IN RECRUITING · ISSUE 239
● 12 SEC「紹介による採用は、定着率が25%高く、費用が50%低く、期間が30%短い。」採用の資料でよく見かける一文です。この号が見るのは、制度の作り方ではなく、3つの数字の出どころです。
引いたのは8点。査読を経た研究論文5本(1本は作業論文版と掲載版の2つの版を読んだので版としては6点)、参考図書の項目1点、解説記事1点。3つを同時に出す資料には、行き着いていません。
行き着いたのは2012年5月7日付の解説記事。10個の数字が並び、1つずつに印が付き、印は4つの別々の出所(2011年の業界団体の調査、2012年の年次指数、2011年から2012年の年次調査、2008年から2011年の自社調査)を指します。走査した限り、本文に「25%」と「30%」は無く、「50%」の3か所も費用の話ではありません。流通する3つは、この10個の中にありません。
その記事は、見きわめと評価と売り込みが合わさることで紹介はどの経路よりも優れたものになる、と書きます。10個の数字はその主張を支えるために並び、費用の行だけが逆を向きます。
逐語——"Job boards hires cost on average $1,671 versus referral hiring costs of $2,306 (only $635 more)."(求人ボード経由は平均1,671ドル、紹介は2,306ドル、差は635ドルにすぎない)。紹介のほうが高い。この行の印は4つ目、その記事を書いた側の自社調査(2008年から2011年)です。数字の持ち主と、引いた人が同じです。
差の635ドルは原典が書いています。2,306÷1,671は1.38で、紹介はおよそ38%高い。「50%低い」が正しければ835.5ドルのはず。(この割り算は原典のものではありません。)

ほかの行。速さは紹介29日・求人ボード39日・採用サイト45日。定着は1年後で紹介46%・採用サイト33%・求人ボード22%、2年後は紹介45%・求人ボード20%、3年後14%(印は2012年の年次指数)。向きだけなら紹介が良い側です。
ただし、流通する3つの比率は出てきません。29÷39は約26%短い、29÷45は約36%短い。46%と33%は13ポイント差・約1.39倍、46%と22%は24ポイント差・約2.09倍(この号の計算)。後半には印の付かない主張も——5倍採用されやすい、解雇の確率が最大350%下がる。印の有無が、同じ記事の中で混ざります。
012000年の論文は、電話センターの4,165件の応募を段ごとに数えた。紹介1,546件(37.1%)、採用327件(7.8%)。逐語——"Only 8.6% (357) of the applicants were offered a job, and 7.8% (327) of the original applicants were hired."(内定357件(8.6%)、採用327件(7.8%))。1995年から96年、面接へは60.1%。非紹介2,594件(62.2%)、紹介者1,223人、質問票は採用327件のうち233件(71.2%)。企業が払ったのは面接10ドル、採用され30日の試用を越えたら250ドル。抄録はリターンの道筋を3つに分けます。
02「応募の6%・面接の21%・内定の27%・採用の29%」は作業論文版の本文で、掲載版の抄録には無い。掲載版(2016年)の抄録が書くのは、紹介された候補者は採用されやすい、初期の賃金の優位は消える、在職期間は長い、まで。「3年で同水準」と比率は作業論文版(2012年8月・2013年6月改訂)の本文——"referred employees constitute only 6 percent of the applicant sample, but 21 percent of interviewees, 27 percent of offer recipients, and 29 percent of hires."(応募の6%・面接の21%・内定の27%・採用の29%)。95%信頼区間が一致を否定できるのは最初の2年だけ。求人ボード経由は応募の60%・面接の40%・内定と最終採用の24%。版を言わずに引くと、掲載版に無い数字が掲載版の数字になります。
03同じ電話センターの同じ2年を扱った2005年の論文は、採用を8%(336件)と書く。327件と9件ちがう。逐語——"Only 8% (336) of the original applicants were hired."(採用は8%(336件)だけ)。1995年1月から1996年12月の応募4,165件は一致し、採用数だけが食い違う。追った人数も325人と334人で9人ちがい、追跡の終わりも1998年1月と1997年6月で違う。走査した範囲では、一方の本文に他方の採用数は出てきません。なぜ9件違うのかは、書きません。抄録が書くのは、紹介による入社者は当初は非紹介者より生産的、まで——「当初は」、です。

