IN FINANCE · ISSUE 267
● 12 SEC「早く回収して、在庫を薄くして、支払いは遅らせる。そうすれば会社は強くなる。」この号が見るのは、どう回すべきかではなく、その言い方の裏づけとして挙がる論文に何が書いてあるか、のほうです。
開けたのは五本のうち三本の要旨まで。残る二本は本文にも要旨にも行き着けませんでした。出発点は2003年の論文。ベルギーの非金融の大企業1,009社を1992年から1996年まで調べ、売上債権・買掛金・棚卸資産の日数と、それを束ねたキャッシュ・コンバージョン・サイクルで測った、と要旨は書きます。
結果の一文は——"The results suggest that managers can increase corporate profitablity by reducing the number of days accounts receivable and inventories."(売上債権と在庫の日数を減らすことで、経営者は収益性を高めうる、と結果は示唆する)。ところが、同じ要旨の次の一文は逆を向いていました。
"Less profitable firms wait longer to pay their bills."(収益性の低い企業ほど、支払いを長く待つ)。二つの文は、同じ関係の裏表ではありません。一文目が触れているのは売上債権と在庫の日数、二文目が触れているのは支払いのほう。動いているのは、説明する側とされる側の向きです。(`profitablity`・`comprehensice` は原文のつづりのままです。)
その向きを決めにいったのが2007年の論文です。"The results, which are robust to the presence of endogeneity, demonstrate that managers can create value by reducing their inventories and the number of days for which their accounts are outstanding."(結果は内生性の存在に対して頑健であり、経営者が在庫と、売掛が未回収のままの日数を減らすことで価値を作りうることを示す)。内生性〔原因と結果が絡み合って、どちらの向きかを切り分けられなくなる問題〕。狙いは、見出された関係が周期から収益性への効果によるもので、その逆ではないと確かめること。因果への留保ではなく、逆向きではないことの確認です。

書けるのは、著者らがそう書いた、というところまでで、本文の限界の節は読めていません。そしてその著者二人の名前が、七年後の論文にも並び、そこでは関係の形が変わっていました。
012003年の二文は、同じ脚について書かれていない。1,009はベルギーの非金融の大企業の数、1992〜1996年は観察された期間です。会社ごとの値ではありません。読めたのは、書誌データベースの索引から復元された抄録までです。
022007年の検定は、留保ではなく確認の側にある。標本はスペインの中小企業8,872社、1996年から2002年、パネルデータ〔同じ相手を複数の年にわたって並べたデータ〕。それでもこの号は、要旨がそう書いている、というところまでしか書きません。
032014年の逆U字。ただし軸は日数ではなく、投資の水準。英国の非金融企業について——"an inverted U-shaped relation between investment in working capital and firm performance"(運転資本への投資と業績とのあいだの逆U字の関係)。逆U字〔真ん中が高く両端が低い形〕。最適な水準があり、それは資金の制約を受けやすい企業ほど低い、と抄録は書きます。ただし標本の数も期間も印字されていません。

読めなかった二本を先に並べます。一つ目は1998年の論文で、本文も要旨も到達できていません。ここから先は、この論文を引く後続の論文が一致して伝える言い換えです——決算データベースに載る企業の5万8,985社・年(1975〜1994年)について、周期と、収益性およびリスク調整後の株式リターンとの強い負の相関。その関係が市場での交渉力から来る可能性も、著者ら自身が挙げていると伝えられます。5万8,985は会社の数ではなく、会社と年の組み合わせの数です。
二つ目は1968年、財務比率分析の学史の論文。流動比率2:1・当座比率1:1という目安の由来として挙げられますが、これにも到達できていません。読めたのは、流動比率が1800年代の終わりに現れた初期の重要な指標だった、という二次の言い換えまでです。
01「短くすれば強くなる」——同じ要旨に、逆向きの一文が並ぶ。並んでいるのは、説明する側の置き方が違う三つの文です。この号は、どちらの向きも正しい向きとしては採りません。要旨まで読めた三本の範囲に、会社を無作為に割り付けた記述はありません。残る二本は読めていないので、五本すべてについては言えません。
02「短ければ短いほどよい」——七年後の山。ただし軸が違う。2007年の著者二人が、そのまま2014年の論文の第2・第3著者です。独立した二つの検証ではありません。ただし前言の撤回とも書けません。2007年が減らせと書いたのは日数、2014年が山を描いたのは投資の水準だからです。抄録の "The results suggest that managers should avoid negative effects on firm performance"(経営者は業績への負の影響を避けるべきだと示唆する)も、著者らの語です。
03「2:1が健全の基準」——その由来には、行き着けなかった。1年以内に現金化できる資産が、1年以内に払う負債の2倍あれば健全——流動比率2:1、当座比率1:1という言い方です。由来として挙げられる1968年の論文に、この号は行き着けませんでした。だから、2:1が経験則だとも実証された値だとも書きません。

要旨まで読めたのは五本のうち三本で、二本は本文にも要旨にも行き着けませんでした。届いた出どころも一様ではありません——出版社の版面(の保存版)は2007年の一本だけ、2003年は書誌データベースの索引からの復元、2014年は書誌ミラーの抄録です。原典と全文で照合できた出典は、一つもありません。推定の方法も係数も書いていません。
材料はベルギーの大企業、スペインの中小企業、英国の非金融企業、そして(二次の言い換えでは)決算データベースに載る企業。水準は会社で、そこで働く人ひとりの手元の現金ではありません。国も規模も軸も違い、足し合わせられません。これは、銘柄選びの話でも、経営の指南でもありません。日数を何日にすべきかは、この五本のどれも答えていません。
売上債権と在庫の日数を減らせば収益性を高めうる、と要旨は書く。
その次の一文は、収益性の低い企業ほど支払いを長く待つ、と書く。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の目安の出どころを1行書いたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。直しません。計算し直しません。良し悪しも付けません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
**自分の持ち場でよく使われている財務の目安を1つだけ**選ぶ(流動比率2:1、売掛の回収日数、在庫の日数など)。他人の会社の数字は見ません。
- 02TRACE
その出どころを、手元の資料と公開されている情報で辿れるところまで辿る。止めたところで「測って決めた値」「昔からそう言われている値」「辿れず」の1語を書く。**「辿れず」は失敗ではありません。**
- 03NOTE
その目安がふだん「結びつきの話」として言われているか、「効き目の話」として言われているかを1行書く。どちらとも言えなければ、そう書いて終わり。
年代順に並べると、1968年に学史が書かれ(読めていません)、1998年に大標本で負の相関が報告され(これも読めていません)、2003年に同じ要旨の中で説明する側とされる側が二度置き換わり、2007年に内生性に頑健で逆向きではないと確かめたと書かれ、2014年に逆U字で最適は一つでないと報告された。重なっていたのは、2007年の著者二人の名前です。
確かめられたのは四つ。2003年の二文が同じ脚について書かれていなかったこと。2007年の検定が逆向きではないことの確認として置かれていたこと。2014年の抄録が標本の数も期間も印字していなかったこと。二本には行き着けなかったこと。但し書きは、標語が外へ出るときに落ちます——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは判定ではなく、記録が1件、残るだけです。
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