IN CUSTOMER · ISSUE 243
● 12 SEC「価値提案を明確にせよ。」よく言われる助言です。左に相手の困りごと、右に差し出すもの、線で結ぶ枠まで用意されていて、埋めれば言葉が決まることになっています。この号が見るのは、枠の埋め方ではなく、この概念そのものの、査読誌での扱われ方です。
出発点は2017年の総説〔研究を集めて整理する型の論文。新しい数え上げではありません〕。核心はここ——"Managers and scholars increasingly use CVP terminology, yet the concept remains poorly understood and implemented; relatively little research on this topic has been published, considering the vast breadth of investigations of the value concept."(実務家も研究者もこの用語をますます使うようになっているが、この概念はいまだよく理解されておらず、実装もされていない。価値という概念への調査の広さに比べ、この主題の公刊研究は比較的少ない)。
用語の普及と、概念の確立は別のことです。同じ抄録は、断片的な文献の整理と、強い理論的基盤の欠如の指摘だ、とも書きます。この号が全文まで読めた資料は0件。5件は抄録まで、1件は一般書で書誌まで。表も、係数も、標本の大きさも出てきません。
1988年に出た、価値についていまも最もよく引かれる論文——その仕事の中身は「定義」でした。価格・知覚品質・知覚価値を定義し、関係づける。当時それだけ、三つの語は混ざって使われていたということです。
そして順番が独特です。1988年に定義、2006年に差別化の調査、2011年に手順、2012年に概念化、2017年に「いまだよく理解されていない」。一方、枠を埋める道具は2014年に一般書として出ました。査読誌ではありません。この号はその中身を1文字も読んでいません。

「効かない」という話ではありません。効くかどうかを言えるだけの研究が、まだ積み上がっていないということです。
012017年の総説自身が、概念は理解も実装もされていないと書いている。同じ抄録は、この総説がしたことも並べます。その一つが"illustrates the application of the CVP concept to four contrasting companies"(四つの対照的な企業への適用の例示)。例示は、比較ではありません。どの四社かは抄録に無いので書きません。「比較的少ない」も「断片的」も著者らの評価語で、統合値は1つもありません。
021988年の仕事は、三つの語を定義し関係づける概念モデルの提示だった。抄録は3文で、標本も人数も推定値もありません。やったのは統合と定義と命題。それでいて、いまも最もよく引かれる——被引用数〔ほかの論文が引いた回数。集計する基盤で値は変わります〕は、Crossrefという書誌の基盤で2026年時点で27,134件。引かれた回数であって、支持した研究の数ではありません。
032006年の研究では、価格が差別化の可能性のもっとも弱い側だった。「製品と価格が差別化の要因として重要でなくなるにつれて」は、著者が置いた前提。結果は順位でした。中核は支援の手厚さと人としてのやりとり、次いで供給側の知識と、市場に出るまでの時間を短くできる能力。品質と納期、取得と運用の費用は中程度。最後に価格。9つで全部、大きさの数字はありません。

あと2本。2011年の論文の書き出しは"The value proposition concept and the stakeholder perspective have received relatively little attention within Service-Dominant (S-D) logic."(価値提案の概念と、利害関係者の視点との両方が、サービス支配論理の枠内では相対的にほとんど注意を払われてこなかった)。主語は二つです。そのうえで、主要な利害関係者を見つけて価値提案を共に作る五段階の手順を立てます。各段の名前は抄録に無いので、五つという数だけ。
もう1本、2012年の論文。様々な業種の営業管理者への詳細な面接から、三つの次元を同定します——(1)顧客の事業モデルの理解、(2)価値提案を練り上げること、(3)顧客価値を伝えること。三つのうちの一つが、価値提案です。成果との結びつきは"propose a conceptual model linking value-based selling to performance outcomes"(概念モデルを提案する)まで。測られた結果ではありません。
01「価値提案は、確立した概念だ」。用語が広く使われていることを、概念が精密になっている証拠として読む。ここが最初の取り違えです。抄録はその二つを「しかし(yet)」で切り離しました。「よく理解されていない」は、「効かない」ではありません。
02「枠を埋めれば、差し出すものの言葉が決まる」。枠は必ず埋まります。埋まらない枠は配られません。では、埋めた側のほうが良い結果を出したのか。当たった範囲では、行き着きませんでした。検索基盤で4通り当たり、上位は枠を別の分野へ当てはめた事例と、事業モデルの刷新と業績の研究。悉皆の調査ではありません。近いのは2017年の総説の四つの企業への例示だけで、比較ではない。
03「差別化のいちばんの手は、価格だ」。看板の一文は"Finally, price shows the weakest potential for differentiation."(最後に、価格は差別化の可能性がもっとも弱い)。測られたのは「差別化の可能性」への効きで、値下げが効かないという意味ではありません。設定は企業間の取引で、日常的に購入される製品——個人の客に同じ順位が当てはまるかは確かめられていません。抄録にあるのは順位だけで、大きさはありません。

全文まで読めた資料は0件。5件は抄録まで、1件は書誌まで。実証の設定は、企業間の取引で日常的に購入される製品(2006年)と、様々な業種の営業管理者への面接(2012年)。個人の客も、小さい商いも入っていません。無作為な割り付けは、抄録まで読めた5本の範囲に1つもありません。全文には到達していないので、「全文に無い」とは書きません。
これは、売り方の指南ではありません。「こう書けば伝わる」という手順は1つもなく、企業や売る側への助言も書きません。読者は、その言葉を受け取る側です。値下げの是非も書きません。2006年の順位は、差別化の可能性という一つの目的についてのものだからです。
用語の使用は増えている——2017年の総説は、そう続けます。
この概念はいまだよく理解されておらず、実装もされていない。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。売り文句から語を一つ消したとき何が起きるかを確かめた研究は、この号にはありません。評価も、判定もしません。
TRY IT TODAY
- 01COPY
紙かメモアプリを開く。今日目にした売り文句を、三つだけ書き写す——紹介文、案内、掲示、社内の資料、誰かの自己紹介、どれでも。一つにつき一〜二文で足ります。
- 02ERASE
その三つから、「価値」「バリュー」「ソリューション」「メリット」「最適化」にあたる語を消して、残った文を書き写す。意味が変わらなかったものと、通らなくなったものに分けて数える。
- 03NOTE
通らなくなったものを一つ選び、その場所に本来なら何が入るはずかを一行だけ書く。書けなければ「書けない」と書く。残すのは、この一行と、二つの個数だけです。
年代順に。1988年に定義、2006年に差別化の可能性の調査、2011年に五段階の手順、2012年に売り方の概念化、2014年に道具が一般書として、2017年に「理解も実装もされていない」。1988年から2017年まで29年。道具のほうが先に届き、研究は後でした。総説の著者3名は全員、この号の他の査読論文の著者でもあり(2名は2011年、1名は2006年と2012年)、2006年と2012年の双方に入る著者が2名。重なりが無いのは1988年だけ。
同じ人たちが書いていること自体は、欠点ではありません。ただ、「公刊された研究は比較的少ない」と書いた総説の書き手が、その分野の主要な実証の書き手でもある。確かめられたのは、総説の自己評価と、1988年の定義と、2006年の価格の順位と、比べた研究に行き着かなかったこと。言葉が便利なのは、中身が決まっていないからだ——というのが、この号の読み筋です。残るのは記録が1件。
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