IN FINANCE · ISSUE 265

(仮ビジュアル)暗い室内で黒い壁ぎわに立ち、隣の窓ガラスに自分の後ろ姿が映りこんでいる、黒いニットの女性。窓の外は夕暮れの空● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「利益が出ていれば、大丈夫。」そのとき見ているのは、損益計算書の一行です。この号が扱うのは一点——帳簿の利益と、実際に動いた現金が、どこまで別のものだと確かめられているか。現金の増やし方は書きません。

出発点は1980年、ある会社の破綻を現金の流れから読み直した事例研究です。会社の名前は書きません。読めたのは発行元の公式アーカイブに載る紹介の要約までで、4頁の本文ではありません。

要約が印字しているのは五つ。現金の流れの分析なら崩壊のおよそ10年前に迫る破滅を明らかにしていたはず。従来の比率分析で問題が見えるのは1970年から1971年になってから。その10年、会社は内部で現金を生まなかった。1973年まで運転資本〔短期の資産から短期の負債を引いた差〕はプラスなのに、営業活動は現金の出し手ではなく使い手だった。投資家はなお楽観的で、1973年の株価を利益の「約20倍」で評価していた。読めたのは、この五つだけです。

外から見える数字は、悪くありません。それでも同じ十年、本業は現金を使う側でした。書き足したくなるのは「損益計算書には利益が計上され続けていた」の一文です。到達した要約に、その一文はありません。「利益の約20倍」は1973年の利益が正でなければ成り立ちませんが、十年ぶんには広げません。この号は、「十年ずっと黒字だった」とは書きません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
1973年まで運転資本はプラス、株価は利益の約20倍。同じ十年、本業は現金の使い手でした。 Visual: ALIFE

では、一社だけの話でしょうか。鍵は発生高〔取引が起きたとされる時点で記録するために足し引きされる見積りの部分〕と、持続の係数〔今期の利益が翌期にどれだけ残るかの数字。1に近いほど残り、0に近いほど消えます〕です。

011996年の論文は、翌期の利益を予測する回帰の係数を、発生高0.765・現金0.855と測った。本文の全文まで読めた一本。二つの取引所の71,732社年(1962年から1991年)から、発生高が計算できない年・株価の記録が足りない年・翌期の利益が無い年を順に落として53,322、42,120、最終の40,679社年〔会社×年の数〕。銀行と生損保は元データに無く、入りません。利益は純利益ではなく減価償却後の営業利益。等しいという仮説はF検定で棄却され(F=614.01)、86%の業種で発生高の側が小さい〔業種の割合〕。

021994年の論文は、業績の物差しを株式リターンに映るかぎりでのものと明記した。読めたのは抄録の四文だけ。発生高の重要性は、(i)測定期間が短いほど、(ii)運転資本の必要額および投資・財務活動の変動が大きいほど、(iii)営業サイクルが長いほど増すと仮説が立てられ、現金フローはタイミングとマッチングの問題をより深刻に被ると予測される。物差しは "as reflected in stock returns"(株式リターンに映るかぎりでの業績)。抄録に標本の記述は1文字もありません。

031998年の論文は、現在の利益のほうが将来の営業キャッシュフローをよく予測すると報告した。読めたのは抄録まで。売上がランダムウォークに従い、発生高は売掛金・買掛金・棚卸資産だけ、と仮定した模型の含意です。比べられた相手は現在の営業キャッシュフロー。検定は1,337社・1963年から1992年、結果は「おおむね整合的」。抄録に国名は無いので、国も書きません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
0.765対0.855の持続の係数・株式リターンに映る業績・1,337社の予測。まず数えられたのは、この3本。 Visual: ALIFE

その前に、二つ。一つは「自由に使える現金」。ある大学の教員が公開している評価の教材が、定義は一つでないと名指しで書いています——"There are two ways of measuring the free cashflow to the firm (FCFF)."(企業に向けたフリーキャッシュフローには、測り方が二通りある)。教育・実務の資料で、査読された研究ではありません。

