IN ORGANIZATIONAL FORTUNE · ISSUE 276

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

損切りは早いほどよい、と言われます。では、早いとは何に比べて早いのか。遅れという言葉には、基準が要ります。2015年に Strategic Management Journal 36巻7号へ出た研究が、その側から手をつけました。材料は米国の銀行の全数〔標本抽出せず全部入れた〕、1984年から1997年。水準は組織(銀行)。

抄録によれば、再参入の費用を避けることの価値を強調する理論とは整合せず、能力の不確かさのもとでの合理的な遅れは支持される。その原因を統制する〔他の条件をそろえる〕と、悪い兆候を良い兆候より割り引く行動の偏りと、所有と支配の分離〔持ち主と決める人が別々な度合い〕が進むほど遅れは大きくなる組織の事情の、証拠が見つかる。

この号が引く6件のうち、本文まで読めたものは1件もありません。読めたのは抄録と、書誌の登録の記録までです。

失敗切り上げ速度(exit delay)が指すのは、うまくいっていないと分かってから手を引くまでの時間。遅れを測るには、本来ならいつ出るべきだったかが要ります。時計は二つ要る——待つ理由がある期間の時計と、それを差し引いてもなお進む時計。二つ目に残った時間が「遅れ」です——というのが、この号の読み筋です。

出どころにも、数え方の問題が。この研究には査読誌に載る前の登録があり、登録は一つ。2010年7月17日に投稿され、いま公開されているのは2014年3月7日付の版(41頁)です。ところが、この登録に振られたもう一つの識別子だけが、旧い題名と2011年のまま凍っています。索引をたどると2本に見えて、着地するページは1本。

その登録で目にとまるのが、著者自身の索引語に「escalation of commitment」が入っていることです。この名前が付いたのは1981年に Academy of Management Review 6巻4号へ出た論文。抄録の末尾は最近の研究を概観し、その複雑でしばしば相反する規定因を統合しようと試みる。新しいデータを持たない、概観の論文です。参考文献の一覧45項目には、著者自身の1976年の実験が並びます。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
三つの説明を、同じ標本で同時に検定した研究がある。米国の銀行の全数、1984年から1997年。 Visual: ALIFE

では、実際に測られてきたものは何なのか。まず測られたのは、この三つです。

01米国の銀行の全数、1984年から1997年。三つの系統を、同じ標本で同時に検定した。合理・行動・組織と別々に論じられてきた三つを、同じ標本で同時に検定した研究です。結論は「退出行動を記述するには三つの系統の理論がすべて必要である」。対象は、記録の揃う一つの業種・一つの国・一つの期間です。

022017年の実験室の課題では、判断のほうはほぼ最適で、歪んでいたのは信念だった。2017年に同誌38巻2号へ出た研究は、同じ問いを実験室へ。持分を与えられた処置群と、収益性の見立てだけで報酬が決まる対照群〔片方だけに条件を与えて比べる呼び名〕を比べ、処置群の判断は自分の信念を前提とすればほぼ最適だが、その信念のほうが対照群に比べて有意に歪んでいると報告。歪みの型は、確証の偏り〔合う情報を重く見る〕と動機づけられた推論〔望む向きに寄る〕に整合する、とも。著者らは誘因が信念の形成にも「影響しうる」と書きます——「影響した」ではありません。銀行の全数と同じ強さでは語れません。

03買収した事業を手放す決定を扱った2005年と2007年は、慣性と人員の交代と統治の言葉で書く。2005年に Journal of Management 31巻1号へ出た研究は、親会社と事業の特性がうまくいっていない事業を手放す可能性を下げ、主要な人員の交代と有効な統治の仕組みがそれを上げる、と論じました。結果として示されたのは、企業の年齢と規模・新任の社外取締役・売却の経験が(他の変数とともに)効き方を調整していた、まで。同じ第一著者が2007年に Academy of Management Journal 50巻6号へ出した研究は、売却の決定は、個人水準と組織水準の両方の要因から影響を受けると書きます。

(仮ビジュアル)暗い石の台に並ぶ朝食。器に盛られた洋梨とさくらんぼとオーツ麦、水の入ったグラス、たたまれた麻の布
銀行の全数と、実験室の課題と、買収した事業の売却。まず測られたのは、この三つ。 Visual: ALIFE

