IN CUSTOMER · ISSUE 255
● 12 SEC紹介という言葉のまわりには、よく流通する言い分が二つあります。紹介で来た客は価値が高い。一人が連れてくる人数の係数が1を超えれば増えていく。この号が見るのは、その出どころです。銀行も販売サイトも新聞も、名前は書きません。
出発点は2011年。逐語は——「紹介の仕組みは顧客を獲得する一般的な手段になった。しかし、そうして獲得された顧客が他の顧客より価値が高いという証拠は、これまで存在しない」。著者らはドイツの大手銀行のおよそ1万人を三年近く追跡します。割り付けではありません。
結果は三つに分けられています——「①より高い貢献利益を持つが、この差は時間とともに侵食される ②より高い維持率を持ち、この差は時間を通じて持続する ③短期にも長期にも、より価値が高い」。〔貢献利益は売上から直接費用を引いた残り〕
いちばんよく引かれる数字の逐語は——「紹介された顧客の平均的な価値は、属性と獲得時期の似た紹介でない顧客より、少なくとも16%高い。ただし、価値の差の大きさは顧客の区分によって異なる」。「少なくとも」は下限。指すのは価値の差で、利幅でも維持率でもありません。
抄録はこのあと、だから企業は選択的な手法を用いるべきである、と続きます。企業へ向けた助言なので運びません。運ぶのは、ひとつの平均が全体を代表していない、というほうです。
割り付けたのではないので「紹介の仕組みが利益を生む」とは書けません。書けるのは、高い維持率と結びついていた、利幅の差は侵食されたと報告されている、まで。

ここまでなら単純です。維持率の差が残るなら、紹介で来た客は長く残る性質を持っている——そう読みたくなる。ところが七年後、その残りやすさは、紹介された人だけを見ていても見つかりませんでした。
012011年の論文は、消える差と残る差を書き分けた。16%は下限。ドイツの大手銀行のおよそ1万人を三年近く追った追跡。利幅の差は侵食され、維持率の差は持続する。平均的な価値の差は少なくとも16%で、同じ抄録は差の大きさが顧客の区分によって異なるとも書きます。
022018年の論文は差の源を二つに分けた。ただし著者が三人重なる。候補は、会社との適合の良さと、紹介した人による社会的な補強。適合の側の証拠は利幅について三つ。補強の側が芯です——「紹介された顧客が低い解約率を示すのは、その紹介者が解約していないあいだだけである」。著者四人のうち三人は2011年と同じですが、抄録に材料が無く、同じデータかは判定できません。
032007年の網では、推薦は平均すると遠くまで広がらなかった。400万人が50万点の商品について1,600万件の推薦を行った網の分析。結論の一文は折れています——「推薦は平均すると購買を引き起こすのにあまり効果的でなく、遠くまで広がりもしないが、口伝えによる売り方が非常に効果的に見える共同体・商品・価格の区分を、うまく特定する模型を提示する」。前半だけでも後半だけでも、原典の一文にはなりません。

誰が広めるか——2009年の論文は、全国規模のある企業が顧客と非顧客の二集団に作り出した現場試験とオンラインの実験で、認知の初期水準が低い商品では、もっとも効果的な口伝えは忠実度の低い顧客が作り、知人のあいだで起きる、という仮説が双方で支持されたと抄録は書きます。意見の指導者という指定は、忠実度の低い顧客の標本では有用性が低いとも。
2010年の論文は、紹介の価値を計算する四段階の手法を金融サービスと小売の二業種・四つの現場実験で検証し、生涯価値と紹介価値の両方の点数で管理することが決定的だとしました。2012年の論文は、ある新聞の三か月ぶんの全記事で、喚起の高い正(畏敬)や負(怒り・不安)の感情ほど広まりやすく、低い感情(悲しみ)は広まりにくいと報告。意外さ・面白さ・実用性(いずれも広まりやすさと正に結びつく)を統制しても保たれ、六本で因果の語が出るのは、この実験の行だけです。
01「紹介で来た客は価値が高い」——書き分けと下限が落ちている。消える差(利幅)と残る差(維持率)が、同じ文のなかにあります。16%は下限で、原典自身が差の大きさは区分によって異なると書く。「平均すると16%以上」と「どの顧客でも16%以上」は、別のことです。
02「紹介で来た客は、もともと離れにくい」——条件が落ちている。低い解約率が観測されたのは、その紹介者が解約していないあいだだけでした。紹介した人と紹介された人が記録のうえで結びついていないかぎり、この条件は見えません。適合の側の三つ(利幅の話)とは混ぜられません。
03「係数が1を超えれば増える」——平均が区分を潰している。係数は平均です。平均では薄く、区分によっては濃い——同じ一文が、その両方を書いています。一つの係数は、その濃淡を平らにならします。

読めたのは、六本とも公式の抄録までです。標本の数字は、抄録に印字されたものだけ——およそ1万人・三年近く・400万人・50万点・1,600万件・二つの業種・四つの現場実験・三か月ぶんの記事。2018年の論文の国・業種・標本の大きさ・期間は、抄録に無いので空けたままです。
対象はドイツの大手銀行、ある紹介の仕組み、ある推薦の網、全国規模のある企業、二業種、ある新聞です。読めた範囲に「無作為」の語は無く、「実験」の語が出る三本も、割り付けの方法は書かれていません。企業への助言もあります——「研究された企業の経営者に向けた一つの推奨は、少なくとも半年前に獲得され、利幅が高く、解約しそうにない顧客のあいだから紹介者を募ることである」——宛先ごと置いただけで、手順には変えません。
紹介された顧客が低い解約率を示すのは、
その紹介者が解約していないあいだだけである。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。手元で五件たどったとき何が起きるかを確かめた研究はありません。誰にも頼まず、誰も紹介せず、相手に確認もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
**この一か月に新しく始めたこと**を、思い出せる順に五件書き出す。人の名前は書きません。
- 02SORT
五件それぞれに、どこから来たかを一語だけ付ける。**紹介、検索、通りがかり、広告、以前から、分からない**——この粗さで足ります。
- 03NOTE
「紹介」の件について、その相手といまも連絡があるかを一言。最後に「分からない」の件数を書く。
年代順に並べると、2007年に推薦の網の平均、2009年に誰が広めるか、2010年に紹介価値の手法、2011年に追跡と下限16%、2012年に何が広まるか、2018年に条件つきの低い解約率。2011年と2018年は著者四人のうち三人が同じですが、2018年の抄録に材料が無く、同じデータかは判定できません。残る四本に、著者の重なりはありません。
確かめられたのは四つ。利幅の差は侵食され、維持率の差は持続すると書き分けられていたこと。価値の差が「少なくとも16%」という下限で書かれ、直後に区分で異なると続いていたこと。七年後の論文が、低い解約率は紹介者が解約していないあいだだけだと報告したこと。1,600万件の網では平均は薄く、効果的に見える区分は特定できると一文にあったこと。片方が去れば一緒に消えうる——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、記録が1件だけです。
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