もう一つは、現金の計算書そのもの。基準を作る団体の公式ページには、期中のキャッシュフローを営業活動・投資活動・財務活動に区分すること、営業活動は直接法か間接法で報告することが印字されています。基準は定義であって、実証ではありません。2024年4月に、間接法の出発点と、利息および配当の分類について新しい要求を入れる改訂があり、適用は2027年1月1日以後に開始する年次報告期間から。条文そのものには到達していません。

01「利益が出ていれば、大丈夫」。外から見える数字は悪くないのに、本業からは現金が出てこなかった——公式の要約はそう書きます。ただし同じ要約に、十年ずっと黒字だったとは書かれていません。一社の事例で、無作為な割り付けはありません。

02「では、現金こそが真実で、利益は嘘だ」。行き過ぎる方向は、こちら側にもあります。1998年の論文は利益のほうがよく予測すると報告し、1994年の論文も、条件によっては現金の側が写しにくいと予測しました。片方だけでは、片側が抜けます。

03「自由に使える現金には、正しい式が一つある」。一つの数字を見たら、まず問うべきは、どの定義で、どの調整を通した数字なのか。株主に向けたものは純利益、企業全体に向けたものは税引後の営業利益から出発し、設備投資と減価償却の差、運転資本の増減、借入の扱いで、同じ会社の同じ期でも金額が動きます。「定義が一つではない」ことの提示にだけ使いました。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
黒字の継続は要約に無い・利益のほうがよく予測した・自由な現金は二通り。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

学術論文は四本あり、本文まで読めたのは1996年の一本だけです。読めていないものについては書きません。教材と基準の公式ページは全文まで読めましたが、査読された研究でも条文でもありません。標本は二つの取引所の会社(原典は国を書いていません)、水準は企業で、日本の会社は読めた範囲に一つもありません。

無作為な割り付けの実験は、全文まで読めた資料のどれにもなく、残る三本も抄録と要約の範囲に記述はありません。これは、買う・売るの話ではありません。1996年の論文の結論は "Stock prices do not appear to anticipate rationally the lower (higher) persistence"(株価は、その低い〈高い〉持続性を合理的に先取りしているようには見えない)。売買戦略の節の数字も、現金の増やし方も、書きません。

本業は、現金の出し手ではなく、使い手だった。
発行元の公式の要約に、そう印字されています。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは、決算の数字どうしの関係と、一社の十年の記録です。直しません。判定もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日の日付を書き、今月「利益」として目にした数字を一つだけ書き写す(会社でも、部門や案件でも、家計でも)。**他社の数字は見ません。**

  2. 02PAIR

    その下に、同じ月に実際に動いた現金を一つ書く——入金でも、支払いでも、残高の増減でも。分からなければ「不明」と書きます。

  3. 03NOTE

    最後に、二つが同じ方向に動いていたか、逆だったかを1行で。**同じ・逆・どちらとも言えない**の三つから選ぶだけ。原因は書きません。

10分。採点はありません。誰にも見せず、提出もしません。**勤め先や取引先の健全性を判定する課題ではなく、資金の出し入れや株式の売り買いの判断にも使えません。**苦しくなったら中止してください。お金のことで眠れないときは、信頼できる相談先へ。

年代順に並べると、1980年の一社の事例、1994年の三条件、1996年の0.765と0.855、1998年の1,337社。重なっていたのは、著者のほうでした。1994年と1998年は第一著者が同じ人物、1996年の論文はその1994年の論文を本文で引き、発生高と現金の負の関係について自分の表を照合しています。三本は、独立した三つの証拠ではありません。

確かめられたのは三つ。ある会社の十年、内部で現金は生まれず、それでも要約に「十年ずっと黒字」は無かったこと。1996年の「利益」が純利益ではなく減価償却後の営業利益だったこと。基準の公式ページの説明が、条文そのものには届いていないこと。いちばん作りにくいと言われる現金でさえ、区分の取り方は決められている。手つかずの数字はどこにもない——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。

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