IN FINANCE · ISSUE 259

(仮ビジュアル)暗い背景の石の台に、白い発酵乳の瓶と、切り漬けを詰めた低いグラスと、琥珀色の発酵茶が入った細長い容器が、三つ横に並んでいる静物写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

強い会社の話は、たいてい利益率の高さから始まります。この号が扱うのは一点——「利益率が高いほど強い」がどこまで確かめられているか。会社名も銘柄も出てきません。

利益は売上から費用を引いた残り。ただし引き算に入る数字の多くは現金の出入りではなく、見積りや割り付けを通った数字——発生項目〔いつ・いくらを利益に載せるかを決める会計上の調整〕です。それが利益を現金から引き離します。

出発点は、賞与の仕組みが会計上の判断に及ぼす影響を調べた1984年9月の作業論文。読んだのはこの作業論文の版で、刊行版(1985年)ではありません。以下の引用は、すべて作業論文の版のものです。

賞与契約の多くには、利益がある下限を超えると賞与が出はじめ、上限で頭打ちになる段差があります。母集団は、ある経済誌が1980年の一覧に挙げた「米国最大級の工業系企業250社」(経済誌の名も企業の名も書きません)。

そこから156社が外れます——123社は契約の詳細が非公開、6社は賞与で報いていない、27社は上限が推定できない。250社から156社を引いて、使えた標本は94社。うち30社は上限と下限の両方を定めています。利益の定義は会社年の52.7%が税引前利益・33.5%が支払利息控除前利益、下限は42.0%が自己資本の関数・37.2%が自己資本と長期負債の関数。

会社年を下限が効く年・上限が効く年・どちらでもない年に分けると、前の二つは発生項目の平均が小さく、下げる側に寄っています(下限側は有意水準.010、両方を持つ標本は.005)。結論の逐語は"managers are more likely to choose income-decreasing accruals when their bonus plan upper or lower bounds are binding"(上限または下限が効いているときは、減らす側の発生項目を選びやすい)。無作為な割り付けの実験ではありません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
250社から156社を引いた94社。賞与の上限か下限が効いている年は、発生項目が下げる側に寄っていました。 Visual: ALIFE

では、1930年から1980年までの94社(1,527社年)だけの話でしょうか。もう一つの道は、数字を作る当人たちに直接たずねることです。

011984年の作業論文が数えたのは、250社から156社を除いた94社。94と30は会社の数、52.7%・33.5%・42.0%・37.2%は会社年の割合。原典の語は「示唆する」「関係している」で止まります。

022013年の調査が訊いたのは、企業一般についての印象でした。上場企業の最高財務責任者169人への調査。"we avoid asking CFOs about earnings management at their own firms"(自社での利益調整については訊かないようにした)。実態と違う利益を報告している企業の割合(会計原則の範囲内)に答えた163人は、平均18.43%・中央値15.00%・標準偏差〔答えのばらつき〕17.24。原典はこれを「およそ20%」と言い換えます。非上場のCFO194人は30.37%。金額は別の設問で、調整している企業に限り1ドルのうち平均9.85セント(中央値10.00)。掛け算は20%×10%で経済全体2%。不正は除き、答えは実務の下限だとあります。

031996年の論文が測ったのは、40,679社年の利益の残り方。1962〜1991年の30年、二つの証券取引所の会社(必要なデータが無い銀行・保険は除く)、標本は40,679社年、利益は減価償却後の営業利益。翌期の利益を発生項目とキャッシュフローに分けて予測すると、係数は発生項目0.765・キャッシュ0.855〔持続の係数=今期の利益が翌期にどれだけ残るかの数字。1に近いほど残ります〕。等しいという仮説は棄却され(F=614.01)、業種別では86%で発生項目が小さく、順位では0.565対0.838、99%が同じ向き。株価反応の章は使っていません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
賞与の段差と発生項目の向き・企業一般についての18.43%・持続の係数0.765対0.855。まず数えられたのは、この3本。 Visual: ALIFE

その前に、もう二つ。一つめは、自己資本利益率(ROE)を純利益率×総資産回転率×財務レバレッジに分けるDuPont分解。掛けると必ず元へ戻るのは、そう定義しているから。恒等式であって、因果ではありません。

二つめは、「利益の質」という言葉です。2010年の総説(著者最終稿)は約350本を見渡し、"meaningless without specifying the decision context"(判断の文脈を特定しなければ意味をなさない)と書きます。代理指標どうしの相関は、損失を早く認識することと持続性のあいだで2%に満たない。一方2013年の調査は、CFOたちが利益の質を単一で無条件の性質と見ていて現在の研究とは対照的だ、とまとめます。どちらかを正しい側にはしません。

