IN CUSTOMER · ISSUE 241
● 12 SEC「新しい事業が失敗する理由の第1位は、市場が無かったこと。42%。」この号は、市場の見立て方を並べません。その42%の出どころを追います。ある投資情報の会社が自社で配っている調査報告の2016年版で、査読誌ではありません。
表紙にはこうあります——101件の失敗の事後談を分析して、失敗の理由の上位20を切り分けた。第1位の節は "cited as the number one reason for failure in a notable 42% of cases"(失敗の第1の理由として、42%という目立つ割合のケースで挙げられた)。「42%の会社が、市場が無くて失敗した」ではありません。
前置きも自ら断ります——"doesn't add upto 100% (it far exceeds it)"(合計は100%にならない、大きく超える。綴りは原典のまま)。2位は資金が尽きたこと29%、4位は競合に負けたこと19%。
面白い一文は、順位表ではなく前置きにあります——"There is certainly no survivorship bias here."(ここには確かに生存者バイアスは無い)。生存者バイアス〔生き残ったものだけを見て、消えたものを見ないために話が偏ること〕。失敗した会社ばかりを見ているのだから、そのとおりです。
ただし同じ前置きは、この分析が、自社の終わりの物語を世に共有する勇気ある創業者が何人もいなければ成り立たない、とも書きます。母集団は「失敗した事業」ではなく、「終わりを自分の言葉で公開した101件」です。黙って畳んだ人、書かなかった人、始まる前に消えた話は入っていません。

ここまでは失敗の側の数字です。成否そのものを測った側にも、母集団の断りがありました。
01101件の事後談を分類した報告。合計は100%を大きく超えると自ら書いている。42%は、101件の事後談のうち、そう書かれていたケースの割合です。3位の節には百分率が印字されていないので、3位の数字は書いていません。
022008年のメタ分析。24の要因のうち有意は8つ、有意でないのは5つ、残る11は不均質。新技術ベンチャーの31件の実証研究を統合したメタ分析〔別々の研究をまとめ直すやり方〕です。表の数字は相関〔二つの数が一緒に動く度合いを−1から1で表した数。0なら結びつきなし〕を標本で重みづけした補正済みの平均です。均質に有意だったのは8つ、供給網の統合0.23、市場の広がり0.21、企業の年齢0.16、創業チームの規模0.13、資金0.12、創業者のマーケティング経験0.11、業界経験0.11、特許による保護0.11。「マーケティング経験」は市場を知っている意味ではなく、販売や広告の職能の経験。原典は業界経験と別項目です。要旨は、不均質な11のうち三つは下位集団の成功要因、二つは失敗要因に見えたと書きます。p値はすべて片側検定〔向きを一方に決めて判定するやり方〕。統合の元が31件であることも、著者は限界に挙げます。
03見積もりの側。過度の楽観と、単純な数え上げの的中。2010年の論文は、これから始める人の予想に相当な過度の楽観があり、財務の予測を作るとより過度に楽観的な売上の見通しになるとします。2014年の総説は、低い収益でも参入し留まる理由の候補に、危険回避度の違い・過信・金銭以外の選好の三つを挙げます。ただし、予測が当たらないわけではありません。2006年の研究では、専門家が37の項目を評価し、良い点と悪い点を別々に数え上げる模型が、専門家自身の正しい予測の91.8%を再現し、標本外・時期外で86.0%を当てました。2008年の別の研究は、参入前に候補を並べた起業家は業績上の利益を得るが、その関係は非線形で逓減するとします(測っている先が違うので、上の統合とは束ねません)。

