IN RECRUITING · ISSUE 238
● 12 SEC「エンゲージメントが高い組織は強い。」よく見かける言い方です。この号が見るのは、高いか低いかではなく、その言葉を提案した側が自分でどう書いたか。あわせて、よく引かれる比率の分母です。
出発点は1冊の雑誌です。2008年3月、Industrial and Organizational Psychology 第1巻第1号は、pp.3-30 に焦点論文、pp.31-75 にコメンタリー13本、pp.76-83 に同じ著者2名の応答を頁順に載せました。3ページ目から83ページ目まで、81ページ分。引用すれば3つの文献ですが、もとは続いた紙面です。
その焦点論文の抄録は、こう始まります——"The meaning of employee engagement is ambiguous among both academic researchers and among practitioners who use it in conversations with clients."(意味は、研究者のあいだでも、クライアントと話す実務家のあいだでも、あいまいである)。批判者の言葉ではありません。同じ論文が、そのあと定義を立て直す提案を並べます。
二つの書誌データベースで別々に数え直すと、pp.31-75 のコメンタリーは13本、頁は31から75まで途切れません。名を連ねるのは延べ26名、単著は5本(pp.40-43・pp.67-69・pp.70-71・pp.72-73・pp.74-75)。13人ではなく、13本と26名です。同じ号は pp.84-146 に別主題の往復をもう1組載せます。
本文で書くのは、たとえば三か所。表面上は説得力があるが、概念の意味は明確でない(p.3)。"the question remains as to whether engagement is a unique concept or merely a repackaging of other constructs"(独自の概念なのか、他の構成概念の詰め替えにすぎないのか、という問いは残る)——p.4。原典はこれを1927年の「ジャングル錯誤」と呼びます〔名前が違えば中身も違うはず、という取り違え〕。調査項目が満足度調査と似ていることは混同を示す(p.7)。
ただし「意味が不明確だ」で終わりません。同じ論文が、状態・行動・特性の3側面についての命題と、職務特性・リーダーシップについての命題を合わせて、番号を振った14の命題を並べます。冒頭で引かれる「収益との関係」も、あるHRコンサルティング会社が自社の資料で述べた自称です。焦点論文が出した結果ではありません。会社名は書きません。

提案があって、反論が13本来た。ところが、最後の8ページで向きが変わります。著者2名が、何に同意したかを書いているからです。
01焦点論文(pp.3-30)は、抄録の1文目で「あいまいである」と書き、同じ論文で14の命題を並べている。本文も p.3・p.4・p.7 で不明確さを繰り返し、そのうえで Proposition 1 から 14 までが並びます。この号が本文の全文まで読めた、ただ1件です。全文を走査しても、無作為な割り付けを指す語は出ません——人を集めた研究ではないのです。
02同じ号の応答(pp.76-83)は、「新しい構成概念ではない」というコメンタリーの言い分に同意すると書いている。読めたのは公式の抄録まで。同意した先は"engagement is not a new construct but one that required clarification vis-a-vis existing constructs"(新しい構成概念ではなく、既存の構成概念との関係で明確化を必要としていたものだ)。同じ抄録は、すべての従業員の態度が等しいという考えには同意しないとも書きます。
03「独自の概念か」への答えは、比べる相手で逆を向いた。2011年の統合と、2012年の統合。2011年の統合は職務態度と比べ、弁別的妥当性と、それを超える基準関連妥当性を示すと結論。2012年の統合はバーンアウトと比べ、50の独立した標本(37の研究)で、統制すると効果量が実質的に減り、弁別性への疑いは憶測として退けられないと結論。どちらも査読誌です。読めたのは抄録までで、増分の大きさを表す数値はその範囲にありません。