01「利益率がいま高い」を「これからも高い」と読む。平均へ戻る話の出どころとされる1982年の論文に、全文も抄録も到達できませんでした。読めたのは書誌の記録だけで、表題と鍵語のほかに要旨は1文字もありません。残るのは、1996年の論文が同じ式を引き継いで自分でも測った側——まとめて回すと0.841、業種別の平均は0.773(四分位範囲0.708〜0.863)、結びは持続の係数がおよそ0.8。ただし分母が違います。1982年の帳簿上の収益率は自己資本に対する率、1996年は総資産に対する営業利益の率です。

02「利益調整とは、よく見せることだ」と読む。向きを訊いた設問では、実態と違う業績を示している企業のうち増やす側が平均58.8%・中央値67%。原典のまとめは、利益調整の60%が増やす側・40%が減らす側で、増やす側を重視してきた文献とは対照的だ、と。下げる側は、1984年の作業論文がすでに示していました。58.8%は企業の割合で、金額の割合ではありません。

03「合計40%という早見表で、健全かどうかが判定できる」と読む。出どころは2015年2月3日の個人ブログ記事で、査読された研究ではありません。考案者は書き手ではなく、取締役会で聞いた匿名のレイトステージ投資家。適用は規模のあるSaaS企業で、少なくとも5,000万ドルの売上(年間経常収益ではありません)。規則は"your growth rate + your profit should add up to 40%"(成長率と利益を足すと40%になるべきだ)、記事の例も「40%成長なら利益0%」と等号。利益のほうは定義が難しい、EBITDAか営業利益か純利益か、と同じ記事が書いています。合計40%の、片側が定まっていません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
1982年の論文は読めていない・下げる側が4割ある・早見表の「利益」は定義されていない。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは6つのうち5つ。読めていないものについては書きません。うち二つは版が違います——1985年の論文は1984年9月の作業論文、2010年の総説は著者最終稿、2015年の記事は現行サイトへ移った後の版で、引用の確定前に再確認が要ります。測られているのはいずれも米国の、決算データが残っている企業。日本の会社は5つに1つもありません。読めた5つのどれにも、無作為な割り付けの実験はありません。

買う・売るの話ではありません。株価反応の側の数字も、利益率を上げる方法も書きません。書けるのは、その高さがどれだけ現金に裏づけられ、あとどれだけ続きそうかは、高さそのものからは分からない、まで。

発生項目の係数は0.765、キャッシュの係数は0.855。
同じ高さの利益でも、翌期の残り方は中身で違いました。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元の利益を書き分けたとき何が起きるかを測った研究は、扱っていません。直しません。判定もしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    いま目にしている利益か利益率の数字を一つだけ書き写す。他社の数字は見ません。

  2. 02SPLIT

    その数字を、「すでに現金で入ってきた分」と「掛けや見積りの分」に、分かる範囲で書き分ける。計算し直しません。

  3. 03NOTE

    書き分けられなかった部分がどれだけ残ったかを1行で書く。分からない項目は「不明」と。

5分。採点はありません。誰にも見せず、提出もしません。**勤め先や取引先の健全性を判定する課題ではなく、資金の出し入れや株式の売り買いの判断にも使えません。**数字が気になって眠れないときは、信頼できる相談先や専門家へ。

重なっているのは、著者ではなく系譜です。同じ姓の著者は一人もいません。1996年は1982年の式を出発点にしており、平均へ戻る話について二つは独立した証拠ではない。総説も参考文献に1985年と1996年の論文を含み、一次と二度は数えられません。

確かめられたのは四つ。賞与の上限か下限が効く年には減らす側の発生項目が選ばれやすかったこと。CFOたちが企業一般について平均18.43%と答えたこと。40,679社年で、翌期に残る力はキャッシュの側が厚かったこと。DuPont分解は恒等式で、利益の質の物差しどうしは揃わなかったこと。いちばん強さの証拠にされる数字が、いちばん作り手の判断の入りやすい数字でもある——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは記録が1件だけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。
中央値
全員を並べたときの、ちょうど真ん中の人の値。平均と違って、極端な値に引っ張られません。
標準偏差
ばらつきの大きさを表す値。大きいほど、人によって結果がばらばらだったことを意味します。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。