IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 277
● 12 SEC変化を先に見つける力には、教科書があり、点数を付ける診断票もあります。この号が追うのは、その点数のほうです。2018年のレビューが、この言葉で量的に測った論文を数えました。索引1,106件、要旨311件、全文305件、最終144本。
その144本の中に、互いに異なる測り方が232通り。1本あたり1通りから12通り。論文の数より、測り方の数のほうが多い。内訳は経営者の自己評価155、企業の経験・行動・業績54、経営者や従業員のそれ14、財務データ9(155+9+54+14=232)。
枠組みを提示した2007年の論文にも、但し書きがあります。"A framework is less rigorous than a model as it is sometimes agnostic about the particular form of the theoretical relationships that may exist."(枠組みは模型ほど厳密ではない。理論的な関係がどういう形をとるか、ときに態度を決めないからである)。
市場シグナル感知力(market sensing)が指すのは、変わり目を、変わりきる前に見つけること。経営学でいうダイナミック・ケイパビリティ〔環境が変わったとき持ち物や段取りを組み替える力〕の最初の段階です。
144も232も155も、298も197も101も78も、内容分析〔論文を手順を決めて読み、何がどれだけ書かれているかを数えること〕のカウントで、効果の大きさではありません。分母は二種類——論文の数(144本・298本)と、測り方の実例の数(232通り)です。
数えた範囲は量的な研究だけ。原典の中には食い違いも一つあります。本文は検索が2016年5月・最後の年は2015年、表の説明は「社会科学引用索引、1956年から2014年」。最終年が本文と表で1年ずれます。どちらかを正解にはしません。

その232通りの物差しは、どこから来ているのか。まず開いたのは、この3本です。
01枠組みを提示した2007年の論文が、模型ほど厳密ではないと書いている。結びも「一般理論の端緒」までである。感知・捕捉・組み替えの三段を与えた論文です。ただし著者自身が、関係の形をときに特定しないと書き、結びも「戦略経営の一般理論の端緒」まで。この号が全文を「表」「標本」「無作為」「p<」で走査した範囲では、新しいデータの分析表は見つかりませんでした。図1〜4は概念の要約図です。
02量的に測った144本の中に測り方は232通りあり、その155は、自社の力をその会社の人が採点したものだった。絞り込みは4段階(1,106→311→305→144)。著者はこの数を比較的少ないとし、測れる形にするほうが難しかったのかもしれない、と書きます。手続きの結果できたのは、232個の互いに異なる操作化の一覧でした。多くは共通の方法に由来する分散を抱えている、とも——"the same survey responses are used to construct both the independent and the dependent variables."(同じ質問票への同じ回答から、独立変数と従属変数の両方が作られている)。名指しは例として16本で、232件のうち何件かという数はありません。
03実証が少ないわけではない。298本を内容分析した2018年のもう一つのレビューでは197本(66.1%)が実証だった。内容分析した298本の方法別は、実証197本(66.1%)・理論101本(33.9%)。定義の出どころは1997年111本(37.3%)、2000年59本(19.8%)、2007年49本(16.4%)、2002年23本(7.7%)で、足すと242本と298に届きません。原典の地の文は、この分布を割れではなく収束と読みます——"Table 2 shows an increasing convergence among definitions."(定義のあいだに収束が進んでいる)。同じ数字が、二通りに読まれています。限界は298本中220本(74%)が挙げ、測り方と構成概念の妥当性が78本(26.2%)でした。