数えられたのは、ここまで。この先には「同じような人ばかり集まるのでは」「報奨を出せば質が落ちるのでは」という論点が続き、どちらも引かれるときに向きが変わります。
01「紹介は分離を再生産すると研究で示されている」——2013年の原典はモデルの研究で、逆向きの結論も書く。抄録は、数理モデルと計算モデルで紹介者の行動が職務の分離にどう影響するかを検討する、と自分で書きます。1社のデータではありません。紹介者の行動は職務を分離しうるとしたうえで、こう続きます——"contrary to past understandings, we show that referrer behaviors can also mitigate most, if not all, of the segregating effects of network recruitment."(過去の理解に反して、紹介者の行動は分離効果の大半を緩和しうる)。片方だけを引くと、原典と逆になります。
02「報奨を出すと質の低い候補者が紹介される」——2018年の原典は、1,473人に架空の企業と職を見せた24条件の実験。抄録の逐語——"even a small referral bonus increases the likelihood that referrers will refer lower-quality candidates, and they are more likely to refer people they do not know well."(少額の報奨でも、質の低い候補者や、よく知らない人を紹介しやすくなる)。実際の紹介記録ではありません。1,473人が集められ、「7分未満の労働市場での行動に関する調査」への参加に0.75ドルが支払われた。条件は報奨額6段階(0・100・250・1,000・5,000・10,000ドル)×質2通り×近さ2通りで6×2×2=24(この号の検算)。「実際にそうなった」ではなく「そう答えた」です。
03「別々の研究が同じ向きを指している」——引いた8点のうち4点に、同じ研究者ひとりが著者として入っている。2000年の論文、2013年のモデル研究、2018年の実験、参考図書の項目の4点です。査読を経た研究論文でいえば5本のうち3本。残る2005年の論文も、2000年の共著者ひとりの単著で、同じ2年の同じデータ。だから「別々の5点が同じ向き」とは数えません。参考図書の項目(2015年・全15頁)は、書誌の種別が研究論文ではなく「その他」でした。種別を見ないと、重みを取り違えます。

比べた相手と並べ直します。費用1,671ドル対2,306ドルの相手は求人ボード(記事を書いた側の自社調査)。速さ29日対39日・45日と定着46%対33%・22%の相手は求人ボードと採用サイト(2012年の年次指数)。
応募の6%が採用の29%への相手は、応募の60%を占める求人ボード経由(米国の金融サービス企業1社の作業論文版)。4,165件が327件への相手は、同じ会社の非紹介2,594件(電話センターの2年間)。比べた相手も、測った年も、測った会社も、そろっていません。
費用が50%低いという数字を探して、
行き着いたのは、635ドル高い行だった。
全文まで読めたのは8点のうち5点、残る3点は公式の抄録まで。読めていないものについては書きません。2000年の論文の全文は、共著者本人が大学のページに置いた版面スキャンで、発行元の版ではありません。
測られたのは米国の、記録が電子的に残る組織——電話センター1社、その入社後、金融サービス企業1社、仮想の場面の実験1本。日本の職場の紹介採用を対象にした査読研究には、行き着けませんでした。声をかけようとしてやめた側は、応募の記録に残りません。
TRY IT TODAY
- 01LIST
紙かメモを開き、紹介で入った人、または自分が紹介した件を最大5件まで挙げる。**名前は書きません。**年だけ添える。
- 02MARK
各件の横に、二人の関係を一語(同じ職場/学校が同じ/知人の知人/よく知らない)。続いている/途切れた/分からないから1つ。
- 03COUNT
「続いている」が何件かを、1つの数として書く。研究の値と比べるための数ではありません。
年代順に。2000年と2005年、同じ電話センターの4,165件の記録が測られる。2008年から2012年、4つの調査が数字を出し、2012年5月、その数字が記事に10個並んで印が付く。2016年、6%・21%・27%・29%と「3年で同水準」が掲載版の抄録から落ちる。2018年、1,473人・24条件の仮想の場面。
そして、印の付いた10個の外側で、出所の書かれていない3つが流通していく。18年で厚くなったのは、証拠ではなく引用の層でした。
確かめられたのは3つ。3つを同時に出す資料には行き着いていないこと。到達した記事に「25%」と「30%」は無く、費用の行だけが逆を向いていたこと。同じ2年を、2つの論文が327件と336件と印字していたこと。今日残せるのは判定ではありません。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUSリファラル採用ループ設計力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 95%信頼区間
- 推定値の「ばらつきを見込んだ幅」。同じ研究を何度もやり直したら、結果の多くがこの幅に収まると期待できます。幅が0(差なし)をまたぐときは、明確な差とは言い切れません。
