IN CUSTOMER · ISSUE 248
● 12 SEC一人の客が生涯にもたらす額が、獲得にかかった額の3倍あれば健全。3:1という目安があります。見るのは契約の取り方ではなく、その3の出どころに何が書いてあるか。企業名も製品名も書きません。
行き着いたのは、ある投資会社のブログの2017年の記事。査読誌ではありません。冒頭の逐語を訳すと——健全な事業では3を超えているべきだという目標を持ち込んだ者として、いつ計算するのが理にかなうかを読者に伝えなかったのは重大な間違いだった、とのちに気づいた。
3という閾値を検証した査読研究には、さかのぼれた範囲では行き着きませんでした。「存在しない」とは書きません。行き着いたのは、比の分子と分母を問う論文です。
読めたのは2017年の振り返りで、3を最初に出した記事には到達していません。宛先は月額でソフトウェアを提供する新興企業。挙がるのは創業者の四つの間違い——早く計算しすぎる、細部に集中しすぎる、判断に使わない、投資家の判断への影響を理解していない。
追記が続きます。この数字が意味を持ち信頼できるのは、繰り返せて規模を広げられる成長の過程を見つけたあとだけだった、と。獲得費用を回収するまでの月数も見よ、長引けば立ちゆかない額の資本が要る、とも。
結びに近い一文を訳すと——この比は、使うものであって、信じるものではない。3.14159対1は3対1よりわずかに良い。3.1対1も3よりわずかに良い。小数点以下1桁より細かくして役に立った場面を、私は見たことがない。

分子は、生涯の利益を割り引いて足したもの。観測ではなく式で作った推定です。分母は、獲得にかかった額。2004年の稿の脚注は、利幅$100・維持率80%・割引率12%なら無限期間の式で$250、5年で切ると$360でおよそ44%の過大と書きます。数えられていたのは3ではなく、この分子でした。
01分子は、一つの維持率の上に立っている。2010年 Marketing Science 29巻1号の抄録——標準的な教科書の議論をそのまま適用すると単一の維持率に基づく計算になるが、同時期に獲得した集団の水準で見ると、維持率はふつう時間とともに上がっていく。認識しないと残存価値の推定は下方に偏る——過大ではなく、過小。〔=同じ時期に客になった人たちを一群として追う〕。名指しは教科書の議論で、2004年の論文ではありません。
02将来の価値は、四つの業種で当たらなかった。2005年 Journal of Interactive Marketing 19巻1号が測ったのは、優良な客を見分けられるか。抄録——上位20%のうちおよそ55%は誤って分類される。将来の下位80%のうちおよそ15%は誤って分類される。材料は業種の異なる四つのデータの組、標本の外での検証の結果〔=作るのに使わなかったデータで当たるかを確かめる。55%の分母は上位20%、15%は下位80%で、足す数ではありません〕。
03刊行版は企業価値、読めた稿は顧客価値。同じ数字です。2004年 Journal of Marketing Research 41巻1号は、五社の公開データで客の価値から企業の価値を評価。刊行版の抄録は維持・利幅・獲得費用の1%の改善が企業価値を5%・1%・0.1%高める、維持の1%は割引率の1%よりほぼ5倍効くと書きます。読めた稿の本文は同じ三つを顧客価値の変化として2.45〜6.75%・約1%・0.02〜0.32%。五社ぶんは維持2.45/3.42/5.12/6.67/6.75%、獲得費用0.02/0.03/0.07/0.08/0.32%、利幅1.02〜1.32%、割引率を1%下げても0.5〜1.2%。著者の言葉で維持の弾力性は利幅の3〜7倍、獲得費用の10〜100倍〔弾力性=1%動かすと何%動くかの比〕。

