IN CUSTOMER · ISSUE 242

(仮ビジュアル)暗い寝室で、白い枕に頬をつけて目を閉じ、白い掛け布団にくるまって眠っている女性を横から写した写真● 12 SEC
Visual: ALIFE Editorial

「うちは、ここが違います。」外へ出される言葉は、たいていこの形です。この号が見るのは違いの中身ではなく、その言い方がどこから来て、どこまで確かめられたのかのほうです。

出どころとされてきたのは、1981年の一般向けの本です。到達したのは図書の記録まで——表題と副題、初刊は1981年、著者は二人、主題見出しは「位置取り(広告)」「広告」「マーケティング」「商品管理」、分類番号は広告の分類(659.1)。査読誌ではありません。中身は読んでいないので、書きません。

査読の側で確かめられてきたのは、この本ではなく、同じころ別の系譜として出た1980年の枠組み——費用で勝負するか、違いで勝負するか——のほうです。分類はできています。揉めているのは「どちらに寄せると儲かるか」です。

2000年の論文は、実証研究を集めて統合し直したものです。費用と差別化は競争戦略の設計を大きく分ける識別子としては働く——そう認めたうえでの結論が、"its theoretical proposition on the performance of designs has yet to be supported."(設計の業績についての理論的命題は、まだ支持されていない)でした。支持されていないのは「どちらかに寄せたほうが儲かる」のほうです。

2007年に同じ雑誌へ出た研究の書き出しです——"Twenty-five years of empirical research has failed to resolve a basic strategy question."(二十五年の実証研究は、戦略の基本的な問いを解決できていない)。理論に沿って戦略の空間を定義し直し、設計と方法を改良して2,351の事業を調べ、純度〔一方の型の戦略をどれだけ追求しているかの度合い〕と業績に有意な関係〔偶然では説明しきれないと判定された関係。大きさは表しません〕を見つけた、と報告しています。

抄録の言い方は素っ気ないものです——"Purity does appear to pay."(純度は割に合うように見える)。断定形ではありません。どちらも査読を通り、同じ雑誌に載っています。この号は、どちらかを「正しいほうの答え」にはしません。

(仮ビジュアル)薄暗い部屋の黒枠の大きな鏡の前で、黒いローブ姿の女性が鏡に映った自分と静かに向き合っている写真
2000年の統合は「業績についての命題はまだ支持されていない」。2007年の2,351事業は「純度は割に合うように見える」。同じ雑誌です。 Visual: ALIFE

同じ問いに、逆向きの答えが並んでいます。では、もっと古い研究は何と言っていたのか。1983年と1984年の二本は、しばしば束ねて引かれます。束ねると、片方の結論の向きが消えます。

012000年の統合は、業績についての命題を支持できていない。分類できることと、業績を説明できることは別です。抄録には研究の本数も、統合された数値も、標本の大きさも印字されておらず、「何本を集めたか」は書けません。

022007年は2,351の事業で、純度と業績に有意な関係。2,351は事業の数であって、会社の数ではありません。製造・建設・小売・事業向けサービスの四つの部門で出方に違いはあったが、すべての場合で純粋な戦略が混合戦略より劣ることはなく、しばしば上回った、とも。別の測り方を当て直した研究であって、反証実験ではありません。

031989年は、強く違うと隙間、中程度なら差別化された位置。頭の中を測った論文です——"perceptions that a brand is strongly discrepant result in a subtyped (or niche) position, whereas perceptions that a brand is moderately discrepant result in a differentiated position within the general category."(強く食い違うと知覚された銘柄は下位分類=隙間の位置に、中程度なら一般の分類の中で差別化された位置になる)。四つの研究の役割は別々(効果の同定・時間による増大・並べ替え課題での妥当性・複数銘柄での成立)。測られたのは頭の中の位置で、売上ではありません。

(仮ビジュアル)ベージュの空間で、黒い石の細長い天板を、灰青のガラス・銀の金属・赤い漆という3本の異なる脚がそれぞれ支えているコンソールテーブル
2000年の「まだ支持されていない」・2007年の2,351事業・1989年の四つの研究。まず数えられたのは、この3本。 Visual: ALIFE

古い二本は別々に。1984年の抄録は3文で、第3文が結論の向きです——"Firms identified with at least one generic strategy outperformed firms identified as 'stuck in the middle.'"(少なくとも一つの一般戦略に該当すると分類された企業は、「中途半端」と分類された企業を上回った)。上回った側がある、と書いてあります。2007年と同じ側です。第2文の従属変数は、産業の中での利益率と成長の2つでした。

