IN FINANCE · ISSUE 257
● 12 SEC売上の話は、たいてい景気のいい数字から始まります。この号が見るのは、その「目安」がどこから来たのか、です。並べるのは6件——査読誌の論文3本、基準の公式ページ1件、査読を経ていない実務の資料2件。固有名は〔…〕で伏せます。
広く引かれる成長の早見の出どころは、2015年2月1日に技術系のオンラインメディアへ載った署名記事です。書き手は、編集部注記によればある投資会社のパートナー〔媒体名・人名・社名を伏せました〕。査読誌ではありません。"a mantra I call ‘triple, triple, double, double, double,’ (T2D3 for short), referring to a company’s annualized revenue growth."(私が「三倍、三倍、二倍、二倍、二倍」(略してT2D3)と呼んでいる合言葉。会社の年換算した収益の伸びのこと)。測定ではなく、一人が経験から名づけた呼び名です。
次の文が但し書きです——"This is not the only growth path to SaaS success, as enterprises like 〔…〕 have shown, but it is one sure-fire way to get there."(唯一の成長経路ではない。〔…〕のような企業が示したとおりだ。しかし、そこへ至る確実な一つの道ではある)〔企業名3社〕。値切りと肯定が、同じ一文に並びます。片側だけは運びません。
記事は七つの段を並べます。製品と市場の適合。年間経常収益で200万ドル。600万・1,800万ドルへ三倍、3,600万・7,200万・1億4,400万ドルへ二倍。「年間経常収益(annual recurring revenue)」の語がこの記事に出るのは、二つめの段の括弧の中だけです。段の中身は営業の体制で、5人から10人の担当者、もう一層の管理職——書き手の経験です。
もう一つの出どころは、SaaS企業へ長期の融資枠を出す会社の14回目の年次調査。1,000社超の非公開のB2B SaaS企業の回答です。2024年の成長率で、全社の中央値は25%〔小さい順に並べた真ん中の値〕、2023年の集団は30%。横ばいか減少は6.9%(前年は5.3%、2020年の山は13%)。外部の出資なしは23%(2023年は25%)、出資ありは25%(同30%)——別々の集団の値で、足し合わせません。
同じ資料の"Growth rate is positively and exponentially correlated with net revenue retention."(成長率は純収益維持率と正に、指数関数的に相関している)。次の文は、帯を90〜100%から100〜110%へ上げると成長率は5パーセントポイント改善する、です〔相関は、一方が大きいときもう一方も大きい関係。パーセントポイントは割合の差の単位〕。同じ段落で、関連の言い方と効果の言い方が入れ替わります。維持率が最も高い会社群は中央値より83%高い、とも。自己申告であって実験ではなく、「上げれば伸びる」の側では運びません。

ここまでが、査読を経ていない側の2件。査読の側は、収益や比率を何として扱っていたのか。「測られた真実」としてではありません。
012001年の論文は、比率を予測の部品として位置づけた。要旨は、財務諸表分析を将来のプロフォーマ分析の問題として提示し、予測された比率を、成果の予測を組み立てる部品として位置づけます。典型値は1963年から1999年、米国の二つの取引所に上場する企業の37年分——予測のための目安であって、合否の線ではありません。
022002年の論文は、見積り誤差が大きいほど質が下がると論じた。売上には、まだ現金でない発生項目〔先に、あるいは後に帳簿へ載る部分〕が混じります。抄録は"the quality of accruals and earnings is decreasing in the magnitude of estimation error in accruals"(発生項目と利益の質は、見積り誤差の大きさが増すほど低下する)と論じ、最終文で、その指標が利益の持続性と正の関係にあると示した、まで。
032010年の論文は、模擬と実企業を別々に報告した。抄録は"revenue models are less biased, better specified, and more powerful than commonly used accrual models"(収益のモデルは、広く使われる発生高のモデルより偏りが小さく、より適切に特定され、検出力が高い)。模擬の手続きで言えたのは、収益と費用の操作の組み合わせを検知しやすい、まで。米国の証券取引委員会の執行対象企業の標本では、収益のモデルは検知し、発生高のモデルは検知しない。社数も期間も、抄録にはありません。

