IN FINANCE · ISSUE 270
● 12 SEC「資本効率を上げよ。」——会議でも、決算の記事でも、一語で言われます。この号が見るのは、目指すべき水準ではなく、その比率の高さがどこから来ているか、です。何%あれば優良かは、書きません。
材料は7点。全文まで読めたのは、そのうち1点です。読めていないものについては書きません。その1点は、2001年に会計研究の査読誌へ出た論文(刊行版の版面46頁)。標本は、米国会計基準を用いる上場企業の1963年から1999年までの37年ぶんで、存続しなかった企業も含む、と原典自身が書いています。
示されたのは、株主の元手に対する利益率(ROE)を、二つの部分の足し算として書ける形です。版面の式(4)——"Rearranging terms, ROCE = RNOA + [FLEV × SPREAD]"(項を並べ替えると)。データから見つけた関係ではなく、会計の等式(3)と関係(2)から項を動かした書き換えです。
第1項は営業の側の収益性、第2項が財務レバレッジの効果です。定義は、FLEV=正味の金融債務÷株主の持ち分、SPREAD=営業の側の収益性−正味の借入費用。第2項は、その二つの掛け算です。
ここで近道が折れます。「借りて自己資本を薄くすれば上がる」——上がるのは、差が正のときだけ。"As the effect of leverage (favorable or unfavorable) depends on the sign of the SPREAD…"(てこの効果が有利になるか不利になるかは、スプレッドの符号によって決まる)。
1963年から1999年の全企業・全年をまとめた分布で、中央値〔小さい順に並べたとき、真ん中に来る値〕のROCEは12.2%、RNOAは10.0%。正のてこと正のスプレッドが組み合わさって前者を押し上げている、と原典は書きます。ただし"…positive at the median but negative for about 30% of firm-year observations."(中央値では正だが、企業と年の組み合わせの約30%では負)。

借りている度合いも測り方で動き、同じ標本の中央値は、この論文の測り方で0.40、伝統的な負債資本倍率では1.19。約20%の企業では負でした(約30%は企業と年、約20%は会社の割合)。度合いと差の関係は——"The relationship is, surprisingly, negative. The Spearman rank correlation between FLEV and SPREAD is −0.38, and between FLEV and RNOA is −0.42."(意外にも、負である。順位相関〔順位どうしの一致度を −1から+1で表した数字〕は −0.38 と −0.42)。借りている会社ほど、差は小さい側でした。
分子の側にも、仕立て直しがあります。会計の利益から資本のコストを引いて残る額を測る指標が、1990年代に名前を持って広まりました。その名前には、登録商標の印が添えられていました。
012001年の論文は、高さを、営業の分と借りた分に分けた。式(4)は、実証で見つけた関係ではなく、会計の等式からの書き換えです。だから、どの会社でも成り立ちます。成り立つことと、高さの原因がわかることは、別。原典は、営業と財務を分けるには開示が足りない場合がある、とも。
021997年の要旨は支持しない側。2004年には、見直しの論文が出ている。要旨は4文で、読めたのはそこまで。4文目——"…do not support claims that 〔…〕 dominates earnings in relative information content, and suggest rather that earnings generally outperforms 〔…〕."(〔…〕が利益を凌駕するという主張を支持せず、むしろ利益のほうが上回ることを示唆する)。伏せたのは登録商標名です。2004年の見直しの論文は査読誌ではない実務誌で、要旨は載らず、到達は書誌まで。
032008年の要旨は、分解の成分を「使える情報」と結んでいる。営業の側を利益率と回転率へ分ける見方を調べた論文で、読めたのは要旨まで。成分は株式リターンや予測改訂と関連する使える情報だ、と結ばれます。ただし同じ要旨が、予測可能な予測誤差と異常リターンを見出し、処理は完全であるようには見えない、とも書いています。

残りを並べます。1982年の論文は要旨まで。現在価値はほとんどどんな利益の数値を割り引いても得られる、といった一般的な結果です。よく引かれる「市場価値=簿価+将来の残余利益の現在価値」という等式は、この要旨には印字されていません。
1991年の一般向けの実務書は査読誌ではなく、本文は貸出制限の内側。到達は書誌までで、中身は、否定の文脈でも書きません。同じ1997年のもう1本は、未到達です。複数の二次が一致して伝えるのは、566社を対象にし、単独の指標では株式リターンのばらつきの26%を超えて説明できたものは無く、より簡単な残余利益ベースの指標で代替できると論じた、という二次の範囲までです。
01「比率が高い会社は、それだけ元手をうまく使っている」式(4)は恒等式で、どの会社でも二つに分かれます。高いだけでは、営業が強いのか、持ち分が薄いのかは区別できません。ただし「借りて薄くすれば必ず上がる」も違います。上乗せは符号つきで、スプレッドは企業と年の約30%では負でした。
02「資本コストを引いた指標が効くことは、実証で確かめられている」1997年の要旨は支持しない側、2004年の実務誌の論文は擁護の側の見直しです。「実証は弱い」も「やはり効く」も、不正確になります。査読区分も、読めた範囲も違います。二次が伝える1995〜1999年・カナダの株式市場という再検証も、本文からの逐語ではありません。どちらが正しいかは、決まりません。
03「あの指標は、1990年代の新しい発明だ」確認できるのは、1997年の要旨で名前に登録商標の印が添えられ、その指標が残余利益や営業のキャッシュフローと並べて比較されていたこと。比較の相手は、すでに手元にありました。売り込んだ本にも、1982年の論文にも、中身では届いていません。名前と売り方だけが新しかった、とも断定できません。

全文まで読めたのは、7点のうち1点です。要旨まで3点、書誌まで2点、届かなかったのが1点。その1点の標本は上場企業の37年ぶんで、非上場の会社は入っていません。無作為な割り付けの実験は、全文まで読めた1点になく、要旨まで読めた3点の要旨の範囲にもありません。
これは、銘柄選びや売買の話ではありません。引いた研究のうち4点は、株式リターンや市場調整後・将来の異常リターンを扱います。それでも合図には渡しません。中央値も順位相関も、37年ぶんの分布の記述であって、これからの見通しではないからです。経営への助言でもありません。
中央値のROCEは12.2%、中央値のRNOAは10.0%。
同じ37年、同じ企業と年の分布についての、二つの中央値です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは財務データのなかの比率の分布で、今日の比率を書き写したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定はしません。点も付けません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日の日付を書き、今日目にした「率」を一つだけ書き出す。燃費でも達成率でも、分数の形のものなら成立します。
- 02SPLIT
分子に何が入るかを一語、分母に何が入るかを一語書く。**分からなければ「不明」と書いて、そこで止めます。**
- 03NOTE
その比率が上がるとしたら分子が増えるからか分母が減るからかを、1行だけ書く。**高いか低いかは書きません。**
年代順では、1982年に形式的な関係が枠組みへ集められ、1991年にその指標が実務書で世に出て、1997年に査読誌の論文が支持しないと報告し、同じ年のもう1本は未到達、2001年に分解が体系化され、2004年に見直しの論文が実務誌に出て、2008年に成分が使える情報だと報告されました。動かなかったのは、外に流れる標語のほうです。
確かめられたのは三つ。高さが、営業の分と借りた分に定義から分かれること。上乗せは符号つきで、スプレッドは中央値では正でも、企業と年の約30%では負だったこと。支持しないという要旨と、見直しの論文が、別の設定で並んでいること。一語で言われる比率は、たいてい内訳を見られていません——というのが、この号の読み筋です。残せるのは、比率の名前と、分子と、分母と、1行。記録が1件だけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS資本効率(ROE・ROIC)向上力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