「世界で熱意をもって働く人は◯%しかいない」——よく引かれる数字です。見たのは、2025年1月から12月のデータを載せた版の発行元の公開頁。2025年に20%へ下がり、2020年以降で最も低い、とあります。"the world's employee engagement has dropped to 20% from its peak in 2022 of 23%"(2022年のピークの23%から20%へ)。差は3ポイントで、3%ではありません。
効くのは値より分母です。同じ頁が書くのは3つ。回答者263,810人のうち、雇用されていると分類されたのは141,444人、53.6%(141,444 ÷ 263,810 = 0.536)。対象は雇用主に雇われて何時間でも働く15歳以上の成人で、標本は140を超える国と地域にまたがり、まれな例外を除いて確率標本。分類は12項目の質問群への答えに独自の計算式を当てた3区分です。この20%は、全人口でも全労働力人口でもありません。
01「あいまいだと言ったのは、外から来た批判者だ」——書いたのは、提案した側の抄録の1文目だった。p.3・p.4・p.7 の指摘も、同じ論文の本文です。ただし、反対側へ振り切らないでください。「だから中身が無い」とは、この号のどの資料にも書かれていません。
02「言い換えにすぎないことは、研究で決着している」——決着していない。職務態度と比べれば弁別的妥当性を示し、バーンアウトと比べれば疑いは退けられない。何と比べるかを決めないと、増分の有無は決まりません。2本とも既存研究の相関を集めた統合で、抄録の範囲に、人を無作為に割り付けた記述はありません。
03「世界で熱意をもって働いているのは20%」——その分母は、雇用されていると分類された回答者だった。分母は、雇用されていると分類された141,444人のほうです。同じ頁は、2024年から2025年に管理職が27%から22%へ5ポイント下がったとも書きます。査読を経た刊行物ではありません。

本文の全文まで読めたのは、7件のうち1件です。読めていないものについては書きません。内訳は全文1件・公式の抄録3件・書誌だけ2件(pp.31-35 と pp.40-43)・発行元の公開頁1件、1 + 3 + 2 + 1 = 7。この2件は行き着けなかったのではなく、出版社の頁がどちらにも「この内容には抄録が無い」と印字しています。書けるのは表題と頁と種別まで。
統合2本は既存の研究を集めたもので、その国や職種の内訳は抄録の範囲では分かりません。7件のうち、日本の職場を名指しで対象にした検証も見当たりません。pp.3-30 と pp.76-83 は同じ著者2名、2011年の統合は pp.3-30 の枠組みの上——7件が7つの独立した証言ではありません。「こうすれば上がる」を確かめた研究も、読めた範囲にありませんでした。
「意味はあいまいである」と書いたのは、
批判した側ではなく、提案した側でした。
次の3手も、研究が命じた順番ではありません。質問文を数えたとき何が起きるかを確かめた研究は、ありません。点数は見ません。誰も評価しません。
TRY IT TODAY
- 01COPY
従業員向けの調査を1つ選び、「エンゲージメント」の名前で集計されている質問文だけを書き写す。**点数も回答も集計結果も写しません。**手元に無ければ、公開されている調査の項目でも。
- 02LABEL
1項目ずつ、(あ)満足 (い)愛着 (う)意欲のどれかへ言い換え、どれにもならなければ(え)と記す。迷ったら(え)ではなく、いちばん近いものを選びます。
- 03COUNT
最後に、項目の総数と、(え)が付いた数の2つの数を書く。それで終わりです。研究の値と比べるためではなく、既存の言葉にどれだけ置き換えられたかを見る数です。
2008年3月、焦点論文が「あいまいである」と書いて14の命題を並べ、同じ号にコメンタリー13本(延べ26名・単著5本)が並び、最後で同じ2名が「新しい構成概念ではない」に同意する。2011年、職務態度と比べた統合が「弁別的妥当性を示す」と結論し、2012年、バーンアウトと比べた統合(50標本・37研究)が「疑いは退けられない」と結論する。そして毎年、140を超える国と地域で測られる。
18年で決まったのは定義ではなく、その名前で毎年測られる仕組みでした——というのが、この号の読み筋です。確かめられたのは三つ。「あいまいである」が焦点論文の抄録の1文目で、同じ論文が Proposition 1 から 14 までを並べたこと。81ページ分が頁順に途切れなかったこと(28 + 45 + 8 = 81)。応答が「新しい構成概念ではない」に同意したこと。今日残せるのは判定ではありません。質問文の写しと、その札と、2つの数。記録が1件、残るだけです。
SECOND LAYER · FULL SYLLABUS組織エンゲージメント・ロイヤルティ形成力を、もっと深く学ぶ。→HOW TO READ THE NUMBERS数字の読み方+
この号に出てくる統計の言葉です。数値は原典のまま、意味だけをほどいています。
- 効果量
- 差や関連の「大きさ」を、単位の違う研究どうしでも比べられるようにした共通の物差し。「効果があるか」ではなく「どれくらいか」を表します。