動くのは、要約されていく途中のほう。読み違えやすいのは3か所。

01「遅れるのは、決めた人が損を認めたくないから」。抄録に並ぶ三つは、どれも一人の意志の強さの話ではありません。ただし「心理は関係ない」でもありません。行動の側は偏りそのもので、違うのは、人柄ではなく「悪い兆候を割り引く」という兆しの読み方として書かれていることです。

02「遅れの何%が合理的で、何%が非合理か、割合が出ている」。到達した抄録の範囲に、その配分表はありません。ただし「原典に無い」とも書きません。本文に到達していないからです。結論は「どれが何割か」ではなく「どれが要るか」に答えた文でした。三つの遅れは同じ一つの決定の上に重なっていて、切り分けて足し合わせられる形をしていない——というのが、この号の読み筋です。

03「早くやめた会社ほど、次がうまくいく」。到達した抄録の範囲では、退出の早さとその後の成績を結びつけた記述に行き当たりませんでした。確かめられているのは、遅れがなぜ生じるかまで。「そんな研究は存在しない」ではなく、当たった範囲では行き当たらなかった、までです。撤退や売却や人員の判断についての勧めは、この号のどこにもありません。勤め先や取引先が危ないかどうかの判定に使わないでください。

(仮ビジュアル)3つの縦長の区画に分かれた写真。左は薄暗い寝室の乱れた寝具(壁に採光)、中央は窓の外を見ている女性の横顔、右は玄関の床に置かれた上着と鍵
性格の話だと読む・割合が出ていると読む・早く出た側のその後が分かっていると読む。読み違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

水準はばらばらです——組織(銀行)、個人(参加者)、事業単位と組織。無作為な割り付けは、到達した抄録のどこにも書かれていない。だからこの号は、因果の言い方をしていません。測られているのは、記録の揃う業種と、作られた実験室。一人でやっている商いには「所有と支配の分離」がそもそも存在しません。国が書かれているのは米国の銀行の研究だけで、性別・年齢の記載もありません(2005年の「年齢と規模」は企業のもの)。

読めたのは、抄録の全文まで4件、抄録と参考文献表まで1件、登録の記録まで1件。6件は、著者で数えると三つの系統しかない。銀行の研究とその登録と実験室の研究は同じ2人の連作で、前の2件は同じ一本。売却の2本は同じ第一著者。1981年の概観だけが重なりません。6件とも訂正・撤回はなく、ただし1981年の概観には識別子が二つあり、抄録が入っているのは片方だけです。

一本の研究に、二つの識別子がある。
見分けるのは題名ではなく、著者と標本のほうだった。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。3行を書いたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。決めません。良し悪しも書きません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    うまくいっていないと自分が思っている取り組みを1件だけ書く。他人の取り組みは対象にしません。

  2. 02WRITE

    その下に3行。(1)いつからそう思っているか。(2)何が分かれば終える判断ができるか。(3)その材料はいつ手に入るか。書けないときは「書けない」と。

  3. 03STOP

    **そこで終わりです。決める必要はありません。**書いたのは判断の材料であって、判断そのものではありません。

5分。採点はありません。**これは、あなたの決断力を測る課題ではありません。**誰にも送らない。人の取り組みを判定しない。勤め先や取引先が危ないかどうかの判定に使わない。つらさが続く・強まる場合は、信頼できる相談先や、必要に応じて医療・支援の専門家へ。

確かめられたのは四つ。2015年の研究が、三つの系統を米国の銀行の全数(1984年から1997年)で同時に検定し、「三つとも必要」と結んだこと。2017年の実験室で、歪んでいたのが判断ではなく信念だったこと。2005年と2007年が、売却の決定は個人水準と組織水準の両方から影響を受けるとしたこと。1981年の論文が、概観だったこと。

「遅れの何%が合理的か」という配分は、到達した抄録の範囲にはありませんでした。あるのは、登録をたどると二本に見えた研究が、著者と標本で数えると一本だったというところまで。今日残せるのは、取り組みがひとつ、3行がひとつ。記録が1件、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。