IN FINANCE · ISSUE 272
● 12 SEC「来期はこうなります」という表が、会議の席に配られます。損益・貸借・キャッシュフローの3表を連動させれば、会社の未来が数字で描ける、と。この号が見るのは描き方ではなく、その予測の中核にある前提がどこまで確かめられているか、です。
扱うのは、査読誌の論文5本と、査読を経ていない配布資料1点です。
この号は、財務の回の最後の一本。その先にあるのが未来の数字——いちばん精巧で、いちばん確かめられていない数字です。
財務の予測は、たいてい伸び率から始まります。その一つの数字が3表を先まで伸ばす。では、それはどこまで当たるのか。
2003年の論文の抄録は、こう述べます——"There is no persistence in long-term earnings growth beyond chance, and there is low predictability even with a wide variety of predictor variables."(長期の利益成長に、偶然を超えた持続は無く、多様な予測変数を用いても予測可能性は低い)。高く伸びた企業もあるがそれらは比較的まれな例、専門家の成長予測は過度に楽観的で予測力をほとんど加えない、とも。読めたのは抄録までで、期間も社数も印字されていません。

では、伸び率を掛ける相手——出発点の利益はどうか。有名なのは、会計の利益はほぼランダムウォークだ、という言い方です〔次の値が前の値の近くにあり、動きは読めない、という見方〕。出どころの1972年の論文に、この号は書誌の頁までしか到達していません。要旨もありません——この年代の雑誌は要旨を付けずに論文を載せていました。
広く引かれる一句も、二次の引用でしか読めていない。ある行政手続の提出書類が680頁として引く一文は——"...income can be characterized on average as a submartingale or some similar process."(利益は、平均すると、サブマルチンゲール、またはそれに類する過程として特徴づけられる)。
サブマルチンゲールはわずかに上へ漂う過程で、純粋なランダムウォークとは別物です。本文に到達していない以上、誤って伝えられているとも書けません。
012012年の論文は、通説を再検討した。読めたのは刊行前の版。2009年12月の作業論文版の本文全文までで、刊行版には到達していません。比べたのは、専門家の合意予測と、前の年の1株当たり利益をそのまま置く当て方です。標本は1983年から2007年までの25年。1年先の分析で740,070件の合意予測、69,483の企業年〔1社の1年ぶん〕、10,140社。11か月前の比較は60,289企業年で、別の分母です。会社は平均8年・中央値4年と若く、追うアナリストは7.6人・中央値5人。過去10年ぶんの利益を要するモデルにすると観測の70%が消える、とも。
021995年の論文は、66,100件を実績と比べた。抄録までである。合意予測は、実際の報告済み利益と有意に異なると示される。受け入れ可能な範囲に収まる見積りは少数派、誤差率は景気循環や業種では意味のあるかたちで変わらない、平均誤差は時とともに増加しているように見える——「見える」までが、抄録の書き方です。締めは、精密に目盛りを刻んだ利益予測の使用への疑問。
032019年の論文は、単一の会社の事例研究。抄録までである。材料は、売上予測の精度の監視を始めた一つの製造業の企業についての事例研究です。予測精度の指標を成果管理に使うことについて、面談・会議の観察・文書資料から挙がったのは、統制可能性の限られていることへの懸念と、目標整合性の懸念の二つ。効果ではなく、懸念のほうです。

