は経済的・物理的・組織的な(しかし会計上のものではない)決定によるもので、両方とも負の相関を支持する方向に働くだろう、と。
実体のあるほうは、実際に経済的なもので、うまくやれば長期の平均利益を上げられる、と。「疑いは発見と同じ論文にあった」で片づけると、半分が落ちます。半分は測り方への疑いではなく、実体のある経営の説明です。

では、実際に何が数えられ、何が論じられてきたのか。
01出発点の1980年には、当時未刊行の追試も、反証する先行研究も並んでいた。出発点は1980年、Sloan Management Review 21巻3号。当時未刊行の追試は54業種・1,458社、1966年から1975年、順位で見る方法。43業種の相関係数が負、有意水準は0.00001。会社の大きさを統制すると43から39へ減ります。原典は、自分の発見を反証した先行研究も名指ししました。
021990年の論文は、この枠組みでは本来的に検証不能だと論じた。Management Science 36巻3号。その関係についての言明は、この体系の中では本来的に検証不能である——平均と分散が算術的に結びついているからで、符号が逆だという主張ではありません。結果は検討されたデータと期間に固有で、必ずしも一般化できない、証明は米国の航空業の例で補う、とも。
032009年の論文は、見かけ上の効果が「大きい部分」を説明すると報告した。Strategic Management Journal 30巻3号。収益分布の歪み〔分布が左右対称でないこと〕が平均・分散の関係に相当な見かけ上の効果を与え、その大きさは平均して、観測された負の関係の大きい部分を説明するほど——「全部が見かけ」ではありません。リスクは、会計にもとづく収益の系列の分散として測られています。

数字そのものは、四十年近く動いていません。動いたのは、そこから何が言えるかです。
01「関係が出ているなら、うまくやった証拠だ」と読むと、別の入口からも同じ関係が出ることが落ちる。2007年の Strategic Management Journal 28巻4号は、模型が数学的にこの逆説の負の関連を生むと示し、1991年から2000年までの45業種の実証研究と整合的だと報告。ところが、ほぼ同じ著者陣の2015年・同誌36巻8号は、行動がランダムウォーク〔次にどちらへ動くかが、それまでと関係なく決まる動き方〕の形で無思慮に見える場合にも、結果は同じく整合する。条件は、二つの経路依存過程からなる環境と、学習の水準が低い場合の計算機模擬。著者らは「もっともらしい原因」で止めます。三つの入口として並べたのはこの号です(歪みは2009年、あとの二つは2015年の論文)。
02「測り方の産物だと決着した」と読むと、原典が「大きい部分」で止めていることが落ちる。1991年の批評と再反論について読めたのは、題名と頁だけ——Management Science 37巻9号の1206から1210頁「逆説、あるいは少なくとも分散は見つかっている」と、1210から1215頁「失われた逆説は、見つかったジレンマになる」。出版社が「抄録」として掲げる文章は、批評した側の要約ではなく、批評された側の1990年の論文からの引用で、末尾に出典表示と「強調は原文」が付きます。
03「投じた額は、そのままリスクの量だ」と読むと、2017年の検査が落ちる。実証は、しばしば研究開発費をリスクの代わりに使ってきました。2017年の Strategic Management Journal 38巻4号がそれを検査します。1,907社から3,908社、13年間、複数の業種。集約度(売上に対する割合)と支出額を11種類の企業リスク指標と突き合わせ、一貫した正の関連は概して見られず、集約度と支出額どうしも正に相関しない。結論は、リスクの定義と測定の模型を示さずに代理として用いるのは避けるべきだ、です。注意されているのは、研究の測り方です。

全文まで読めたのは、8本のうち1本です。読めていないものについては書きません。その1本も、同じ年に出たMITの作業論文の版で、刊行版そのものには到達していません。刊行版の17から31頁は、独立した2件の文献の参考文献記載から確定しました。残る6本は要旨まで、1本は書誌のみです。
1980年の85業種・1,572社は米国の企業。2007年の45業種と2017年の1,907社から3,908社は、国も上場の別も要旨の範囲では特定できませんでした。読めた範囲に、人や会社を無作為に割り付けた実験はひとつもありません。原典自身も線を引きます——企業の水準でのこの逆説は株主市場では証券の値付けによって取り除かれうる。投資家の取り分の話としては読めない、ということです。
85業種のうち、56が支持し、21が反証した。
どちらも、最初の論文の中にある。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。判定も、良し悪しの評価もしません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
自分の手元の記録だけを開き、過去2年に新しく始めたことを拾って一覧にする。10件で打ち切ってよい。他人が始めたことは入れません。
- 02SORT
それぞれの結果に(良かった/悪かった/どちらとも言えない)の札を付ける。迷ったものも、結果がまだ出ていないものも「どちらとも言えない」で。
- 03WRITE
二つの数を書く。良かったものの割合と、三つの区分の内訳。最後に、この二つが同じ一覧から作られていることを一行だけ書き添える。
確かめられたのは、この範囲です。85業種のうち56で支持・21で反証・8が引き分け、さらに三つか四つは除外。1990年は「本来的に検証不能」と論じた。2009年は「大きい部分」で止め、2015年は学習でもでたらめでも同じだと書き、2017年は11種類の指標のどれとも一貫した正の関連を見なかった。
この8本は、独立した8つの発見ではありません。すべてが1980年の同じ1本を出発点にし、1990年と1991年は同じ著者の応酬、2007年と2015年はほぼ同じ著者陣の連作。同じ形の関係が、歪みからも、不完全な学習からも、無思慮な動きからも出るのなら、出た数字は、そのどれが起きたのかを教えません——というのが、この号の読み筋です。残せるのは、割合と内訳という二つの数が同じ一枚から出ていると確かめる一手だけ。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS探索投資ポートフォリオ判断力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。

