IN FINANCE · ISSUE 266

(仮ビジュアル)石造りの建物の広い階段を、黒いロングコートに白いワイドパンツの女性が、ひとりで下りている写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「黒字なら潰れない」とよく言います。では、黒字なのに市場から退出した会社は何割か。この号が探したのはその一つの数字で、見つかったのは一つではありませんでした。

9件の内訳は、民間の集計5件、国の機関の公開ページ1件、査読誌2本、実務資料1件。うち7件は、査読を経た研究ではありません。人名も企業名も伏せますが、発行主体(東京商工リサーチ、帝国データバンク、中小企業庁)は伏せません。

一つの報告の中で、黒字率が二通りに出ます。2021年3月30日公開、2020年に倒産した企業の財務の集計です。対象は負債総額1,000万円以上の倒産企業のうち3期連続で財務データがある340社、比較は生存企業31万7,765社。同年の企業倒産は7,773件。

その報告はこう書きます——「最新期の赤字企業率(当期純損失)は、倒産企業340社では53.2%(181社)と、過半数を占めた。」生存企業は23.3%(7万4,310社)で、差は29.9ポイント〔割合どうしの差の単位〕。340から181を引くと159社、46.76%。この引き算は、この号がしたものです——全文に「46.76」はありません。

同じ報告の別の箇所は、同じ340社の同じ最新期の営業黒字を50.0%(170社)と書きます。最終損益なら159社、営業損益なら170社。11社ちがう。「黒字」の意味を変えただけです。

年版を変えると別の報告です。2023年4月12日公開の2022年調査は383社と生存企業38万1,045社。赤字企業率62.9%(前期55.8%)、引くと黒字37.1%〔これもこの号の引き算〕。営業黒字113社(29.5%)、債務超過258社(67.3%)。340社と383社は別の年の別の集まりで、引き算できません。

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真
同じ340社、同じ最新期。最終損益で数えた黒字は159社、営業損益で数えた黒字は170社。 Visual: ALIFE

次に、母集団を取り替えます〔母集団=その割合が何の集まりについてのものか、という数えた範囲〕。倒産(法的整理、私的整理)以外で事業活動を停止した企業——休廃業・解散の調査です。損益は判明分、直前期は最大2年遡ります。

2024年1月15日公開の2023年の調査では、休廃業・解散が4万9,788件(前年比0.3%増)で調査開始以降の最多。同年の倒産は8,690件(同35.1%増)、合算した「退出企業」は5万8,478件。直前期の損益は黒字52.4%・赤字47.6%。母集団を移した瞬間、黒字は半分を超えます。

前年の同じ調査(2023年1月16日公開・4万9,625件・11.8%増)の本文は——「2022年は当期損益(最終利益)の黒字は54.9%だった。」同じ頁の見出しは、黒字率が過去最低の54%。見出しが、本文を丸めています。翌年版はそれぞれ2.5ポイント悪化したと書き、2022年の赤字率を45.1%とします。54.9−52.4も47.6−45.1も2.5、和はどちらも100.0。合うのは本文の54.9%で、見出しから取ると0.9ポイント変わります。

01倒産した企業の財務の集計は、年版ごとに別の報告として公開されている。民間の調査会社の集計で、査読誌ではありません。どちらの年版も、3期連続で財務データがある企業に限られます。2020年は倒産7,773件のうちの340社、2022年は383社。決算が追えない会社は入っていません。

02休廃業・解散の調査は、倒産とは別の母集団を、別の定義で数えている。同じ調査会社の別の調査です。直前期の黒字率は2023年52.4%(赤字47.6%)、2022年は本文で54.9%——どちらも半分超。60%を割ったのは2021年(56.5%)が最初でした。

03件数の集計は、数える主体が分かれている。国の機関の公開ページは、自らを民間の調査結果の取りまとめだと書いている。もう一系統の民間集計は、2026年1月13日公開の2025年年報。倒産件数1万261件(前年9901件、3.6%増)、負債総額1兆5668億8800万円(29.4%減)。何を倒産と数えるかの基準は、この頁にありません。二社を並べてもいません——2023年の8,690件と2025年の1万261件では年が違います。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
倒産した企業の財務・休廃業と解散の動向・件数の集計と国の取りまとめ。まず読めたのは、この三系統。 Visual: ALIFE

査読誌の2本は抄録まで。1本は失敗を数える営みの歴史で、2013年に Business History 55巻7号へ。19世紀の米英で失敗が道徳ではなく財務の事柄と定義され、1840年代以降に信用格付け機関が生まれ、20世紀初頭から予測の計算のインフラが立つ、という三段階です。