動くのは、要約されていく途中のほう。消えやすいのは3か所。
01「点数が高い会社は感知できている」と読むと、その点数を誰が付けたかが消える。232通りのうち経営者の自己評価は155、残る77は財務データ9と、企業や人の経験・行動・業績です。すべてが自己採点なのではなく、およそ3分の2がそうだった、ということ。その155の側では、答える時点では結果がもう出ていることが多い——というのが、この号の読み筋です。書けるのは、点数が高いとは、点数を付けた人がそう答えた、というところまでです。
02「よく見に行けば業績が上がる」と読むと、原典自身が置いた断りが消える。1988年の研究は、米国テキサス州の名簿から73社に接触し50社が参加(年商200万〜5億ドル・平均6,500万、従業員100〜6,000人)。面接50件のうち41件が最高経営責任者本人、9件は副社長級(2+3+4)。業績は自己申告の総資産利益率の3年平均(1981〜1983年、年ごとの相関0.62、p<0.001)、回答は20%以上/16〜19.9/12〜15.9/8〜11.9/4〜7.9/0〜3.9/−3.9〜0/−4.0%以下の8段階の順序尺度〔幅がそろうとは限らない目盛り〕。中央値9%で二分し25社対24社(25+24=49で1社足りません)。原典自身の断り——"it would not be accurate to claim that scanning leads directly to company performance, because performance is caused by a number of factors."(見に行くことが業績に直接つながると主張するのは正確ではない——業績は多くの要因によるからだ)。考察では、業績が良いから広く見に行けるのかもしれない、と逆向きの読みも並べます。仮説4は棄却——内部(r=0.53)と外部(r=0.53)が同一。規模との相関0.18はp=0.12で、効果は小さく有意ではないとも。
03「たくさん見ればよい」と読むと、どこに配るかという話と、条件で向きが変わる結果が消える。量ではなく配分だという見方を理論にした1997年の論文も、これは初期の定式化でまだ予備的な段階だと自分で書きます。2007年の但し書きと同じ形です。実際に測ったのは2003年の研究(単一事業の製造業105社への質問票調査)。動きの大きい環境と安定した環境とで重点を置く先が入れ替わり、最も強く出たのは相対的な重点の置き方と売上高の伸びのあいだ。この1本は抄録までで、回帰係数も統制変数も標本の国も読んでいません。1991年のメタ分析は29の標本(研究の数ではありません)・2,496の組織を集計し、計画と9つの業績指標との関係は控えめ。測定上の問題が"underestimate the true relationship"(真の関係を過小評価している)ことを示唆する、とも書きます。弱いのか測り方が悪いのかは切り分けられておらず、こちらも抄録までです。

7本のうち、実際に企業へ尋ねたのは2本(1988年の50社・2003年の105社)。枠組みや理論が2本、内容分析が2本、メタ分析が1本です。1988年は米国テキサス州・1981年から1983年の業績、2003年は国の記載に到達しておらず、2018年は英語の学術誌の論文。到達した範囲に、無作為な割り付けの記述はありません(「対照群」も0件)。
全文まで読めたのは7点のうち5点。読めていないものについては書きません。どの診断票を使えばよいか、組織をどう変えればよいかは書きません。その効果を、どの研究も測っていないからです。書けるのは、点数がどう作られてきたか、までです。
144本の論文の中に、測り方は232通りあった。
そのうち155は、自社の力を自社の人が付けた点数だった。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。自分の感じた兆しに札を付けたとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。当てにいきません。判定もしません。
TRY IT TODAY
- 01WRITE
この半年で「何か変わってきた」と感じたことを3つ、一行ずつ書き出す。**当たっているかどうかは問いません。**
- 02TAG
その3つに、根拠を一つだけ選んで札を付ける。(1)手元の記録の数字、(2)公開されている資料、(3)その場の印象。**迷ったら(3)。**(1)のときだけ、いつからいつまでを数えたものかを一行添える。
- 03COUNT
3つの札の内訳を一行書き写す。それで終わりです。**印象だと分かっている状態と、記録だと思い込んでいる状態は、別のものだからです。**
当たれば見ていたからだと言え、外れれば見きれなかったからだと言える。どちらの側にも点数が用意されている——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは、力の大きさではなく点数の作られ方でした。144本の中に測り方が232通りあり、その155が自社の人による自己採点だったこと。実証は少なくなく(298本中197本・66.1%)、その分布を原典自身は「収束」と読んでいたこと。実際に尋ねた1988年の50社では、業績が自己申告の目盛りだったこと。残らないのは、その点数をそのまま力の大きさとして持ち歩ける、という部分です。兆しが三つ、札が三つ、内訳がひとつ。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS市場シグナル感知力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 相関係数 r
- 2つのものが連動する強さ。−1〜+1で、0は関連なし。一般的な目安では ±.10=弱い、±.30=中くらい、±.50=強い関連とされます。関連があっても、原因と結果の関係とは限りません。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- p値
- 差がないと仮定したとき、偶然でこの結果以上が出る確率の目安。小さいほど偶然では説明しにくいことを表しますが、効果の大きさは表しません。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

