IN FINANCE · ISSUE 268
● 12 SEC「会社が危ないかどうかは、点数で分かる。」足元の目安は、1.8を割ると危ない、2.99を超えれば安全。この号が見るのは、その出どころに原典が何と書いてあるか。扱うのは1966年から2008年の6本。
出発点は1968年。判別分析〔数字を重みつきで足して一つの点数にし、二つの群を最もよく分ける重みを探す手法〕を破綻の予測に持ち込んだ論文です。
材料は66社。破綻側の33社は、1946年から1965年に旧・連邦破産法の第10章で破綻を申し立てた製造業。平均の資産規模640万ドル、幅は70万から2,590万ドル。非破綻側の33社は業種と規模で層をそろえた製造業で、100万から2,500万ドル。
式は五つの比率の足し算——運転資本÷総資産、内部留保÷総資産、支払利息および税を引く前の利益÷総資産、株式の時価総額÷負債総額の簿価、売上高÷総資産。四つめは、株式市場が付けた値段から作られます。
1年前は66社のうち63社(95%)——破綻側33社のうち31社(94%)、非破綻側33社のうち32社(97%)。2年前は破綻側32社のうち23社(72%)、非破綻側33社のうち31社(94%)、合計65社のうち54社(83%)。破綻側の分母だけが32。理由は書かれていません。"Nevertheless, 72 per cent correct assignment is evidence that bankruptcy can be predicted two years prior to the event."(72%の正しい割り当ては、破綻が2年前に予測できるという証拠である)。
同じ節で釘も。精度は先行期間が長くなるほど大幅に落ちる。そして"The latter bias is inherent in the process of reducing the original set of variables (twenty-two) to the best variable profile (five)."(後者の偏りは、変数22を最良の組み合わせ5へ絞る過程に内在する)。候補22から五つを選んだのは、この66社を見ながら。同じ66社を分け直した精度は、はじめから上に振れます。

あの二つの線。原典は、初期の標本で誤分類された会社を観察して、2.99超はすべて非破綻、1.81未満はすべて破綻だった、と書きます。続けて——"The area between 1.81 and 2.99 will be defined as the 'zone of ignorance' or 'gray area' because of the susceptibility to error classification."(その領域は、誤った分類が起きやすいことから「無知の領域」あるいは「灰色の領域」と定義される)。名前が付いているのは、境目ではなく挟まれた帯のほうです。
011968年の点数は、製造業66社の上で作られた。限界も原典が書きます——精度は先行期間が長くなるほど大幅に落ちる、22の候補から5つへ絞る過程に偏りが内在する、調べたのは市場の気配値まで取れる公開の製造業だけ。先行研究が単独で最良とした現金フロー÷負債の比率は、減価償却のデータが揃わず外した、と脚注に。
02五つのうち有意だったのは二つ——2001年の報告です。手法はハザード模型〔年ごとに観察を繰り返し、その年に破綻が起きる確率を推定する〕。標本はニューヨークとアメリカンの両証券取引所の会社(金融業は除外)、1962年から1992年、3,182社・39,745社年・300件の破綻。"the only statistically significant variables are EBIT/TA and ME/TL"(有意なのはEBIT÷総資産とME÷総負債だけ)。残る三つが破綻と無関係だと示されたのではありません。市場由来の変数を組んだ模型は、順位を付けた112件(1984〜92年)の75.0%を毎年の上位10%に。市場の変数だけなら142件の69.0%です。
032008年が報告したのは、精度ではなくリターンだった。全文まで読めたのは、発行元が公開した作業論文版。刊行版は公式の抄録までです。材料は米国の1963年から2003年、約800件の破綻・1,600件の失敗・170万社月。手法は動的ロジット。系譜も自ら書きます——2001年の研究に従い、変数の幅と予測の射程で拡張した、と。「市場の情報を初めて加えた」とは書いていません。

