IN FINANCE · ISSUE 261
● 12 SEC「あの会社は、資産の使い方がうまい。」足元にあるのは一つの比率——総資産利益率、利益を資産で割った数字です。この号が見るのは、その比率が何をどこまで測れていると確かめられているか、のほうです。
教科書はこれを利益率(利益÷売上)と回転率(売上÷資産)へ分けます。掛けると売上どうしが約分されて元へ戻る——発見ではなく、並べ替えです。書き換えれば必ずそうなる恒等式を、経営の説明のように読んでしまう。
そのうえで2001年、Review of Accounting Studies 6巻4号の論文が、この分け方が予測に役立つのかを測りました。ただし読めたのは抄録まで。標本の数も国も期間も、そこには印字されていません。
要旨は一文のなかで向きが二回変わります。水準を回転率と利益率へ分解しても、1年先の変化を予測する増分情報は得られない。しかし変化のほうを分解すると、1年先の予測に効く。流通する要約は、片方だけを切り取ります。増分が無いは「関係が無い」ではなく、足すものが無い、です。
同じ2001年、同じ雑誌の同じ第6巻の1号に、財務諸表分析を組み直した論文が載っています。比率は事実ではなく、ペイオフの予測を組み立てる部品。そのうえで総資産利益率を名指しで値切ります——"it confuses operating and financing activities"(営業と財務を混同する)。分母に金融資産を含み、営業負債を差し引かないからです。
分子も、当期純利益に税引後の支払利息と少数株主損益を足して総資産で割る式で、包括利益を無視しがちなうえ受取利息まで拾う。稼ぐ力を見ているつもりで、資金の借り方と余剰資金の運用まで測っている。営業負債を調整すると、企業・年のほぼ半分で差は3%を超えました。

効くのは変化のほうでした。それを営業だけに絞って調べた研究には、続きが付いています。
01水準を分けても増分は無い、変化を分ければ有用。同じ一文です。Review of Accounting Studies 6巻4号(371-385頁)。要旨は、広く知られているのに予測に役立てられる証拠は存在しない、から始まり、水準の分解に増分情報は無いと続き、変化の分解は有用だと終わります。「役に立つ」も「無意味」も、この一文の半分です。
02有用だと示したうえで、処理は完全ではない、と続ける。The Accounting Review 83巻3号(823-853頁)。抄録は三段です。株式リターンやアナリストの予測改訂との関連から、その情報は有用である。しかし"the information processing does not appear to be complete"(情報処理が完全であるようには見えない)。総合すると、増分のある使える情報である。
03五分位のいちばん上で年平均6.12%。ただし全体では同程度。読めたのは1999年7月の作業論文の版(7223番・46頁)で、刊行版には到達していません。米国の上場国内企業を1975年から1995年まで毎年4月末に五分位へ分け、時価に対する研究開発費の比率が最も高い組の超過リターン〔規模や割安さの分を引いた残り〕は、組成後で年平均6.12%。両端の差は7.83%、別の分け方では3年間で年平均2.45%。ただし"the average return on the two sets of stocks is comparable"(二つの銘柄群の平均リターンは同程度)。

その前に、分母の穴を一つ。資産には、中で作ったものが載りません。国際会計基準は、中で作り上げたのれんを識別可能な資源ではないとして認識しません。
効くのはこの一文です——"internally generated brands, mastheads, publishing titles, customer lists and similar items are not recognised as intangible assets"(内部で創出したブランドや顧客名簿などは、認識されない)。ただし片側だけではありません。研究支出は費用、要件を満たす開発支出は無形資産の原価として認識される。基準は定義であって、実証ではありません。
中で無形を厚く作った会社ほど、分母が実態より小さくなる。上の作業論文は、研究開発費が売上の1.70%(1975年)から3.75%(1995年)へ倍増し、1995年に資産に見立て直した価値は株主資本の帳簿価額のおよそ29%にあたる、と推計します(帳簿の数字ではありません)。元手のほうが、帳簿の外にある。
01「分ければ稼ぐ力の内訳が見える」——約分できる恒等式です。掛けると売上どうしが約分されて元へ戻る書き換えであって、「利益率を上げれば効率が上がる」という因果ではありません。水準の分解には1年先への増分情報がありませんでした。ただし同じ一文が、変化の分解は有用だと続けます。
02「使われているのだから、織り込み済みだ」——直後があります。2008年の論文は、情報は有用だと書きます。裏づけは、分解の構成要素と株式リターン・アナリストの予測改訂との関連。ここで止めると「織り込み済み」と読めます。原典は直後に、予測可能な将来の予測誤差と異常リターンを見出したと書きます。使われてはいるが、読み切られてはいない。
03「良い数字には目安がある」——原典は、自分の中央値を疑います。早見の数値は書きません。分子も分母も会計の決め方で動くからです。枠組みの論文は、米国のNYSEとAMEXの会社の1963年から1999年までの37年ぶんの企業と年をまとめた分布から、営業だけの利益率の中央値〔小さい順に並べて真ん中の値〕10.0%に対し、よく使われるほうは6.8%と記録し、教科書や経済誌の数字は低すぎるように見える、"due to poor measurement"(測定の悪さによる)と続けます。著者の見立てです。

全文まで読めたのは6点のうち3点——枠組みの論文と1999年の作業論文(ともに46頁)、会計基準の公式ページ。他の2本は抄録まで、教科書は書誌だけで、読めていないものについては書きません。測られたのは米国の上場企業、期間は1963年から1999年と1975年から1995年。「非存続の会社も含めた」と断るのは、読めた2本のうち1本だけ。無作為な割り付けの実験は、読めた3点のどれにもありません。
これは、銘柄選びの話ではありません。6.12%は株式の超過リターンで、2008年の論文が見ていたのも株式リターンと将来の異常リターンです。売り買いの判断に読み替えないでください。資産効率を上げる方法も書きません。6点のどれも、それを確かめていません。
水準を分けても、増分は得られなかった。
変化を分けると、翌年の予測に効いた。
同じ一文の、前半と後半です。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の比率を書き写して何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も、目標値も置きません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
目にしている「効率」の数字を一つだけ選び、名前を書く。何かを何かで割った比率なら何でも。
- 02COPY
分子が何を指すのかを、資料の言葉のまま書き写す。どの利益か、税引き前か後か。分母も同じに。
- 03COUNT
わからない箇所は「不明」と書き、個数を数える。残すのは名前と、分子と分母の定義と、その個数だけ。
年代順では、1998年9月に無形資産の会計基準が出され(2001年4月に引き継がれ、2004年3月・2008年1月・2014年5月に改訂)、1999年7月の作業論文が続き、2001年に同じ雑誌の同じ第6巻へ、予測の部品と位置づける論文(1号)と、水準の分解を報告する論文(4号)が並んで載りました。
枠組みの論文の共著者と、7点目の教科書の著者は、同じ一人です。営業と財務を分けて読む枠組みは、この一人の仕事から二度出てきます。呼び名のうち「効率」という語だけが、上げ下げできる性質があるかのような含みを持ち込む。その含みは、割り算の側からは出てきていない——というのが、この号の読み筋です。
確かめられたのは四つ。掛け算は約分される書き換え。水準の分解に増分は無く、変化の分解は有用。営業だけの分解は、使われてはいるが処理は完全ではない。無形は帳簿の外に残り、6.12%の裏で会社全体では差が無かった。今日残せるのは判定ではありません。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS資産効率・ROA管理力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 中央値
- 全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。