一つの予測が当たらないなら筋書きを並べればよい、とも。シナリオ分析・決定木・シミュレーションを説く配布資料が1点あり、61頁の全文を読みました〔書き手と大学の名前は伏せました〕。査読された実証ではなく、道具の解説です。
面白いのは、道具を説く側が同じ資料で値切っていることです。最良と最悪の分析は一般にあまり情報を与えてくれない、と書き、問題の一つめには——"Garbage in, garbage out … simulations yield great-looking output, even when the inputs are random."(ゴミを入れれば、ゴミが出る。入力が出まかせでも、見栄えのよい出力は返る)。区切りも主観的で、4%と7%で切れば7.1%は高成長、6.9%は平均的な成長。共通する注意は、リスクを二重に数えないこと。
01「伸び率は、過去の実績から見積もれる」。言えるのは「予測を捨てよ」ではありません。予測は前提の掛け算で、そのいちばん大事な項——長期の伸び率——について抄録が述べたのは、偶然を超えた持続は無い、まででした。
02「単純な当て方のほうが正確だった」。結論は三段。一段目は通説の側——アナリストの予測が時系列モデルより優れているとする先行研究と矛盾しない。二段目が——"over longer horizons, analysts’ forecasts lose their relative superiority … even a simple random walk forecast performs as well"(長い期間では、アナリストの予測は相対的な優位を失う。単純なランダムウォーク予測でさえ同等に働く)。誤差を株価で割ると、同じ月は専門家が245ベーシスポイント正確〔1ベーシスポイント=0.01%ポイント。245は株価の2.45%ぶん〕、11か月前で25(約90%減)、21か月前で4、22・23か月前は逆転して6と11——経済的には取るに足りない、と著者自身が書きます。24か月前は70、35か月前はマイナス40。小さい会社では23か月前に株価の約1%、35か月前に約1.5%。1年先は変化の見込みが大きいときほど専門家が有利で、1か月前は26に対し600超。
03「筋書きを増やせば、確からしくなる」。増えるのは、前提の組み合わせの数です。楽観の筋書きは、楽観の伸び率・利益率・回転を掛けたもの、悲観はその逆——一本一本は、やはり前提の掛け算のままです。効果に最も近いのが、2019年の一社の事例研究でした。

全文まで読めたのは6点のうち2点。3点は抄録まで、1点は書誌の頁までで、読めていない部分は書きません。期間の印字は1983〜2007年の25年だけ、66,100件は別の論文の件数で、足し合わせられません。原典は国を書いていません。読めた範囲に、会社を無作為に割り付けた実験はありません。
2012年の論文は、予測の誤差だけでなく株式のリターンを従属変数にした回帰も含みます。著者自身の釘は——"does not imply that random walk forecasts would improve prediction models of firm value, the cost of capital, or stock returns."(ランダムウォーク予測が企業価値・資本コスト・株式リターンの予測モデルを改善することを意味しない)。買う・売るの合図に読み替えないでください。
アナリストの予測を市場の期待の代わりに用いる研究の結果を、我々の結果が否定するものではない。
通説を揺らした側の論文の、結びにそう書かれています。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の予測の前提を書き写したとき何が起きるかを、この6点は確かめていません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日目にした「将来こうなる」という数字を1つだけ選ぶ。勤め先の計画でも、報道の見通しでも、自分の家計でも。
- 02WRITE
分かる範囲で三つ書き写す。(1)中核の前提は何%か、(2)どこまで先か、(3)過去に当たったかの記載があるか。分からない項目には「不明」と。
- 03COUNT
書けなかった項目がいくつ残ったかを1行書く。判定も、良し悪しも付けません。
年代順に。1972年は書誌の頁まで、二次で読めた一句がサブマルチンゲール。利益はランダムウォークに従うという合意は1970年代の終わりまでにほぼ決着、と1993年の総説を2009年の作業論文版が引く。1995年に66,100件の比較、2003年に持続は偶然を超えないという抄録、2012年に刊行された論文が向きの入れ替わり、2019年の一社の事例研究が二つの懸念。
確かめられたのは三つ。2003年の抄録の「持続は無い」。短い期間では専門家、長い期間では前の年のまま、という入れ替わり。そして、道具を説く配布資料自身の値切り。未来が見えると言う数字ほど、どれだけ外れてきたかを併せて示していない——というのが、この号の読み筋です。今日残るのは、予測が1つと、三つの記述と、書けなかった項目の数。記録が1件です。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS財務予測・シナリオ設計力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