1983年の研究のほうは、向きが違います——"Multiple avenues to high profits are found within both types, but they differ between the two types in ways that can be reconciled with industry characteristics."(高い利益への複数の道が、どちらの型のなかにも見出されるが、それらは二つの型のあいだで、産業の特性と折り合いのつく形で異なっている)。「一つに絞れなかった」と読めるのは、こちらです。第3文が最後に推すのは、勝ち筋ではなく分ける手法のほうです。

01「差別化の効果は、もう決着している」——決着していない。2000年は「まだ支持されていない」、2007年の2,351事業は「割に合うように見える」。「二十五年決着していない」と書いたのは、後から答えを出したほうの論文の冒頭です。片方を正しい答えにすると、もう片方が消えます。「まだ支持されていない」は「効果が無い」ではありません。

02「古い研究はそろって『どちらでもよい』だった」——1984年は逆。1984年の第3文は「該当した企業が『中途半端』を上回った」で、2007年と同じ側です。「道は複数で、産業の型で違う」は1983年のほう。数え直せば、「寄せたほうが上」に1984年と2007年、「道は複数」に1983年、「未支持」に2000年の三通り。「四十年前から一貫して」の要約は、この並びを平らにします。

03「思い切り違えば、覚えてもらえる」——隙間のほうへ寄る。強く違うほど良い、ではありませんでした。同じ食い違いでも、一つの広告に集中しているか複数に散っているかで知覚が変わりました。測られたのは頭の中の位置で、事業の業績ではありません。隙間が悪い、という話でもありません。

(仮ビジュアル)縦に3分割された写真。左は乱れた寝具のベッド、中央は窓の外へ目を向ける女性、右は玄関の床に脱ぎ置かれたコートと鍵
決着していない・1984年は上回った側・強く違うと隙間へ。取り違えるのは、この三か所。 Visual: ALIFE

全文まで読めたのは、6点のうち0点です。論文5本は抄録まで、本1冊は書誌の記録まで——読めていない層については書きません。測られたのは、1983年は成熟した資本財の二種類の産業、2007年は四つの部門の事業、1989年は実験の参加者の頭の中。原典は国を書いていません。

今日目にした売り文句がその中に入っているかは分かりません。著者の重複はありませんが、2000年の統合が1983年・1984年を含むかは抄録では分かりません。四本を「独立した四つの証拠」として数えていません。読めた範囲に、無作為な割り付けも、実験群と対照群の記述も、1件も出てきません。因果の言葉は使わず、「違いを打ち出せ」も「絞れ」も「隙間を狙え」も渡しません。

2,351の事業では、純度は割に合うように見えた。
その同じ論文の冒頭が、二十五年決着していない、で始まる。

次の3手も、研究が命じた順番ではありません。売り文句の「違い」を数えたとき何が起きるかを測った研究は、ありません。評価も、採点も、書き直しもしません。

TRY IT TODAY

  1. 01PICK

    今日目にした説明文を一つだけ選ぶ。商品ページでも、案内の紙でも、求人票でも。「他とは違う」と言っている文であること、それだけが基準。

  2. 02COUNT

    主張されている「違い」を、箇条ではなく数として数える。一箇所にまとまっているか、あちこちに散っているかも一言だけ書き足す。

  3. 03NOTE

    根拠が添えられている「違い」が何個あるかも数える。迷えば「どちらとも言えない」と。残すのは、文の種類・違いの数・まとまり方・根拠の付いた数の4点だけです。

5分。採点も、書き直しもしません。誰にも送らず、提出もしません。**良し悪しの判定にも、買う・買わないの判断にも使えません。**窮屈に感じたら、中止してください。

年代順に見ると、1981年の本、1983年の「道は複数で産業の型で違う」、1984年の「該当した会社が上回った」、1989年の「強く違うと隙間」、2000年の「未支持」、2007年の「割に合うように見える」。動いたのは、答えではなく、測り方のほうでした。

確かめられたのは四つ。1981年の本は査読誌ではなく、記録の主題も分類番号も広告だったこと。2000年が業績の命題を支持できなかったこと。2007年が2,351の事業で「割に合うように見える」と報告しつつ、冒頭は「二十五年決着していない」だったこと。1984年と1983年は向きが違い、束ねると片方が消えること。一語が四十年もったのは、当たっていたからというより、どの結果も受け止められる形だったから——というのが、この号の読み筋です。記録が1件、残るだけです。

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HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方

この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。

統計的に有意
「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

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本コンテンツは学習目的であり、診断や治療の代替ではありません。