一つめ。2009年 Journal of Interactive Marketing 23巻2号の総説は、少なくとも三つの著者集団が見出した効果を「経験的一般化」として四つ挙げ(顧客満足・マーケティングの努力・他分野への購買・複数の経路での購買)〔統合値ではなく数え上げ〕、今後の課題に「生涯価値を正確に予測できるか」を置きます。
二つめ。2006年 Marketing Science 25巻6号の総説は、知覚の指標と行動の指標の双方から九つの経験的一般化を提示します。三つめ。計算モデルを体系立てた初期の一本は1998年、同じ雑誌の12巻1号——1998年と2009年のあいだは11年。引いた6本のうち3本は同じ雑誌で、独立した著者集団は4組。
01「維持率が上がった=関係が良くなった」。その数字だけでは、何が起きたかは決まりません。続けにくい人から先に抜けて残った集団の構成が変わる——というのはこの号の読み筋。抄録は「大部分は選別の効果によると示唆されてきた」までしか書いていません。
02「優良な客は見分けられる」。当たり方の話です。「上位20%」が予測での上位か将来の実績での上位かは決まりません——下位にだけ「将来の」が付いています。四つの業種が何かも抄録にありません。原典の結論は、過去に高い利益をもたらした客が将来もそうだとは仮定できない。
03「削るほうが早い」。桁はたしかに違います。原典は同じ節に但し書きを二つ置きます。訳すと——維持や利幅を改善する費用を含めていない。維持の改善が顧客価値に最も大きく効くとしても、企業が常に維持を改善すべきだとは示唆できない。獲得・維持・利幅の相互作用も無視しており、値引きの販促のような施策が維持率の低い客を引き寄せうる、と。

材料は七点、全文まで読めたのは二点です。2004年の掲載前の稿(32頁・2002年1月/8月改訂/2003年2月改訂)と、ブログの2017年の記事。残る五点は抄録まで。五社は既存企業が一社とインターネット企業が四社、期間は1996年12月〜2002年3月、時点は2002年3月31日。無作為な割り付けの実験は、読めた範囲に1本もありません(走査でも0件)。個社の評価額も時価も書きません。
「五社の公開データ」には例外がありました。維持率だけは公開されず、外からの推定です——他社との類似から95%、米国企業の平均から80%、専門家への聞き取りで84〜86%の中央の85%、開示方式の変更から65.3〜74.6%の平均で約70%、一社だけが証券会社から得た実数(1999年度95.0・2000年度96.2・2001年度95.7・2002年3月期94%)。五社の推定は70%から95%。脚注は「一定ではないかもしれないが、模型化のしやすさのために一定と仮定する」と断ります。感度の土台にある維持率が、公開データではありませんでした。
刊行版の抄録では、企業価値の変化として5%と1%と0.1%。
全文まで読めた稿では、顧客価値の変化として2.45〜6.75%と約1%と0.02〜0.32%でした。
だから次の3手も、研究が命じた順番ではありません。測られたのは企業の評価額と予測の当たり方。目にした比を書き分けたときのことを確かめた研究は、ありません。判定はしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
今日、目にした「比」か「割合」を一つだけ選ぶ。「たまたま最初に目に入った」で十分。
- 02SPLIT
分子が何を数えたものかを一行、分母が何を数えたものかを一行。書かれていなければ「書かれていない」と。
- 03NOTE
上と下のどちらが動いたらこの比が動くかを一行。「上が増えても下が減っても同じ数になる」で足ります。
年代順に、1998年に計算モデル、2004年に五社の感度、2005年に予測の当たり方、2006年に総説、2009年に「予測できるか」が今後の課題、2010年に単一の維持率という前提、2017年に「言い忘れた」。年代の幅は19年。動いたのは比ではなく、比の使われ方です。
確かめられたのは四つ。3を持ち込んだ本人が、伝えなかったのは重大な間違いだったと書き、「信じるものではない」と結んだこと。その閾値を検証した査読研究には行き着かなかったこと。分子が立つ維持率が、五社とも公開データではなかったこと。そして「だから維持を上げよ」とは言えないと、原典が自分で書いていること。3を上回れば健全という言い方だけが、その前提より先に流通しました——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。
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