もう1本は現金を厚く持つこと。2009年に The Journal of Finance 64巻5号へ出た論文の刊行版の抄録は、米国の工業企業(原典の語は industrial firms。「上場企業」ではない)の現金対資産比率の平均が、1980年から2006年に倍以上になったと書きます。そして最終文が"While the precautionary motive for cash holdings plays an important role in explaining the increase in cash ratios, we find no consistent evidence that agency conflicts contribute to the increase."(予備的動機は重要な役割を果たすが、代理人問題が寄与している一貫した証拠は無い)。

01「黒字倒産は何%」——読んだ範囲に、その一つの数字はなかった。あったのは、四つの調査、四つの母集団、二通りの黒字の定義です。同じ340社でも、最終損益なら46.76%、営業損益なら50.0%。一つの数字を求めると、数えた範囲の注記が落ちます。

02「倒産の9割は資金ショート」——四つ当たったが、出どころに行き着けなかった。当たったのは、①東京商工リサーチ(読めたのは黒字率・赤字率・債務超過比率まで)、②帝国データバンク、③中小企業庁の公開ページ、④査読誌の2本。存在しない、とは書きません。日本語の論文データベースは網羅的にあたっておらず、国の機関の月次の原因別統計表も開けていないからです。

03「残り何ヶ月なら安全」——読んだ実務資料に、ランウェイという語は一度も出てこない。ある投資会社が公開している、指標を16個並べた資料です〔会社名は伏せました〕。本文25,026字に「runway」は0件。あるのは12番目の「バーンレート」——現金が減る速さと、ネット/グロスの区別まで。「手元の現金÷月次のネットバーン=残り月数」という式はありません。直後の一文は"monthly burn may not be a constant number."(月々のバーンは、一定の数ではないかもしれない)。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
読んだ範囲に一つの数字はなかった・四つ当たって行き着けなかった・その資料にその語は一度も無かった。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

本文まで読めたのは9点のうち7点。読めていないものについては書きません。開けていないのは、国の機関の月次統計表(原因別を含む)と、もう一系統の集計のPDF。集計はどれも、退出したあとのデータ。日本の会社を対象にした査読研究はありません。

いちばん大事な限界は、重なりです。9件のうち4件は同じ一社(東京商工リサーチ)の集計で、国の機関の公開ページもその取りまとめだと自ら書きます。5件が、同じ一社に行き着きます。独立した別系統は1件だけ。銘柄選びでも、資金繰りの処方でもありません。株価もリターンも時価総額も測っていません。

「中小企業庁では、中小企業の倒産状況を把握することを目的に、株式会社東京商工リサーチの調査結果を取りまとめ、『倒産の状況』としてホームページで公開しています。」
国の機関の公開ページに、そう書かれています。

だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。出どころを辿ると何が起きるかを、9件のどれも確かめていません。直しません。判定しません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日か今週、目にした割合を1つだけ選ぶ(「◯割が」「◯%の会社が」の形。会社の数字でなくても)。

  2. 02TRACE

    **出どころを、辿れるところまで辿る。**一段ごとに「何を開いたか」を1行ずつ書き写す。行き止まりで止めてよい。

  3. 03COUNT

    最後に二つだけ書く。何段さかのぼれたか(0段でも)、いちばん奥にあったのは何か。以上です。

10分。判定ではありません。辿れなくても、間違いの証明にはなりません。**誰にも送らず、提出もしません。**勤め先や取引先の数字を調べる課題でもありません。**資金繰りや売り買いの判断に使えるものでもありません。**お金のことで眠れない場合は、この課題より先に信頼できる相談先へ。

年代順に。19世紀の米英で失敗が財務の事柄と定義され、1840年代以降に信用格付けの機関が、20世紀初頭から予測の計算のインフラが立ち上がりました。1980年から2006年にかけて、米国の工業企業の現金対資産比率の平均は倍以上に。集計は年版ごとに別のページで公開され、国の機関は毎月15日頃に公表。

確かめられたのは四つ。同じ340社の同じ期に黒字が二通り(159社と170社)あったこと。母集団を休廃業・解散へ移すと黒字が半分を超え、見出しが本文を丸めたこと。国の機関の公開ページが自らを民間の取りまとめだと書いたこと。実務資料に「ランウェイ」が無かったこと。残せるのは、記録が1件です。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。