その前に、二つ。一つ目。42%を出したのは、投資の情報を売っている会社です。悪意の話ではなく、問題は、そうして作られた数字が査読された事実と同じ顔で流通するほうです——というのが、この号の読み筋です。
二つ目。有意でなかった5つは、環境の多様性0.10(3件の相関・合わせた標本287)、研究開発の経験0.09、環境の変動性0.05、競争の激しさ0.01(7件・634)、創業者の起業経験0.00(3件・114)。有意だった創業者のマーケティング経験は0.11(3件・381)で、大きさはほとんど変わりません。有意でないのは劣っているという意味ではなく、統合すると向きが定まらなかった、という意味です。
01「42%の会社が、市場が無くて失敗した」。引かれるとき、三つが同時に落ちます。単位(会社の割合ではなく、事後談のうちのケースの割合)、合計(上位20は100%を大きく超える)、母集団(終わりを公開した事業の一覧)。落ちるのは生き残りの側ではなく、黙って畳んだ側です。
02「競争の激しい市場を避け、経験者と組めば確率は上がる」。この二つは、24の候補のうち有意にならなかった側(上の0.01と0.00)です。根拠には使えませんが、劣っているという意味でもありません。統合そのものにも母集団の断りがあります——"inherently biased toward more successful, surviving firms"(より成功した生き残り企業のほうへ本質的に偏らざるをえない)。
03「三段に分けて見積もれば、機会の大きさが正確にわかる」。総需要・届く範囲・取れる分の三段に分ける道具は、よく使われます。その精度を検証した査読研究には、当たった範囲では行き着きませんでした。見つかったのは精度の検証ではなく、概念的な論説が1件。三段に分けることは、精度を上げる手続きではなく、話を整理する手続きである——というのが、この号の読み筋です。

全文まで読めたのは、六つの資料のうち二つです。読めていないものについては書きません。残る四つは抄録までで、原典は標本の大きさも国も期間も書いていません。水準は事業・企業です。無作為な割り付けの実験は、読めた範囲に1本もありません。
これは、「こうすれば売れる」の記事ではありません。会社や事業への助言も書きません。想定読者は、流通する数字を読み解く側であり、買う側・使う側でもあります。この号の数字は、事業や取引の判断にも、資金の出し入れにも使えません。
集めた研究はすべて、生き残った新技術ベンチャーを調べたものだった。
したがって、このメタ分析は失敗を考慮していない。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。数字を1つ選んで母集団を写したとき何が起きるかを測った研究は、ありません。判定も採点もしません。
TRY IT TODAY
- 01PICK
手元の資料——提案書でも業界の記事でも企画書でも——から、市場や顧客についての数字を1つだけ選ぶ。
- 02TRACE
その数字の発行元と、数え方が書かれている場所を探し、母集団の定義を1行だけ書き写す。**書かれていなければ「書かれていない」と書きます。それが収穫です。**
- 03CHECK
その数字が、合計すると100%になる種類かどうかを一言添える。複数回答なら合計は100%を超えます。分からなければ「分からない」で終わりです。
確かめられたのは三つ。42%が「101件の事後談のうち、第1の理由としてそう書かれたケースの割合」だったこと。統合されたメタ分析が24の要因を8つ・5つ・11に分け、その元がすべて生き残った企業の研究だったこと。三段の見積もりの精度を検証した査読研究には行き着かなかったこと。著者の重なりは1組(2006年と2014年に同じ著者が1名)、データの重なりはありません。
二つの母集団は、最後まで交わりませんでした。失敗した会社そのものを両側から数えた資料は、この号にありません。あったのは失敗の原因ではなく、書く気になった人の側と、生き残った側の、二つの名簿でした——というのが、この号の読み筋です。今日残せるのは、数字が1つと、発行元と、母集団の1行。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS市場機会設計力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- メタ分析
- 同じテーマの研究をたくさん集めて統合し、平均的な効き目を推定する方法。1本の研究より安定しますが、集めた研究の質と偏りに左右されます。
- 統計的に有意
- 「偶然だけでは説明しにくい」という意味の専門用語。効果が大きい・重要だという意味ではありません。ごく小さな差でも、人数が多ければ有意になります。