その前に、基準の側です。2014年5月に公表、米国の体系へのTopic 606の導入と同時、2015年9月に強制適用日が2018年1月1日へ延期。中身は五つの段——契約の特定、履行義務の特定、取引価格の決定、独立販売価格の比での配分、義務が充足された時点での収益の認識。
履行義務は、一時点でも、期間にわたっても充足されます。同じ入金でも、どちらの取り方かで、収益になる時点が変わります。変動する対価は、企業が自ら見積ります。読んだのは基準を設ける団体の公式ページの全文で、条文の全文には到達していません。
01「年間経常収益は、成長の真実だ」——読んだ頁に、その語は無い。読んだ基準の公式ページの全文で、経常収益(recurring)も、年換算・月次の略語も0件、subscription(継続課金)が2件です。条文全文には到達していないので、「基準に無い」ではなく、読んだ頁の範囲には無い、と書きます。間違った言い方だ、という意味ではありません。
02「健全な成長率の目安がある」——合言葉と、自己申告です。一つめは署名記事の中の合言葉で、原典自身が同じ一文で、唯一の成長経路ではない、と書いています。二つめは1,000社超・14回目の年次調査の自己申告。2024年の成長率の中央値は全体で25%、外部の出資なし23%、出資あり25%——どちらの集団を見るかで、別の数字です。
03「伸びていれば、質は問わなくてよい」——2本は抄録までです。2002年が論じたのは、見積り誤差が増すほど質は下がる、まで。「翌期に元へ戻る」とは書かれていません。どちらの論文も、無作為に割り付けた実験ではありません——2本とも抄録までで、その範囲に記述がなく、全文まで読めた2001年にもありません。

全文まで読めたのは6点のうち4点。読めていないものについては書きません。査読誌の3本では2001年の1本(刊行版46頁)だけで、2002年と2010年は抄録まで。この2本の標本の大きさも期間も書いていません。
測られているのは、米国の規制当局の執行対象になった企業、1963年から1999年の米国の上場企業、非公開のB2B SaaS企業、一人の投資家の経験。2002年の抄録に標本の記述はありません。水準は企業で、あなたの家計ではありません。
これは、銘柄選びの話ではありません。6件のどれも、株価も株式のリターンも時価総額も測っていません。買う・売るの合図に読み替えないでください。「成長率を上げよ」型の助言もありません。6件に著者の重なりはありませんが、2001年の二人は別の主題でも繰り返し引かれます。
これは唯一の成長経路ではない。しかしこれは、そこへ至る確実な一つの道ではある。
早見のもとになった記事には、同じ一文の中にそう書かれています。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の数字の作られ方を書き写したとき何が起きるかを、6件は確かめていません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
紙かメモアプリを開き、**いま目にしている売上か収益の数字を1つだけ**選ぶ。会社に属していなければ、家計や副業でくり返し入るお金を1件で足ります。
- 02WRITE
**分かる範囲で三つ書き写す**。(1)何が含まれているか、(2)いつの分か、(3)誰が作った表か。分からない項目には「不明」と書きます。
- 03COUNT
最後に、書けなかった項目がいくつ残ったかを1行書く。それで終わりです。
2001年に比率が予測の部品とされ、2002年に見積り誤差が増すほど質は下がると論じられ、2010年に収益のモデルが執行対象の標本で操作を検知したと報告されました。2014年に公表・2015年に延期・2018年から適用の基準が五つの段を定め、その2015年に一人の投資家が七つの段と合言葉を書き、2024年の成長率が翌年の調査にまとまります。
売上を語る言葉は、四半世紀で売上高から経常収益へ、維持率へと入れ替わりました。入れ替わっても、その数字が区切り方と見積りの産物であるという性質は残った——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、選んだ数字が1つと、三つの記述と、書けなかった項目の数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS収益設計・トップライン管理力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