本文まで読めたのは6本のうち3本。読めていない3本については書きません。識別子をたどっても返るのは自動アクセスの確認画面で、抄録の一文も印字されていません。よく引かれる1966年の二つの割合(1年前と5年前の的中率)も、原典の表で確かめていないので書きません。
書けるのは、読めた3本がこの3本をどう引いているか、まで。いま引いた脚注は1968年の論文の言葉であって、1966年の原典の言葉ではありません。2008年の論文は、1968年と1980年の点数が広く受け入れられた尺度だ、と書きます。2001年の論文は、1996年の刊行版に二つの誤植がある、と注記。読めたのは、そこまで。
01「1.8を割ると危ない、2.99を超えれば安全」——名前が付いているのは帯のほう。境目ではなく、判定を誤った会社が並んでいた範囲です。しかも線は、式を作ったのと同じ66社の上で読み取られました。母集団は株式を公開した製造業で、原典は国を書いていません。
02「会計の式に、市場の情報があとから加わった」——二か所で崩れます。一つめ。持ち込んだのは2001年の論文自身です——"market size, past stock returns, and idiosyncratic returns variability are all strongly related to bankruptcy"(市場規模、過去の株式リターン、固有のリターンのばらつきは、いずれも破綻と強く関係している)。同じ要旨が、両方を使う模型を提案します。二つめ。1968年の式の四つめは株式の時価総額÷負債総額の簿価。市場の値段は最初から式の中にあります。なお2001年は、標本が無作為に選ばれておらず、t統計量は偏っている、とも断ります。
03「危ない会社が分かるなら、株で得ができる」——向きが逆です。"Since 1981, financially distressed stocks have delivered anomalously low returns."(1981年以降、財政的に困窮した株式は、異常に低いリターンをもたらしてきた)。調べたのは1981〜2003年。市場に対する年率の超過リターン〔市場全体の動きを引いた残り〕の平均は、危険度が最も低い5%でプラス3.4%、最も高い1%でマイナス17.0%。23年間の平均で、1年の実績ではありません。著者たちは、バリュー効果と規模効果が困窮リスクの対価だという推測とは整合しない、と結びます。危険度で並べた持ち高の成績は書きません。

材料はどれも、株式が市場で取引されている会社——製造業66社、取引所の3,182社、米国の170万社月。小さい商い、非上場、非営利、行政、家業は入りません。水準も企業で、家計ではありません。日本の会社もありません。会社を無作為に割り付けた実験は、読めた3本のどれにもありません。残る3本は読めていないので、何も言いません。
これは、銘柄選びの話ではありません。三本とも、株式市場が付けた値段の入った指標です。買う・売るの合図に読み替えないでください。勤め先や取引先を、この号の数字で判定しないでください。
1.81から2.99のあいだを、原典は「無知の領域」と呼びました。
安全と危険を分ける線ではなく、判定を誤った会社が並んでいた帯です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。点数の出どころを書き写して何が起きるかを測った研究は、ありません。判定はしません。採点もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日の日付と、この1週間で目にした「危ない・健全だ」を示すとされる数字を一つ書き写す。会社の外なら、暮らしの健全さの目安でも。良し悪しは書きません。
- 02TRACE
「いつ・どこの・誰を材料に」作られたのかを、たどれる範囲で書く。年・国・業種・何社ぶんか。分からない項目には「分からなかった」と。
- 03NOTE
最後に一語。利益で見ているのか、現金か、市場が付けた値段か。判別がつかなければ「不明」。残るのは、日付と点数と1行と、この一語です。
年代順に——1966年に比率を一つずつ試す研究、1968年に五つの比率をまとめる判別式、1980年に確率そのものを出す手法、1996年にその当て直し、2001年にハザード模型と市場由来の変数、2008年に困窮した株式のリターンの低さ。独立した四つの検証ではなく、同じ系譜の重ね書きです。時代と母集団が別なのは1968年の66社だけ。
確かめられたのは四つ。点数式は66社の上で作られ、1年前は63社、2年前は54社が分けられたこと。原典自身が「精度は大幅に落ちる」「22から5へ絞る偏り」と断ったこと。1.81と2.99の帯に名前が付き、線は同じ66社の上で読まれたこと。2001年は有意が二つ、2008年は低いリターンだったこと。警報を鳴らすことではなく、警報器がいつ・どの66社の上で作られたのかを見る——というのが、この号の読み筋です。残るのは、点数一つと、分かったこと・分からなかったこと。記録が1件。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS財務リスク検知・早期警戒力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

